読みごたえ抜群な短編小説 前編 ~濃密な読書体験~

こんにちは、ブクログ通信です。

電車の中やお風呂場など、スキマ時間で本を読みたいと思うことはありませんか。長編小説やシリーズものは前に読んだ内容を忘れてしまいがち……という方や、読んだことのない作家さんを開拓したい!という方にもおすすめなのが、短編小説です。

今回は、数ある短編小説のなかでもとくに、短い時間でも濃密な読書体験ができるものを10作品集めました。読みやすさと読みごたえの両方を兼ね備えた上質な短編小説で、「長さ」より「深さ」を重視した読書タイムをお過ごしください。

1.中島京子『妻が椎茸だったころ』秀逸なのはタイトルだけではありません

妻が椎茸だったころ (講談社文庫)
中島京子『妻が椎茸だったころ (講談社文庫)
ブクログでレビューを見る

あらすじ

定年退職の2日後に妻を亡くした泰平が、一人呆然と夜を過ごしていたある日、娘から電話があった。娘の言うには、明日は妻が生前予約していた人気の料理教室とのこと。宝くじに当たるほどの倍率の教室を断るわけにもいかず、代わりに行ってくれと言われた泰平は、渋々立った台所で、古びたノートを見つける。レシピ帳とも雑記帳ともつかぬそのノートには、「私が椎茸だったころに戻りたい」という謎の一文が書かれていた……。

おすすめのポイント!

妻の不在を受け入れていく男の姿をユーモラスに綴った表題作のほか、人付き合いが悪く口下手な男から食虫植物の世話を頼まれる「ラフレシアナ」、亡くなった叔母の家に突如現れ、家族のように振る舞う男が語る「ハクビシンを飼う」など、5編の物語が収録されています。現実と非現実の境を縫って歩くような危うさに、ゾクゾクさせられてしまうでしょう。短編だからこそ心に残る本作は、第42回泉鏡花文学賞を受賞しました。

中島京子さんの作品一覧

えっ、何このタイトル!?最初は、SFかミステリーの話かと思った。読後は、あ、そうかもしれない、と納得。ホラーあり、イヤミスあり、ほっこりありの、現実のような、現実でないような、そんなお話の短編集。

けんさんさんのレビュー

2.東野圭吾『歪笑小説』「泣けるブラックユーモア」という新境地!

歪笑小説 (集英社文庫)
東野圭吾『歪笑小説 (集英社文庫)
ブクログでレビューを見る

あらすじ

原稿をもらうためならどんな手も使う、常識破りの伝説編集者、自作のドラマ化に舞いあがり、美しい担当者に恋心を抱く売れない若手作家など、クセの強い登場人物たちが駆け回る。小説・出版業界をテーマに、俳優・読者・書店・家族を巻きこんだ作家の身辺に起こる事件が目白押しの連作短編集。笑いあり、涙あり、感動あり。ミステリの名手・東野圭吾が読者の感情に揺さぶりをかける、「〇笑小説」シリーズ第4作。

おすすめのポイント!

本作は、『怪笑小説』『毒笑小説』『黒笑小説』に続く、「〇笑小説」シリーズの最新作です。シリーズのなかでもっともブクログのみなさんからの星評価が高く、ベールに隠された作家・東野圭吾の内面や裏側がうっすらと見えてくるのもオススメのポイントです。13編もの短編が収録されているため、短い時間でも読み進められるのが嬉しいですね。ブラックユーモアが好きな方にはとくにオススメです。

東野圭吾さんの作品一覧

架空の出版社・灸英社に勤める編集者とその灸英社から作品を世に出した作家達の短編集です。どのストーリーも一見、バラバラの様で実は繋がりがあるという感じで、東野圭吾さんの作品らしくユーモアもあるとても読み易い作品です。実際そうなのかはわかりませんが、出版社に勤める方と作家の方の御苦労も感じられます。

いっちーさんのレビュー

3.今邑彩『よもつひらさか』何度も読み返したくなるホラー小説

よもつひらさか (集英社文庫)
今邑彩『よもつひらさか (集英社文庫)
ブクログでレビューを見る

あらすじ

駆け落ちをした娘からの久々の連絡で、孫の顔を見るために出かけた私は、なだらかな坂道を歩いていた。その坂の名は「黄泉平坂(よもつひらさか)」。古事記では黄泉の国に繋がるとも言われるこの坂では、実際に亡者に出逢うことがあるという噂もあった。私はその坂で、登山姿の青年から声をかけられ——。(「よもつひらさか」)ホラーであり、ミステリであり、ロマンであり、ファンタジー。戦慄と奇妙な読後感を誘う12編。

おすすめのポイント!

表題作の「よもつひらさか」のほか、「茉莉花」「穴二つ」「生まれ変わり」など、タイトルにも雰囲気のあるものが多数あり、読む前から期待感の高まる短編集です。1編20~30ページという短い作品ばかりですが、きちんとオチがあり、ゾッと、ヒヤッとというホラーテイストを味わうことができます。ミステリ好きな方は、結末を想像しながら読むのもオススメ。当たっても外れてもゾクゾクさせられること間違いなしです。

今邑彩さんの作品一覧

必ず最後にどんでん返される短編集。予想がついたものもいくつかあったけど、大体は明後日の方向からどんでん返されてすごく楽しめた。表題作のよもつひらさかが雰囲気は一番好き。

lilymikkaiさんのレビュー

4.米澤穂信『満願』濃密で苦い読後感がメンタルをえぐる!


満願 (新潮文庫)
米澤穂信『満願 (新潮文庫)
ブクログでレビューを見る

あらすじ

バングラデシュに派遣された伊丹は、天然ガス資源開発に挑んでいた。拠点にと目を付けた村では指導者の一人が反対しており、その指導者をめぐって恐ろしい条件が持ちかけられる……。(「万灯」)独立後、初めて弁護をした殺人事件には、まだ戦う余地があった。だが、被告人である妙子は控訴を取り下げ——。(「満願」)青春ミステリジャンルで若者に支持を広げる米澤穂信による、10万部超えの大ベストセラー短編集。

おすすめのポイント!

日常の謎を扱った青春ミステリで有名な米澤さんですが、本作はブラックユーモアの冴える6編のオムニバス短編集となっています。第27回山本周五郎賞受賞のみならず、2014年の「週刊文春ミステリーベストテン」、2015年版「ミステリが読みたい!国内編」、2015年版「このミステリーがすごい!」で1位となり、史上初のミステリーランキング3冠となりました。2018年には「万灯」「夜警」「満願」がテレビドラマ化を果たしました。

米澤穂信さんの作品一覧

圧巻のミステリー短編集。どの物語も、それぞれの人間が持つ願いが巻き起こすミステリーだった。その願いが成就するために人間はなんだってする。背筋が凍るような物語もあった。

きむさんのレビュー

5.尾形真理子『更衣室で思い出したら本気の恋だと思う』読めば恋がしたくなる!

試着室で思い出したら本気の恋だと思う (幻冬舎文庫)
尾形真理子『試着室で思い出したら本気の恋だと思う (幻冬舎文庫)
ブクログでレビューを見る

あらすじ

長年付き合った彼氏とマンネリ気味のメイコ、不倫関係の恋に悩む美容マニアのクミ、年下男子に恋をしたチヒロ、元カレから披露宴のスピーチを依頼されたOLアユミ、多彩な男に憧れるマサコ。恋愛下手な5人の女性が訪れるのは渋谷の裏路地にあるセレクトショップ「closet」。不思議なオーナーとともに、運命の一着と出会う彼女たちは、自然と諦めや強がりを捨て、自分も知らなかった自分に気付いていく。

おすすめのポイント!

博報堂に勤める著者の尾形さんは、女性の心を掴む広告のコピーを多数作っておられます。コピーライターならではの言語感覚で書かれた本作には、女性が全力で頷ける文章がゴロゴロと転がっています。キラキラした文章と、リアルな女性の心理描写との対比が鮮やか。大人になると、意識的にブレーキをかけたり、本気になるのを恐れたりしてしまうことがありますが、それでもやはり、恋愛は素敵なものだと思わせられます。

尾形真理子さんの作品一覧

恋をしたら真っ先に読みたくなる本。好きな人を思って服を選んで、試着するときの高揚感や気持ちを伝えたい時の引き締まる思いが丁寧に伝わってくる。こんなセレクトショップがあったらいいのになあ、こんな店員さんがいたらいいのになあ…と思った。ちなみに私が一番好きだと思ったのはエピローグのお話。

おしおさんのレビュー

次々と作品が読める短編集は、忙しい人や読書に慣れない人にもおすすめです。短編で気に入った作家さんの別の作品を読めば、さらに読書の幅が広がっていきます。この記事がステキな読書のきっかけになれば幸いです。後編もお楽しみに!