取締役
株式会社アドバンスト・ ソリューションズ マネージング・パートナー
阿部 敦
取締役会議長インタビュー

阿部 敦 取締役 株式会社アドバンスト・ソリューションズ マネージング・パートナー

2023-2025年度中期経営計画(新中計)策定にあたっての取締役会における議論のポイントと、2022年度の指名委員会の活動について、取締役会議長であり、指名委員会委員長も務める阿部取締役にお聞きしました。

Q. 2023年6月までの1年間の取締役会の主な活動について教えてください。

A. 3つの戦略的テーマに優先的に時間を配分しました。取締役会として最も時間を費やしたのは新中計に関わる議論です。2023年5月の発表に向けて、2030年のあるべき姿、それを実現するための経営戦略、2030年のあるべき姿からバックキャストして3カ年の事業計画と2025年度の財務・非財務目標についてほぼ1年間にわたり相当踏み込んで意見を交わしました。また、新中計と併せて刷新したマテリアリティについても、グローバルな情報開示要請などの動きも踏まえて検討しました。
2点目は役員・社員の報酬制度の改善です。すでに2022年度に業務執行取締役の役員報酬基本方針を変更しましたが、日本の社員の報酬水準を中心に見直すべき点がまだあるとの認識に基づき、議論を継続しました。
3点目はシステム品質と情報セキュリティ管理体制の監督です。2021 年度に発生した情報セキュリティインシデントを受けて設置された第三者からなる検証委員会から受けた改善提案が、具体的なアクションに結び付いているかをモニタリングしてきました。

Q. 新中計に関わる議論では何が論点となったのでしょうか。

A. いかに成長を実現するか、に尽きます。当社グループの現在の収益基盤は、オンプレミス型のシステムを開発・運用するシステムインテグレータとして発展してきたいわば「過去のレガシー」の上に築かれています。新中計においてもモダナイゼーションの支援という形でこれまでに培ったレガシーを土台にした事業が大きな位置を占めますが、そのさらに上に積み上げる成長事業としてFujitsu Uvanceの特にVertical areasをどのように展開するのか、当社の競争優位性をどのように発揮するのか、重点的に議論しました。また、この議論に合わせて、私たちが注力する事業とその成長をグループ内外に明示することを目的に、事業セグメントを変更することも決定しました。
取締役会における戦略の議論は、新中計発表で完了ではありません。新中計期間中にどこまで成長を積み上げることができるのか、どのようにその成長を加速すべきか、取り組みの進捗とその成果をモニタリングしながら、今後も議論を続ける考えです。

Q. マテリアリティについてはどのような議論が行われたのでしょうか。

A. 当社グループは従来GRB(グローバルレスポンシブルビジネス)の枠組みでサステナビリティ経営を推進してきましたが、今般改めて、デジタルサービスを通じて社会に提供する価値を「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」と明示し、その実現に向けた具体的取り組み項目をマテリアリティとして整理しました。
取締役会における議論で意識したのは、社員の価値観の反映です。10年後には、ミレニアル世代とそれ以降に生まれた世代が労働人口の過半数を占めます。これらの世代の多くの人々が、社会への貢献が企業の存在意義や使命であり、また、自らの価値観に合致しない企業では働きたくないと考えていることが、様々な調査から明らかになっています。反対に言えば、彼らの価値観を反映しない企業は、人材の獲得ができず、持続的な成長を遂げられない可能性があるわけです。マテリアリティの設定にあたっては、当社グループが世の中にとって必要な企業、良い企業であるといった表層的なメッセージ発信に終わらないことも重視しています。今後は、事業活動を通じて社会価値を創出し、それを企業価値につなげていくための具体的な取り組みへの落とし込みをモニタリングしていきます。

Q. 役員・従業員の報酬制度の見直しの内容や狙いについてお聞かせください。

A. 人的資本投資の一環として、国内社員の月額賃金を平均10%、最大29%引き上げることを、2023年4月に決定しました。背景にあったのは、グローバルに競争するには、グローバルなITサービス産業全体の人材獲得競争の中で優秀な人材を引き付けねばならないにもかかわらず、特に日本国内の社員の報酬水準が低すぎるという問題意識です。また、株主・投資家の皆様との視点を合わせることを目的に、現行の社外取締役の報酬水準は変更することなく、その一部を現金に代わり譲渡制限付株式ユニットで支払う事後交付型株式報酬制度に関する議案が、6月の株主総会で承認されました。さらに2023年7月には、新中計に掲げた財務・非財務目標と執行取締役の報酬を連動させることを目的に、報酬委員会からの答申に基づき役員報酬基本方針を改定しました。

Q. システム品質・情報セキュリティ管理の監督についてはどのような進捗がありますか。

A. システム品質・情報セキュリティに関しては、大規模システム障害と情報セキュリティインシデントの発生を受けて体制強化がまさに進行している中で再びシステム品質の問題が発生したことを、取締役会としても重く受け止めています。システム品質と情報セキュリティは、当社グループの事業の根幹です。最高品質責任者であるCQO(Chief Quality Officer)と最高情報セキュリティ責任者であるCISO(Chief Information Security Officer)の下で再編した体制と再発防止に向けた改善施策の実施状況を、継続的にモニタリングしていきます。

Q. 指名委員会の活動についてもお聞かせください。

A. 2020年から取締役を務めてこられたスコット キャロン氏から、当社以外の任務の増加に伴い、2023年6月の任期満了での退任が申し入れられました。キャロン氏と同様に資本市場の声を直接取締役会に届けてくれる人材を探した結果、資産運用会社の経営者であり、財務・投資に関する知識と実務経験が豊富で、日本企業についても熟知しているという、まさに当社が求める要件を満たすバイロン ギル氏を、株主総会での承認を経てメンバーとして迎えることができました。CEO、CFOを中心とする将来の経営層のサクセッションプランニングは、適切な運用がなされていると考えています。候補者の定期的なアセスメントに基づき、将来期待される役割に対する適格性、スキルや経験を含めた準備状態を指名委員会で確認するとともに、指名委員会のメンバーが人となりも含めて直接候補者を知るためにコミュニケーションを取る機会も設け、将来の経営層を継続的に育成しています。

Q. 最後に、取締役会議長として2024年6月までの1年間の課題についてお聞かせください。

A. 新中計に対する株主・投資家の反応は、Fujitsu Uvanceを中心とするデジタルサービスの成長という方向性については納得しつつも、財務目標の達成についてはやや懐疑的というものであったと理解しています。こうした疑念を払しょくするには、売上収益や営業利益率といった業績だけでなく、私たちのコミュニケーションの「粒度」を細かくし、成長の道筋をより具体的に示さねばなりません。成長戦略の進捗を監督するとともに、株主・投資家の皆様とのコミュニケーションに資する情報開示の在り方についても、取締役会で議論していきたいと考えています。