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2020.12.19

創造的な組織をつくる~創造的な組織に必要な4つの要素とは?

人物

森 一樹
Kazuki Mori

はじめに

 あなたの組織は「創造的」ですか?市場が目まぐるしく変化し、様々なビジネスが生まれては消えていく昨今。変化のスピードが速く、不確実性の高い、正解のない世界が広がってきています。未知の領域を切り開くためには、想像力を働かせ、新しい価値を創造しつづける、「創造的な組織」が必要です。

「問題解決型」から「問題発見型」へ

 これまで、安定的に企業に利益を生み出してきたのは「問題解決型」のビジネスモデルでした。「問題解決型」とは、顧客の中に問題が存在し、問題を解決することにより価値を生み出すというモデルです。このような問題が豊富に供給される世界では、問題を解決し、生産性を向上することで、またボトルネックが移動し、新たな問題が生まれる、という長く続く改善の道を歩んでいくことで、顧客・自社ともに栄えることが出来たのです。

 不確実性の高い世界においては、このモデルだけでは成り立ちません。顧客とともに、新たな価値を創造する。または、顧客自身が見えていなかった問題を見つける。こうした、問題がまだ顕在化していないビジネスに対して、誰も気づいていなかった問題を発見し、今以上に大きな価値を生み出すようなビジネスモデルが求められます。これが「問題発見型」のビジネスモデルです。「問題発見型」によって、新たな価値を創造しながら、企業を成長させていきます。

 「問題発見型」のビジネスモデルの肝となるのが、ビジョンを描き、現状とのギャップを可視化するアプローチです。「ビジョンを描く」と一口に言っても、不確実性の大きな世界を乗り越えるだけのビジョンを生み出すのは一人では不可能です。創造的な人財を生み出すだけでなく、協調・共創・促進するような場(組織)が必要不可欠となります。つまり、組織そのものを変革しなければならないのです。想像力・創造力を高めるために、常に新しいことに挑戦し続けること。また、外部の人たちをも巻き込み、組織そのものに新しい風を入れ続けること。これらが「創造的な組織」を作る第一歩です。

「創造的な組織」をつくる

 創造的な組織をつくるため、4つの要素が必要です。それが「多様性」「関係性」「文化・マインド」「エンゲージメント」です。 「価値」を生み出し続ける創造的な組織を「リンゴの木」として例えて述べていきます。

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「創造的な組織」の土台となる「多様性」「関係性」

 木(創造的な組織)が大きく育つためには、木を支える土台がしっかりしていないといけません。その土台となるのが、「多様性」と「関係性」です。

 第1に多様性です。組織が多様性に富む人財を有するだけでなく、組織が多様性を育み促進していきます。多様性を育むには、画一的な仕事や教育から離れ、一人一人が長所を活かし、自分らしく働ける環境が必要です。このためには、互いが互いの長所や強みを理解しあえる関係性も必要となります。

 また、組織内部だけに閉じず、外部との多様なつながりを持つことも、多様性を広げるために大切なことです。1つの組織の中で出来ることには限りがあります。様々な組織とのつながりをもつことにより、組織同士の「強み」を活かしあった新しいビジネスが可能となります。

 こうした組織内外の多様性を高めることで、組織に属する・関係する人財がそれぞれの強みを活かしあい、一体となってより大きな価値を生み出せるようになっていきます。

第2に関係性です。近年話題の「心理的安全性[1]」のように、互いの関係に引っ掛かる部分がなく、何でも言い合えるような関係を実現します。
①互いのことを思いやり、尊重しあう精神を持っている状態。
②表面上当たり障りのない関係性を築くのではなく、間違っていることは間違っていると言え、それに対して心理的な障壁が生まれない状態
③組織に属する人同士の軋轢がなく、組織間の摩擦もないような状態。
これらの3つの状態を実現することで、より大きな価値を、より速く創造できるようになるでしょう。

「創造的な組織」を支える「文化・マインド」

 木(創造的な組織)が倒れないように、ずっしりと支えるのが幹(文化・マインド)です。創造的な組織を作るうえで重要となる文化・マインドは5つあります。

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 改善しつづける。現状に満足せず、失敗や成功、得たすべての結果を学びに変換し、変化・改善しつづけます。組織全体で、常に良い方向を見据えて変化し続けます。

 挑戦を歓迎する。新しいチャレンジを常にしつづけることを奨励します。

 失敗を称賛する。失敗を恐れていては、チャレンジは生まれません。小さく速く失敗を経験し、より大きな成功に繋げていく価値観を組織が持ちます。

 遊び・ゆとりを作る。時間のゆとり、心のゆとりが、創造を生みます。空白の時間(余白)を作り出し、その時間を新しいことにチャレンジしたり、勉強したり、自由に使い、創造性の発露のために役立てます。こうして、常に組織に新しい風を入れ続けます。

 多様性を広げる。多様性を認め、内外の新しい知見に触れ続けることで、様々な可能性を広げ続けます。

 これらの5つの文化が、組織をより創造的にしていきます。この5つの文化はあくまで基礎です。この基礎の上に、組織ごとに異なる文化が醸成されていきます。1つの価値観に収まることなく、多様性を広げながら前のめりに進み続ける、そんな文化やマインドが重要となります。

価値を生み出す源泉、「エンゲージメント」

 木(創造的な組織)が成長し、より多くの果実(価値)を実らせるために必要不可欠なのが、葉(エンゲージメント)です。

 エンゲージメントとは、「属している組織や企業に対して、貢献したいと思う想いの強さ」のことです。エンゲージメントはモチベーションと同列に語られることが多いですが、モチベーションは「やりたい」「楽しい」といった自身の内側から生まれるものであり、それは必ずしも組織や企業の創造する「価値」に直結するものとは限りません。エンゲージメントは、モチベーションや自己実現を通じて組織に対して価値を創造し、貢献したいと思う気持ちのことです。モチベーションの高い優れたエンジニアだとしても、組織に対してその知識や能力を発揮してもらえなければ、組織としては非常にもったいないですよね。エンジニアの知識や能力を組織の中で活かすことが、エンジニア自身の成長や自己実現に繋がるのであれば、その人にとっても、組織にとってもwin-winな関係を築くことができます。
 組織は、従業員に対してビジョンを掲げ、その想いを伝えます。そして、従業員が組織から掲げられたビジョンに共感することでエンゲージメントが高まります。組織のビジョンの作成に従業員が積極的に関わり、互いに理解しあおうとすることで、従業員の成したいこと、実現したいことが組織のビジョンに交わり、より結束力の高い組織が生まれます。
 エンゲージメントには、多様性と関係性、そして文化・マインドが大きく関わります。組織が多様なゴールを持つ従業員一人一人の考え方を受容し、従業員の背中を後押し、支援すること。そして、組織と従業員との関係性が良好であること。また、文化・マインドが従業員にとって勇気を与えてくれるものであること。これらが、エンゲージメントを高めます。

 こうして、「多様性」「関係性」「文化・マインド」「エンゲージメント」の4つが、創造的な組織をつくり、大きな価値を実らせるのです。

 ここまでで、創造的な組織を構成する要素を紹介していきました。ここからは、具体的な手法について述べていきます。

創造的な組織をいかに作るか

 創造的な組織を作るためには、「組織をトップダウンで大きく変える」「新しい組織を作り直す」のが最短の手段ですが、多くの場合はそのような選択肢はとれません。少しずつ、少しずつ組織を変えていく必要があります。近年では「ティール組織[2]」や「ホラクラシー組織[3]」などの「創造的な組織」に近しい考え方が出てきています。それらの考え方の中でも、組織を変革するためのアプローチの1つとして、この記事ではManagement 3.0[4]を紹介します。

Management 3.0

 Management 3.0は、世界80か国で展開されている、新しいイノベーションとリーダーシップ、チェンジマネジメントの活動です。Management 3.0では「創造的な組織」に向けた新しいマネジメントの考え方と、その考え方を実現するための様々なプラクティスを提供しています。 

 Management 3.0のコア・コンセプトは以下の6つです。

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 Structureを育てる。組織の価値観を従業員に届け、行動規範を組織全員で作り上げていきます。

 制約を整える。組織の中での権限移譲を明確にします。

 コンピテンシーの開発。やり遂げる能力を高めます。先述のゆとりもこの中に含まれます。

 人々をエナジャイズする。モチベーション、エンゲージメントを高めます。

 カイゼンを続ける。本記事の「文化・マインド」で述べた文脈と同じく、失敗を学びに変え、挑戦を続けます。

 チームを強くする。チームを自己組織化に導き、自分たち自身で強いチームを創り上げます。

 Management 3.0では、これらのコンセプトに基づき、「創造的な組織」を作っていくための様々なプラクティスが提供されています。プラクティスをそのまま組織へと適用することも可能ですが、コンセプトを理解したうえで、自分たちの組織でどのように少しずつ変化を起こしていくかが肝要です。

 これらのコア・コンセプトの実装例については、後半の記事で詳しく述べていきたいと思います。

おわりに

 組織を変革していくということは、痛みを生む可能性もあります。ただ、変わることにより得られる喜びは、その痛みを超えるもののはずです。より創造的な組織へと成長し、新しい世界に挑戦する。そうした前向きな変革を進めていきましょう。

[1] 「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうか、という認知の仕方のこと。
https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/introduction/
[2] 個々が意思決定を行う、ネットワーク状に繋がった組織。 フレデリック・ラルー (著), 嘉村賢州 (著), 鈴木立哉 (翻訳).ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
[3] 社内に上下関係の存在しないフラットな組織。参考文献は[2]と同様。
[4] http://management30.jp/

森 一樹

森 一樹Kazuki Mori

専門領域:アジャイルディベロップメント

チームファシリテーター。チームの力を最大化させ、日本のIT業界を輝かせることをゴールに日々邁進中。
大規模案件を複数経験後、組織をよい方向に促進するためには、「ふりかえり」による継続的なカイゼンが大切だと実感。それ以後「ふりかえり」を突き詰め続けている。
「チームファシリテーション」というチーム力を高める手法を軸に、様々な企業に対して、チームビルディングやふりかえりなどにより企業・組織のアジリティを高めるサービスを展開。
著書として、「ふりかえり読本シリーズ」がある。