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刑事事件で上告後、最高裁判決に対する異議申立てはできるか

日本の刑事裁判においては、「三審制」といって、3回まで裁判を受ける機会が保証されています。地方裁判所の第一審、高等裁判所の控訴審、最高裁判所の上告審の3回です。そのため、上告審で下される最高裁判決は、司法機関の最終判断です。

しかし、裁判官も人間であり、完璧ではないため、ケースによっては最高裁判決が下された後でも、訂正申立、異議申立といった方法によって不服を申立てられる場合があります。

今回は、刑事事件の上告審判決(最高裁判決)に対する異議申立てについて、弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士法人浅野総合法律事務所、代表弁護士。

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

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刑事事件の上告審判決(最高裁判決)とは

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地方裁判所で行われる第一審に不服があるときは「控訴」をし、さらに高等裁判所で行われる控訴審に不服があるときには「上告」をした後、最高裁判所が行うのが、上告審判決(最高裁判決)です。

三審制とは
三審制とは

最高裁判所には合計15人の裁判官が所属しており、そのうち5人の裁判官が判断する判決を「最高裁小法廷判決」、15人の裁判官全員で判断する判決を「最高裁大法廷判決」といいます。

最高裁判所は、「憲法違反」、「重要な法律違反」がないかどうかをチェックする裁判所であり、「事実認定(どのような事実があったか、なかったか)」を判断する裁判所ではありません。そのため、刑事事件における最高裁判所の審理(上告審)では、通常は期日は開かれず、被告人質問、証人尋問等が行われることもなく、書面の交換によって主張立証を行います。

刑事事件における上告審判決(最高裁判決)は、次のような内容となります。

上告棄却

被告人による上告に理由がないとき行われる最高裁判所の処分が、「上告棄却」です。

上告が認められ、最高裁判所の審理を得られる場合は限定されていることから、「憲法違反」等の上告理由を無理やりこじつけて上告を行ったケースなどでは、「上告棄却」という判断となる例は少なくありません。

刑事事件における「上告棄却」には、専門用語でいうと「上告棄却の決定」と「上告棄却の判決」とがあります。

刑事事件について最高裁に不服(上告)を申し立てるためには、憲法違反等の一定の要件が必要となるのですが、その審理の結果によって、次のとおり分類されます。

上告棄却の決定

上告の主張が、明らかに憲法違反の主張ではない場合

上告棄却の判決

上告の審理を行って、憲法違反ではないとの判断を下す場合

破棄自判・破棄差戻し

高等裁判所(控訴審)の判断に、憲法違反、重要な法律違反、判例違反などがあり、上告に理由があることが明らかとなったとき行われる最高裁判所の処分が、「破棄」です。

最高裁判所が「破棄」の判断をすると、高等裁判所の判断が取り消されることとなります。

「破棄」の判断の後、最高裁判所が法的な判断を下すものを「破棄自判」といいます。

しかし、最高裁判所には、法律判断を下す権限しかなく、証拠調べや事実認定を行うことはできません。正しい判断に変更するために、新たな証拠調べや事実認定が必要なときには、高等裁判所にやり直しを命じる「破棄差戻し」となります。

刑事事件の最高裁判決に対する不服申立

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刑事事件について、最高裁判所は、「三審制」をとる日本司法の最終判断機関ですから、これよりも上位の裁判所に対して不服を申し立てることはこれ以上はできません。

しかし、最高裁判所の裁判官とはいえ人間ですから完璧というわけではありません。そのため、法制度上、最高裁判決(上告審判決)に対して不服を申し立てるために、2つの制度が用意されています。

それが「訂正申立て」と「異議申立て」の制度です。これらの制度は、刑事事件の被告人にとって不利な判断である「上告棄却」の判断を受けたときに利用することができます。

訂正申立て

刑事事件において最高裁(上告審)が「上告棄却の判決」を下したとき、被告人側が行える不服申立ての方法が「訂正申立て」です。「訂正申立て」は、最高裁(上告審)の上告棄却の判決に対して、記載上の形式的な訂正を依頼する制度です。

「訂正」という文言からも理解頂ける通り、誤記の訂正などがメインで、主張の追加や変更はできません。訂正の申立ては、最高裁判所の判決言い渡しを受けてから10日以内に行う必要があります。

「訂正申立て」について定める刑事訴訟法の条文は、次の通りです。

刑事訴訟法415条

1. 上告裁判所は、その判決の内容に誤のあることを発見したときは、検察官、被告人又は弁護人の申立により、判決でこれを訂正することができる。
2. 前項の申立は、判決の宣告があつた日から十日以内にこれをしなければならない。
3. 上告裁判所は、適当と認めるときは、第一項に規定する者の申立により、前項の期間を延長することができる。

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異議申立て

刑事事件において最高裁(上告審)が「上告棄却の決定」を下したときに、被告人側が行える不服申立ての方法が「異議申立て」です。

「異議申立て」は、「上告棄却の決定」の言い渡しを受けてから、3日以内に行わなければなりません。保釈されて、在宅で裁判を継続していたけれども、上告棄却によって実刑判決が確定してしまった場合には、その後に出頭要請を受けることとなります。

「異議申立て」について定める刑事訴訟法の条文は、次の通りです。

刑事訴訟法404条

前章の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、上告の審判についてこれを準用する。

刑事訴訟法(e-Gov法令検索)

刑事訴訟法385条

1. 控訴の申立が法令上の方式に違反し、又は控訴権の消滅後にされたものであることが明らかなときは、控訴裁判所は、決定でこれを棄却しなければならない。
2. 前項の決定に対しては、第四百二十八条第二項の異議の申立をすることができる。この場合には、即時抗告に関する規定をも準用する。

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刑事訴訟法386条

1. 左の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。
一 第三百七十六条第一項に定める期間内に控訴趣意書を差し出さないとき。
二 控訴趣意書がこの法律若しくは裁判所の規則で定める方式に違反しているとき、又は控訴趣意書にこの法律若しくは裁判所の規則の定めるところに従い必要な疎明資料若しくは保証書を添附しないとき。
三 控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に該当しないとき。
2. 前条第二項の規定は、前項の決定についてこれを準用する。

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刑事訴訟422条

即時抗告の提起期間は、三日とする。

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刑事訴訟法428条

1. 高等裁判所の決定に対しては、抗告をすることはできない。
2. 即時抗告をすることができる旨の規定がある決定並びに第四百十九条及び第四百二十条の規定により抗告をすることができる決定で高等裁判所がしたものに対しては、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。
3. 前項の異議の申立に関しては、抗告に関する規定を準用する。即時抗告をすることができる旨の規定がある決定に対する異議の申立に関しては、即時抗告に関する規定をも準用する。

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期間計算のルール

以上の通り、刑事事件における最高裁の判断に対して不服を申し立てることを検討する場合には、「10日」、「3日」という期間制限を遵守しなければなりません。

この点で、刑事事件の裁判における期間計算のルールは、刑事訴訟法という刑事事件の裁判のルールを定める法律にくわしく定められています。

刑事訴訟法55条

1. 期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで1日としてこれを計算する。
2. 月及び年は、暦に従つてこれを計算する。
3. 期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日、1月2日、1月3日又は12月29日から12月31日までの日に当たるときは、これを期間に算入しない。ただし、時効期間については、この限りでない。

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刑事訴訟法56条

1. 法定の期間は、裁判所の規則の定めるところにより、訴訟行為をすべき者の住居又は事務所の所在地と裁判所又は検察庁の所在地との距離及び交通通信の便否に従い、これを延長することができる。
2. 前項の規定は、宣告した裁判に対する上訴の提起期間には、これを適用しない。

刑事訴訟法(e-Gov法令検索)

したがって、刑事事件の最高裁判決(上告審判決)に対する訂正申立て、異議申立てはそれぞれ、「判決が送達された日の翌日」から起算して、10日以内、3日以内に行わなければなりません。

また、判決送達日の翌日から上記の日数を数えた最終日が、土日祝日の場合には、その翌日が期間満了の日となります。

最高裁判決(上告審判決)はいつ「確定」する?

最高裁判所(上告審)による「上告棄却」の決定ないし判決を受けてから、異議申立て、訂正申立てを行わずに所定の期間を経過した場合には、判決が「確定」します。

また、上告棄却の決定に対する異議申立て、上告棄却の判決に対する訂正申立てを行ったものの、認められなかった場合にも、最高裁判決が「確定」します。

つまり、最高裁判所(上告審)による決定や判断に対して不服の申立てを行うことによって、最高裁判決(上告審判決)の確定を、先延ばしにすることができるということです。

まとめ

今回は、刑事事件において最高裁判決(上告審判決)が下されたとき、これに対しても不服申立てができるかどうかについて、弁護士が解説しました。

上告棄却の決定に対する異議申立て、上告棄却の判決に対する訂正申立てはいずれも、期間の制限がある制度であるため、他の刑事事件にも増してスピードが重要となります。

控訴審、上告審の手続は、第一審における手続とは異なる特殊な部分が多いため、刑事事件の中でも、特に上訴審の経験を有する弁護士にお任せください。

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