イーヴォ・ポゴレリチ ピアノリサイタル(2015年3月、ドイツ・ハンブルク) | クラシック音楽と食べ物と。。。

クラシック音楽と食べ物と。。。

ヨーロッパでの生活を振り返るブログ。

今日は2015年3月ドイツ・ハンブルクからです。

 

イーヴォ・ポゴレリチ(Ivo Pogorelich)のピアノリサイタルが、ライスハレで行われました。

イーヴォ・ポゴレリチは1958年旧ユーゴスラヴィアベオグラードクロアチア人セルビア人の両親のもとに生まれます。モスクワ中央音楽学校チェイコフスキー記念モスクワ音楽院などで学びますが、このころから既に教師への衝突、問題行動などを起こしています。生来反骨精神旺盛な人のようです。1976年からアリザ・ケゼラーゼ(Aliza Kezheradze)に師事します。ポゴレリチは22歳の時に、20歳以上年上のアリザ・ケゼラーゼと結婚したんですよね。それはさておき、ポゴレリチはいくつかのコンクールで優勝し、1980年にショパンコンクールに臨みます。ここで「ボゴレリチ事件」と呼ばれる有名な事件が起きます。あまりにも奇抜な演奏に、本選に通過できなかったのですが、審査員をしていたマルタ・アルゲリッチが異を唱え審査員を降りてしまいます。「彼こそ天才よ!!」と言ったとか。特別に記者会見が開かれたり、ボゴレリチに審査員特別賞が贈られたりと、大変な騒ぎになったようです。しかし、これが幸いしたのかわかりませんが、ポゴレリチはここから一気にその名前が世の中に知られることになり、数々のリサイタル、著名オーケストラとの共演などを重ねることになります。少々異色のピアニストではありますが、日本でも繰り返し演奏会を行っていて、お寺で演奏したりと、日本でもよく知られたピアニストではないでしょうか。

 


リスト: ダンテを読んで


最初の曲は、

リスト: ダンテを読んで:ソナタ風幻想曲(巡礼の年 第2年 イタリアより)

Franz Liszt: Après une Lecture de Dante, Fantasia quasi Sonata d-Moll Nr. 7 aus "Années de pèlerinage" II G 161 Deuxième année: Italie

 

ダンテを読んで」は、フランツ・リストが自ら訪れた土地からインスピレーションを受けて作曲した「巡礼の年」の「第2年:イタリア」に収録されている曲です。「第2年:イタリア」は、1838年くらいから作曲が始まり、最終出版されたのは1858年のことです。この当時、リストが付き合っていたのはマリー・ダグー伯爵夫人ですが、二人でイタリアに滞在した時に着想を得たようです。ちなみに、マリー・ダグー伯爵夫人との間には3人の子供をもうけますが、そのうちの一人が後にワーグナーの妻となるコジマです。

ダンテを読んで」はこの「イタリア」の7曲目に収録されており、ダンテの叙事詩「神曲」に着想を得たものです。題名の方は、ヴィクトル・ユーゴ―神曲地獄編を描き出した詩からとられているようです。この曲では、1オクターブを二分するため忌み嫌われ「音楽の悪魔」と呼ばれる「増4度」が使われ、正に地獄の様子がピアノで再現されます。地獄のすさまじさ・激しさをよく表現している曲ですが、そこはリスト、それだけではなく何やら甘くそして魅惑的な美しさを秘めた曲です。ある意味、悪魔的な魅力を持った曲です。ピアノ技巧面でも悪魔的な曲であります。。。

 


シューマン: 幻想曲


2曲目は、

シューマン: 幻想曲 ハ長調

Robert Schumann: Fantasie C-Dur op. 17

 

シューマンの代表的なピアノ曲の1つである幻想曲は、1836年から1838年にかけて書かれます。

1835年にリストが発起人となってドイツボンベートヴェンの記念碑を建てることになりますが、シューマンも発起人の一人になり、この曲を作曲します。当時シューマンは、クララとの結婚に反対され、クララの父親であるフリードリヒ・ヴィークとの闘いを繰り広げていました。その中でクララへの愛を募らせ、そして生まれてきたのが「ピアノソナタ第1番」から始まり「クライスレリアーナ」「幻想曲」に至る一連の作品でした。そういう意味で、この幻想曲は、ベートヴェンへの愛、そしてクララへの愛に詰まった曲だと言えると思います。

ベートーヴェンの「遥かなる恋人に寄す」が引用された第一楽章。凱旋行進のような第二楽章。そしてなんとも穏やかで幻想的な第三楽章。なんともシューマンらしい、愛が詰まってロマンティックで、でもそれだけでは済まさない深~い曲です。

 


ストランヴィンスキー: ペトルーシュカ


休憩を挟んで3曲目は、

ストランヴィンスキー: ペトルーシュカ

Igor Strawinsky: Petruschka - drei Stätze für Klavier

 

ペトルーシュカといえば、どうしても「のだめカンタービレ」でのシーンがあまりにも印象的で、キューピー3分間クッキングの曲が頭に浮かんでしまいます。もともと、ペトルーシュカストラヴィンスキーが1911年にバレエのために作曲した曲ですが、1921年に作曲者自身がピアノ曲に編曲し、「ペトルーシュカからの3楽章」として世に出されます。演奏困難曲のひとつです。

ペトルーシュカは、魔術師によって命を与えられた3体のパペット(人形:ペトルーシュカ、バレリーナ、ムーア人)の話ですが、ペトルーシュカは主人である魔術師からも虐げられ、恋心を抱くバレリーナには相手にされず、最後はムーア人に殺されてしまうという、なんとも救いのない話です。この中から、「ロシアの踊り」、「ペトルーシュカの部屋」、「謝肉祭」の3曲が「ペトルーシュカからの3楽章」としてピアノ曲に編曲されています。音楽的にどうなのかという気がしなくもないのですが、それでもやたら印象に残る曲であることは否定できません。

 


ブラームス: パガニーニの主題による変奏曲


最後に演奏されたのは、

ブラームス: パガニーニの主題による変奏曲

Johannes Brahms: Variationen über ein Thema von Niccolò Paganini

 

ヴァイオリンの超絶技巧奏者としても有名だったニコロ・パガニーニの「24の奇想曲」の最終曲からとられたパガニーニの主題をモチーフに変奏が繰り返されて行きます。最初に主題が演奏され、その後第一部として14の変奏曲、第二部でさらに14の変奏曲が演奏されます。

1962年から1963年にかけて作曲されたこの曲、ちょうどブラームスが故郷ハンブルクを去り、ウィーンに居を移した時期でもあります。この曲も、超絶技巧曲の一つですが、なんといっても1つのテーマを28の変奏曲に仕立て20分以上に渡る大曲に仕上げたブラームという作曲家のすごさにも脱帽です。

 

イーヴォ・ポゴレリチ、かなり力強い演奏で、身体全体で鍵盤にたたきつけている感じです。かなり指が強そう。これだけのパワーを鍵盤に伝えられるものかと思うほどで、唯々驚きです。しっかりとした打鍵をするために、フレーズの間にどうしても間ができる箇所があり、それが少々気になりました。そしてやはり奇抜な解釈。ポゴレリチ節爆発です。お客さんの反応もよく熱狂的な拍手が送られていました。ちょっとびっくりしたのは全曲譜面見て弾いていたことで。譜めくりの人がついてました。それにしても、この選曲。これだけの難曲をよくも並べたものだと感心します。イーヴォ・ポゴレリチ、やはり噂通りの異色のピアニストでした。