この1年ほど中国で自国経済が話題に上がる時、最頻出のキーワードは「経済の日本化」だった。明確な定義があるわけではないが、「バブル崩壊後に『失われた30年』を過ごした日本と同じ道をたどるのでは」「未経験の非成長時代をどのように生き抜けばいいか分からない」という漠然とした不安を表す言葉として、市井の人々の井戸端会議から高級官僚が参加する国際会議のパネルディスカッションまで、本当によく耳にした言葉だ。

 とはいえ、バブル崩壊後の日本が破産し滅び去ったわけではないことは読者の多くもご存じの通りだ。爆発的な経済成長がなくなったのは確かだが、経済・社会構造の変化を捉えて成長した企業も多い。例えば、カジュアル衣料品店「ユニクロ」のように2000年代から本格的に海外進出を果たし、今では海外で1600店舗以上を展開するようなブランドも存在する。

 中国でも同じで、全体としての伸びが低調であることは事実であるが、実質GDP(国内総生産)の前年比での伸び率は日本の約2.7倍もあり、業種や地域によって良しあしがあるというのが実態に近い。身の回りで「転職先が見つからない」「テナントが埋まらない」という話をよく聞くのは確かだが、それ自体は今に始まったことではない。多様かつ巨大な中国では、景気動向も業種や地域によって大きく異なる上、その落差も非常に激しい。

 様々な要因から同一化が激しく競争市場が1カ所に過集中しがちな中国では、大都市がもっとも競争が激しく、行き詰まり感も強い。だから多くの企業が「下沈(シャアチェン、すそ野)市場」として2級・3級都市、あるいは地理的には大都市内でも細分化されたニッチ市場への拡大を志向している。ただ、多くは日本企業の駐在員の生活空間とはあらゆる意味で異なるため、現地にいても理解が難しい。しかも「渉外調査管理弁法」という法律によって、外資系企業は原則として直接市場調査を実施できない。ユーザーのビッグデータは入手できるが、今まで既知の成長市場の余白をいかに「先食い」するかの探索に使ってきたデータを、未知の市場を把握するために使うには分析の発想を大きく変えなければならない。

 そんな難しさを乗り越え、いち早く自社にとって有利な市場セグメントをどう見つけるかがこれからの勝負の鍵だと言える。市場の多様化・複雑化が進み、従来のように今ある流行を追いかけ続けるコストは日増しに高まっている。また様々な不確実性がある中で、中国という巨大市場を独占できるほどの資金を投じて王座を目指す戦略を取るという決断ができる企業も限られる。だから多くの日本企業にとって、これからは見定めたセグメントに効率的に投資し、自らのアイデンティティーを確立して「追われる」存在になるために取り組むことが必要だろう。

 では、どうすればいいのか。万能の解決策など存在しないことは重々承知ながら、本稿では顕在化する前の消費ニーズを先読みする上で、日本企業が共通して持つ若干の優位性についての仮説を提示してみたい。

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