東芝は検討中の大型リストラ案について、当初想定していた規模を大幅に縮小することも視野に、各部門との調整に入った。5月中旬に新たな中期経営計画を公表予定で、構造改革への柱の1つが人員削減だ。複数の関係者によると3月下旬時点では、正社員だけでなく契約社員の削減や今後のキャリア採用凍結などもカウントすると、1万人に近い削減数も俎上(そじょう)に載っていたという。4月17日には「4000~5000人規模」という情報が相次いで報じられたが、現状では5000人を下回るスケールとなるよう、急ピッチの見直しが内部で進んでいるようだ。

 大手電機メーカーでは大規模なリストラを実施する際、水面下で数カ月かけて会社側と労働側が協議することも少なくないという。今回は足元の財務を立て直すことが経営的に喫緊の課題となる中で、まず必要な固定費削減の金額を算定し、人員削減の人数も想定。そこから根回しを始めようとする考えだった。だが、その前にリストラ案について様々な数字が社内外で漏れ伝わることになり、衝撃が広がった。

 経営陣は構造改革の意義について、社内での説明を始めた。当初の検討段階では後手に回った各事業部長との折衝を、このほど開始。開発力や営業力を維持するための人員規模について、多くの意見が寄せられているようだ。今後は労働組合とも正式協議に入る。削減人数を大幅に縮小する場合、コスト削減に向けて別の方策を練ることになる。

 同社は2023年12月に投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)傘下に入り、非上場化した。ただ、その前から採算が悪化していたハードディスク事業などが重荷となり、連結での業績も低迷している。新体制では新たに大手外資系コンサルティング会社とも契約し、急ピッチで改革案を議論。人員削減や売却候補となる事業も検討してきたが、社員の心理も慎重にケアしないと危ない。

 9年前の不正会計事件を経て、相次ぐ経営混乱に耐えながら事業を推進してきた現在の中堅・幹部社員などは、他社が引き抜くケースも既に出ている。この状況で大規模な早期退職募集をかけると、優秀な人材が真っ先に応募しかねないため、各部門のキーマンをつなぎとめる協議も始めた。ただ、同社を取り巻く金融機関などのステークホルダー(利害関係者)からは「人員削減は最も慎重なプロセスが必要。社員との対話にたけた社内人材も交渉役に立てないと容易ではない」と警戒も強まっている。

最重要な難題、リストラ期のリテンション

 東芝は非上場化を目指す中で、株式買い取りのため合計1.4兆円(返済順位の低いメザニンローン含む)の債務を抱えることになった。巨額融資に携わった銀行団のある幹部は、以下のように警鐘を鳴らす。

 「東芝の財務状況を考えるとリストラはやむを得ない判断だと思うが、今後の経営再建を担う人材は全力で引きとめるよう同社に要請する」

 各金融機関は東芝の非上場化を後押しする際、複数の指標で融資返済の安全性を測っていた。将来の予想キャッシュフローから現在の企業価値を算出するDCF法や、各事業の価値に対する融資比率を示すローン・トゥ・バリュー(LTV)などだ。しかし、足元の業績不振により、東芝の返済可能性には疑問符が付き始めている。

 人員削減を実行してもその効果が瞬間的な固定費削減にとどまれば、むしろ将来の融資返済についての懸念は高まる。エース社員らがこぞって転職すると、次期中期経営計画を実践できず、東芝や金融機関が想定してきたキャッシュフローが得られないからだ。

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