内容紹介

 「ロシアによる突然の、いわれのない大規模なウクライナ侵略は、侵略に対する武器としての制裁の本来の目的を今日的なものにした。二〇二二年二月以降、英米とヨーロッパ連合(EU)だけでなく、日本、韓国、台湾、シンガポールといったアジア諸国や、さらには長年の中立国、スイスを含めた三八カ国の連合による措置は、領土の保全という国際連盟の本来の目的に起源がある」(日本語版への序文より)

 経済制裁は、国際平和を乱した国への懲罰メカニズムとして、近年、多用されてきた。この経済制裁は、第一次世界大戦後の国際秩序を構築する中で誕生したものだ。当時、経済制裁は「経済兵器」とも呼ばれていた。というのも、大戦で敗者となったドイツ帝国やオーストリア=ハンガリー帝国、中東などで経済制裁が多くの餓死者をもたらした生々しい記憶を伴っていたからだ。
本書は、第一次大戦後から第二次世界大戦勃発までの30年間に、どのように経済制裁が生まれ、現代のような形に発展してきたのかを英米仏の制裁主義者、国際主義者らの議論や各国の思惑を膨大な資料をもとに、気鋭の米国人歴史学者が描いたものだ。 ロシアも自国資源の石油、ガスを武器にして、中国などと連携する動きを見せるなど、ウクライナ戦争が「経済戦争」の様相も呈している中、これからの世界経済を考えるうえで必読書といえる。

【目次】
日本語版への序文
国際的な政策立案と組織構築における壮大な実験としての「経済制裁」
ニコラス・ミュルデル
序論 戦争よりも凄まじきもの
第Ⅰ部 経済兵器の起源
第1章 封鎖のメカニズム
第2章 封鎖の精神から生まれた制裁
第3章 平和の戦争
第Ⅱ部 経済兵器の正統性
第4章 経済兵器の射程
第5章 ジュネーヴの世界警察
第6章 制裁主義vs. 中立政策
第Ⅲ部 戦間期危機下の経済制裁
第7章 侵略に対抗する集団安全保障
第8章 現代史上最大の実験
第9章 封鎖恐怖症
第10章 供給型経済兵器
結論 対抗手段から別の選択肢へ