本日はチェッカーズ「Cherie」(1989年リリース) です。
1986年以降、チェッカーズのメンバーによってオリジナル楽曲制作をするようになりました。その中で、サックス担当の藤井尚之さんと共に多くの曲をシングルA面曲に採用され、ヒットを連発していたメンバーの1人が鶴久政治さん(サイドボーカル) でした。
以前紹介した「Jim & Janeの伝説」も鶴久さんによる作曲作品ですが、チェッカーズメンバーの中でも随一のメロディーメーカーとして、オリジナル化以後のチェッカーズのサウンドメイクを支えた立役者でした。チェッカーズの1st.アルバム『絶対チェッカーズ!!』においても既に2曲の作曲を行うなど、当時から旺盛的に作曲をしてきていました。1985年の後半頃には既存の提供曲による作品にメンバーが徐々に不満が生じてきたこともあり、「NANA」から完全なオリジナル化に移行していきます。チェッカーズのオリジナル化以後は8曲のシングルA面曲を手掛けており、藤井尚之さんと並んで最多の作曲を行ってきました。(これはチェッカーズの別名義である「Cute Beat Club Band」の「7つの海の地球儀」を含めた数)
また、1987年には「Cute Beat Club Band」名義でのアルバム『NOT CHECKERS -円高差益還元ライブ』で、大半の作曲を手掛け、これを聴いた当時のディレクターが気に入ったことから高井麻巳子さん・岩井由紀子さんに楽曲提供を行ったことで、作曲家としてもその力を存分に発揮し、1989年に沢田研二さん、1991年には光GENJIに提供しています。2022年4月にはアイドルグループ・STU48に「花は誰のもの?」を作曲し、曲が大ヒットして話題となるなど、ヒットメーカーとして再び注目を集めるようになっています。
またチェッカーズでの担当はサイドボーカルで、低音の高杢禎彦さんに対して高音域を担当しており、ファルセットを守るため、チェッカーズメンバーで唯一酒もタバコも嗜まなかったといいます。その澄んだコーラスは高い評価を得ています。また、ギター・キーボードの演奏も出来ることもあり、作曲自体も趣味の延長線上で行っていたこともあり、苦ではなかったこともあり、メロディーメーカーとしての幅も大きかったことも、多くの名曲を生み出す元となりました。
そんな鶴久さんが作曲したシングルA面曲のひとつがこの「Cherie」です。
この当時、ボーカルの藤井郁弥さんは、TBS系ドラマ「オイシーのが好き!」に俳優として出演しており、主演の松下由樹さん演じる水島ユキの高校時代の先輩・山岸雅人を演じていました。雅人は土田由美さん演じる石垣明子と同棲するほどの関係であるにも関わらず、ユキにもアプローチをかけるという役でした。
主題歌こそ永井真理子さんが担当しましたが、このドラマの関係性や自分の役柄をイメージしてフミヤさんが歌詞を作ったのがこの「Cherie」でした。
「遠ざかる雨雲を」
「濡れたまま 見詰めていたのさ」
歌詞のイメージとしては「別れ」「未練」が浮かぶようなものとなります。ここでは背景が出てきます。雨に降られ、君にフラれた僕。そんな雨雲が無情にも遠ざかるのをただただ見つめる、切ない風情を感じます。
「追い掛けて 抱きしめたら」
「悲しみを今は繰り返す」
まだ未練を感じる僕。まだ君は近くにいます。君を追い掛けて、離れたくないと君を抱きしめますが、君は拒絶します。別れたことを実感して、再び悲しみを感じます。
「Cherie Cherie」
「傘投げ捨て バスの窓を叩いた Oh Oh...」
君は僕を振り切ってバスに乗りこみます。僕は君の名を何度も呼び、持っていた傘を捨てて、窓際に座る君を呼んで、窓を叩きます。
「Cherie Cherie please don't go」
(シェリー、シェリー、お願いだから行かないで!!)
「なぜ内緒で 自分を責めるの」
本当は君は何も悪くないのに、全て君のせいにしてきた、最低の僕。自分を責めることもないのに、黙って自分のせいにしていたことを知った僕は、離れたくない、行かないでくれと必死になっています。
「この恋が決められた運命なら」
「せめて時を越えて 通り過ぎたい」
サビのメロディーはとにかく切ない、何処か叙情てきなものを感じます。そしてこの歌詞。間違いなく1989年の曲の中でもメロディーと歌詞の調和が1番優れた曲だと思います。離れ離れになるのが決まった運命ならば、時を巻き戻すのではなく、想い出をそのまま引き連れて、今だけ通り過ぎてそのままの関係で居たかったというものだと思います。鳥肌が立つような歌詞とメロディー。フミヤさんと鶴久さんの相性がいかに良いかが分かります。
「走り出す硝子越し 涙の笑顔で」
「空を指差して 呟いた」
無情にも君を乗せたバスは僕を置いて走り去っていきます。そんな刹那に見せた君の泣いた顔は笑顔。別れは切ないけど、笑顔で関係を終わらせたい君の最大限の配慮なのかもしれません。そんな君の気持ちを汲み取り僕も別れを受け入れ、笑顔で別れを告げます。そして雨雲が遠くに見える空を指差して、走り去った君にこう呟きます。
「もう言わないよ 通り雨だね」
「I love Cherie」
先程も記したように、フミヤさんと鶴久さんの歌詞・メロディーの調和が良い、上質なミディアム・ポップスとなってます。徳永善也さんのドラムはいつ聴いても個性的で素晴らしいドラミングを披露しています。大土井裕二さんのベースは歪んだ太いベース音が特徴的で、曲の根幹を支えています。対して武内享さんのエレクトリック・ギターはクリーンなトーンです。尚之さんはソプラノ・サックスを吹いており、普段のサックス・ソロとはまた違った音色を披露しています。
この曲は鶴久さん自身もかなり気に入っており、鶴久さんもライブで披露することが多いそうです。まさに鶴久さんの最高傑作ともいえるポップスでしょう。