その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はSKY-HIさんの『 マネジメントのはなし。 』です。

【はじめに】

 『日経エンタテインメント!』での連載の話が来たのは、2021年3月、オーディション「THE FIRST」の放送が始まる前に取材を受けたときでした。

 僕は20年9月に、どこからも完全に独立した組織としてマネジメント/レーベルである「BMSG」を立ち上げました。なぜ会社を立ち上げたのか、BMSGの意義は何か、僕が何を課題としているのか、BMSGがどこを目指すのかなどを、しっかり世の中にアピールしたかったし、設立以降、会社のプロモーションとして何かできることはないかと考えていました。そんなときにいただいた連載の話は、とてもありがたかったです。

 今の時代、「日本の芸能は変わらなくてはいけない」「今が変わるときだ」というのはいろいろな方が語られていると思いますが、「こういうところが変わるべきだ」「こういうふうに変わるべきだ」に対して“ちょっと同じだけど、ちょっと違うな”と感じることも多かったのです。

 「THE FIRST」から今に至るまで様々な機会に話してきましたが、自分の中には、メジャーとアンダーグラウンド、様々なシーンの中で音楽を作る仕事を十数年続け、さらにはアーティストでもあるからこその「どう変わるべきか」がありました。

 例えば、アーティストとして在るべき姿としては、「クオリティファースト」「クリエイティブファースト」「アーティシズムファースト」の3つの「ファースト」を軸とすべきだと考えていたし、たとえボーイズグループであっても、その3つの「ファースト」は、何ら変わることなく必要なものだと考えています。それが「THE FIRST」であり、そこから生まれたBE:FIRSTです。

 同時に、マネジメントの組織としても音楽レーベルとしても、これまでの常識にとらわれることなく、本質に立ち返ったうえで変えていかなくてはいけないこともたくさんあります。

 僕は、BMSGをスタートアップ企業だと捉えています。スタートアップは、そもそも社会が持つ課題に対して、自分たちができることで解決するために始めるものだと思っており、僕らは、音楽芸能のスタートアップですから、自分たちで解決できる可能性のある音楽芸能の課題に向き合っていこうとしています。

 BMSGを立ち上げて以降、様々な人と話すなかで感じるのは、あまりにも自分にとっての「普通」、つまり、音楽マネジメントとか音楽レーベルの「普通」が世の中にまだ知られていないこと。また、ファンの側も「どうしてこうなっているんだろう」を考えずに、「アーティストのため」を掲げて応援していると感じることもあります。

 それらに対して、僕らが世の中の音楽芸能の「普通」をアップデートしていきたいという気持ちが強くあります。

 例えば、音楽業界のビジネスモデルが、いまだに業界がバブルに沸いた30年前の成功体験を引きずったままであり、特にアイドル的なアーティストの場合、CD偏重の「売る仕組み」に頼りすぎていることもそうです。簡単に言えば、ファンも「たくさん買うこと」を応援の形と捉えていることが多いですよね。

 もちろんたくさん買っていただくのはありがたいし、ファンの立場からすれば「所有する」楽しみもあります。けれども、そこに無理やストレスが生まれるようでは、本末転倒です。要は歪(いびつ)なシステムの上に成り立っている応援の形と言えるでしょう。だったら、やっぱり直していったほうがいい。

 アーティストに対しては、例えば前述の「クオリティファースト」「クリエイティブファースト」「アーティシズムファースト」の3つを基本に、自身がステージに立って表現する覚悟を持ってほしい。世に出ればいいこと悪いこと、いろいろ評価されるのがアーティストという仕事です。さらに、忙しさに心が折れそうなこともあれば、何年も続けていれば、レコーディング、リリース、ツアーなど、意外に単調であることにも気づいてくる。

 だからこそ、「自分がなぜこの活動をしているのか」という軸と覚悟を持ってもらう必要があります。

 そうした、もはや形骸化している音楽業界の「普通」を変えながら、僕らが目指しているのは「世界」です。

 BMSG設立時に掲げたその挑戦はまだ始まったばかりですが、1つひとつのリリースや施策をはじめ、BMSG全体としてのフェス開催、はたまた様々な外部とのプロジェクトを通し、トライ&エラーを重ねるなか、その夢に少しずつでも近づけている手応えを感じています。

 本書では、21年4月の「THE FIRST」の放送前から22年9月の初の自社興行フェス「BMSG FES'22」の頃までの連載を1冊にまとめています。

 Part1ではオーディション「THE FIRST」の始まりから、BE:FIRSTの結成まで。「普通」のボーイズグループを目指す既存の芸能事務所やオーディションでははみ出してしまう才能の持ち主や、これまで自分の才能を生かす場所のなかったボーイズたちに対し、「才能を殺さない」を掲げた僕が、何を重視し、どう彼らに接し、才能を伸ばそうとしたのか。また、なぜBE:FIRSTに今の7人を選んだかを中心に話しています。

 続くPart2は、21年8月のBE:FIRSTのプレデビューから11月のメジャーデビューを経て、「THE FIRST」の卒業式と銘打ち、BE:FIRSTとは別の道を進んだボーイズもステージに上ったライブイベント「THE FIRST FINAL」の頃までの連載で、好スタートを切ったBE:FIRSTをいかに育てていくかを軸に、僕の考えと取り組みを語りました。

 そして、最後となるPart3では、「世界」を見据えるBE:FIRSTにとって今、しっかり成し遂げる必要があった全国ホールツアーの開催やロックフェスへの出演などの意義や振り返りがメーンのトピックとなっています。

 この1年半ほどで会社の規模は、社員数人から30~40人ほどに拡大し、大企業さんと一緒に仕事をする機会も飛躍的に増えました。その中で僕の「社長業」への関わりも、社長としての意識もどんどん増し、改めてBMSGを率いる人間として「社会をより良くする」ことへの責任感も強くなっています。

 社会人としても社長としてもまだまだ駆け出しではありますが、きっとビジネスマンの方々にも共感・共鳴いただける部分もあるのかなと思います。そして僕は、同じように夢に向かって頑張る全ての人を応援しています。


【目次】

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