案外知らない綿の話

2022年12月26日 ALL生物

布団や座布団の中身に利用される綿は、ワタと呼ばれる植物から採れます。羊毛は、ヒツジが保温のために生やしている毛ですが、綿は一体何のために作られるのでしょうか。

綿って何?

ワタ

ワタの塊。座布団製作中。

木綿は、アオイ科ワタ属 Gossypium (以下、ワタ)の植物の種子表面に作られる繊維です。ワタ属は世界に約50種あり、栽培種として知られているのはそのうちの4種で、Gossypium hirsutum(以下、キヌワタ)という種が作付面積の90%以上を占めます。日本で昔から栽培されているワタは、それとは別種の Gossypium arboreum でキダチワタと呼ばれます。

ワタはどんな環境に生育するの?

ワタのさく果

ワタの蒴果(さくか)

ワタ属の植物は、熱帯または亜熱帯の乾燥地から半乾燥地を原産地とします。キヌワタは30〜35℃が生育適温で、生育には年平均気温が15℃以上必要です。野生下では海岸沿い生育し、群生しません。栽培は、インド、中国、アメリカ、パキスタンなどで盛んです。日本では、16世紀から18世紀にキダチワタが全国的に栽培されましたが、19世紀に急速に減少し、現在商業用の栽培はほぼ行われていません。

どうしてワタは綿を作るの?

綿として利用される白い繊維は、ワタの種のまわりを覆っています。

ワタの種子

ワタの種子

一つの果実(さく果)は、3〜5室に別れており、25〜35個の種子を作ります。一つ一つの種子がしっかと綿とくっついているため、手で剥がすのは意外と大変です。

ワタ

裂開直前のワタの蒴果

この繊維でしっかりと種子を包んでいる理由は、2つ考えられています。一つは風によって運ばれるため、もう一つは水に浮かび、その流れによって運ばれるためです。

綿は、風に乗って移動するには重いため、風による散布の場合は空中を飛ぶのではなく、地面をコロコロと転がるものと考えられます。そのため長距離の移動はそれほど期待できません。

一方、海流を使った散布では、かなり長距離を移動できると考えられます。海岸沿いに自生しているワタは、海流を使って運ばれてきた可能性があることが指摘されています。ワタの種は、2ヶ月以上水面に浮かぶことができ、海水に9ヶ月間浸した後の種子にも発芽能力があることが確かめられています(Stephens 1966)。海流散布といえば、硬い殻を持って海水が中に入らないような構造の果実を連想しますが、ワタのような構造でも、意外と長く水面に浮かび続けることができるようです。

ワタの進化に重要であったのが、風によって散布されることであったのか、海流によって散布されることであったのかについては結論は出ていないようですが、海岸沿いという自生地の環境からすると、海流散布のためにワタは綿を作っていると考える方が妥当なのではないかと思われます。

 

参考文献:
Stephens, S.G. 1966. The Potentiality for Long Range Oceanic Dispersal of Cotton Seeds. Am. Nat. 100(912): 199–210. doi:10.1086/282413.