Z世代をはじめとする若者の間で2023年に一気に流行した言葉の1つに、「蛙化現象」が挙げられます。蛙化現象とは、好きだった相手に好意を持たれた途端、嫌悪感を抱いてしまう現象のことです。一方、Z世代の間では「好きな人のささいな行動で気持ちが冷めてしまうこと」の意味合いで使われることも多く、これまでの使われ方と若干ニュアンスが異なるように感じます。

 これは、働き方や生き方から自分の将来像まで、あらゆる物事の理想がZ世代の中で具体的に想像できるようになったがために、理想と現実とのギャップが生じた際に、落胆したり嫌悪感が増したりしてしまうことが起きやすくなっていることが考えられます。

 さらに深掘りすると、Z世代は「失敗しないために深く吟味する」「自分の理想を基準として物事を判断し、理想に満たないとわかったら時間を無駄にしないように早めに切り替える」側面があるのではないかという1つの仮説にたどり着きました。今回は、Z世代の価値観で捉える蛙化現象について考えてみます。

(写真:加藤康)
(写真:加藤康)

Z世代の蛙化現象を加速させた2つの背景

 Z世代と切っても切り離せないものがSNS(交流サイト)です。SNSはZ世代の間で蛙化現象を加速させた大きな要素の1つでしょう。

 SNSは、自身の日常を気軽に発信できるプラットフォームです。基本的にSNSで見せるものはキラキラとしており、「周りに見せたい面」しか投稿しないケースも少なくないでしょう。そうした「キラキラしたSNS」に慣れ親しんだZ世代だからこそ幻想を膨らませやすく、嫌な側面がほんの少し見えただけで幻想が裏切られることが許せず、蛙化現象を加速させた可能性があります。

 Z世代を中心に盛り上がりを見せる「推し活」も、こうした状況の延長線上にあると言えます。自分の好きな対象(=推し)をつくり、SNSを通じて「推し」を崇拝する時間が増えていく中で、ますます自分の中の理想が堅固なものへと確立されていきます。ただ面白いのは、推し活ならではの特徴として、蛙化現象の対極にある「蛇化現象」と呼ばれるものが起きていることです。

 蛇化現象とは、推しがやることならネガティブなことでもOKという、相手のどんな行動でもすてきに見えてしまう現象のことです。蛇化現象は推しに対して起きやすく、逆に蛙化現象がリアルの好きな人や恋人に対して起きやすいのは、現実社会で一緒に過ごす時間や、SNSとのギャップを感じやすい瞬間の多さが関係しているのではないでしょうか。その意味で、蛙化よりも蛇化の方が、SNS文化と密接に関わっていると考えられます。

 もう1つ、蛙化現象が流行した背景には、Z世代の持つ「タイパ」「コスパ」の価値観が大きく関係している可能性があります。

 Z世代は、時間・費用対効果を意識する傾向が非常に高いことでも知られています。その観点で考えると、Z世代にとって蛙化現象とは、単に異性に対して冷めてしまう体験を指すのではなく、「その人が時間とお金を投資するに値するのか」を判断する1つの指標として機能している可能性が考えられます。その基準を「理想」とし、理想よりも一定以上下がった時に「今後一緒に過ごしたくない」と判断した結果、感情の表れとして嫌悪感=蛙化が生じるのかもしれません。

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