コラム

プロコーチに必要な「共感力」とは、“何ができる”ことなのか

– 共感 –

「共感」についても、「聴く」ことと同様、コーチングにおいて非常に重要なスキルであるということは、誰もが理解していることと思います。

読んで字の如く、「感情を共にする」ことですが、このコーチにとって当たり前の『共感』をここで挙げるのは、たくさんのコーチのセッションを見るなかで、時々『共感』と『賛同』を混同しているコーチを見るからです。

自分自身がコーチング中に、どういった「共感」を行っているのかをしっかりと意識するためにも、『共感力』についてあらためて書きたいと思います。

目次

共感と賛同は違う

『共感』と『賛同』が、まったく違うものであるという認識はみなさんの中にどれほどあるでしょうか。

『賛同』ではなく、『共感』をしているでしょうか。

『共感』と『賛同』の違いを理解せずに、安易に『共感(=賛同)』することは、クライアントの無限の成長前進の可能性を信じていないということであり、きつい表現をすると「クライアントに取り入る行為」「クライアントを馬鹿にしている行為」になりえます。

もしその『賛同』が“無意識”なのであれば、そのコーチはまだコーチングの本当の素晴らしさを知らないのかもしれません。もし“有意識”なのであれば、そのコーチは自分と向き合うタイミングが来たのかもしれません。

まずは「コーチの赤本」からひとつの則を記します。

〈第7則〉
原則として、クライアントのネガティブなものには共感すれど賛同するな。賛同して良いのは過去の自分、そしてポジティブなものだけである。

「ネガティブなもの」に賛同してはいけない理由

ここでいう「ネガティブ」とは、クライアントの怒りや恐れ、悲しみ、失望、罪悪感などのマイナスの感情、負の感情のことを指します。

この「マイナスの感情・負の感情には、共感はしてよいが賛同してはいけない」ということです。それはなぜなのでしょうか。

視点の違った2つの理由があります。

理由①:“クライアントの成長前進の視点”からの理由
理由②:“コーチの賛同動機の視点”からの理由

理由①:“クライアントの成長前進の視点”からの理由

ネガティブなものに賛同することで、クライアントの成長前進を妨げる場合があります。

クライアントのネガティブなものに『賛同』することが、クライアントの成長前進にどのように影響するのか?ここでは『共感』と『賛同』の分かりやすい簡単な事例で説明します。

クライアントからこのようなことを言われました。

これに対し、コーチによる共感・賛同とは以下の通りです。

クライアントが『言語化した』そのほとんどは“仮説”

まず、ここでクライアントがコーチに伝えたことは「真実」ではないことに気がつくでしょうか。

人によっては、このクライアントと同じ体験をし、悲しみの感情をもつ人もいるでしょう。怒り、悲しさ、怯え、寂しさ、自己否定、どのようなネガティブ感情であっても同じです。

この場合の「腹が立った」は、『その時起こった出来事』を、『クライアントが”捉えた事実”』として『言語化』したものであって、そこにはクライアントの『推測と判断』が存在しています。

極端に言えば、クライアントが『言語化した』そのほとんどは「真実」ではなく、そのクライアントの『価値観や恐れの心理のフィルターを通って“真実”として顕在化された』=“仮説”です。そのクライアントが“よく書く脚本”なのです。

その感情に至るプロセスは、クライアントの仮説です。

その仮説に対してクライアントが出した『結論(考え・判断)』が言語化されて表に出てくるわけですが、それに共感してしまうこと、それがつまり『賛同』です。

※もちろんこれは、そのクライアントが嘘を言っていると非難、否定しているのではありません。そもそも、人のコミュニケーションとは、その人の捉えた事実と推測と判断のやり取りです。コーチは、その感情までのプロセスが仮説であろうが、真実であろうがどちらでも構わないのです。

そのクライアントの反応するポイント、受けとり方の癖とその感情、つまりそのクライアントがさらに前進、幸せになるヒントがここで顕在化したということだけなのです。コーチはその出来事をギフトとして、見逃さないことが重要なのです。

『賛同』は、その他の可能性に蓋をする行為

コーチの「それはすごく腹が立ちますよね。」の『賛同』の発言は、「怒るのはごもっともですよ」「そこで怒るあなたは正しい」というメッセージでもあるわけです。

そこにコーチの価値観を“正しいもの”として持ち出し、クライアントが、これからもその類いの出来事において、同じように人に怒りを抱き、ご自身苦しみ続けることを許可容認することになり得るのです。

コーチの『賛同』が、クライアントの無限の成長前進の可能性に蓋を閉じることを意味しています。

コーチは目の前のクライアントが際限なくさらに成長、前進、幸せになるために関わるのです。そのためにクライアントが自発的に、思考そして行動変容を起こし続けていくためのサポートをする。それが我々コーチです。

コーチの赤本の「賛同して良いのは過去の自分」とは、クライアントの言葉に対して、寄り添い、その時の感情を含め、たくさんの想いを聴き切った上で、

コーチ:「その怒るお気持ち、とてもよくわかります。以前の私もまったく同じでした。とても嫌な想いを繰り返していましたよ。」

と、(偽りでないのなら)昔の自分もあなたと同じだったと、賛同すれば良いのです。自己開示すれば良いのです。

そして同時に、「今はそのような場面で嫌な想いをすることがなくなった」ということが、コーチの言語・非言語でクライアントに伝われば、そのクライアントは直ちに手だてはわからないまでも、この苦しみは仕方ないものではなく、これを乗り越えた先の明るいゴールの存在を感じることができるのです。これから目指したいと思うものが現れるかも知れないのです。

クライアントのネガティブな感情を共にし、受容し、そしてクライアントがそこにとどまることを善しとしない存在、それがコーチなのです。

私が考える「共感力」とはこの場合、唯一の“真実”である、「クライアントがその時に抱いた怒りの感情に“のみ”共感する」ことを指します。

理由②:“コーチの賛同動機の視点”からの理由

ここでもまずは、「コーチの赤本」からひとつの則を記します。

〈第1則〉
クライアントの絶対的味方であれ。味方であり続けよ。そして、クライアントの敵、恐怖、怒りの対象の味方であれ。

コーチのラポール形成のための手法としての『賛同』

コーチはクライアントの絶対的味方でありますが、決して仲間、お友達ではありません。

先の例文で述べたように、Aさんは、クライアントがさらに幸せになるためのきっかけを与えてくれる可能性のある、感謝すべき存在です。しかし、クライアントはAさんに「腹を立てている」わけですから、このAさんを直ちに感謝の対象と見ることは困難です。

仮にコーチがクライアントに充分に共感、承認もせずに、「あなたはAさんに感謝すべきです」と伝えたとすれば、真意が理解できないそのクライアントの中に、コーチに対する反発心が生まれるかもしれません。もしかするとクライアントは、コーチに自分を否定されたと捉えるかもしれません。

当然、そうなればラポールの形成に時間がかかるでしょうし、もしかするとコーチング契約が切れてしまうかもしれません。

かえせば、手っ取り早くクライアントとの“安易なラポール”を形成する方法として、『ネガティブへの賛同』はコーチにとって非常に便利な手法なのです。

コーチのために至って欲しい結果に至らしめるための『賛同』

「コーチング契約が切れることを恐れる」「この見込みクライアントからコーチング契約をもらいたい」「この人とのコーチングは苦手だ」「すごいコーチと言われたい」など、「クライアントに好かれたい」「クライアントに嫌われたくない」といったコーチの心理から賛同する、もしくは賛同したくなる…

つまりこれは、コーチのために至って欲しい結果があって、そこに至らしめようとクライアントを心理的にコントロールするための賛同行為であり、その『賛同』はクライアントではなく、コーチが、コーチ自身のために行っている行為です。

クライアントの仮説からアウトプットされた感情に、「それはひどいですね!私もすごく腹が立ちます!」と賛同するだけで良いのです。被害者になりたがっている、賛同者を増やしたがっているクライアントのその想いを叶えてあげれば、クライアントはコーチを「共通敵をもつ仲間、お友達」と思ってくれるかもしれません。ある種のラポールは築けるのかもしれません。

しかしそれでは、コーチング本来の目的である、クライアントの無限の成長前進の可能性に蓋を閉じることになります。

誰のために、どんな目的でコーチングをしているのかの軸を持つ

これらの『賛同』が、コーチの無意識からか有意識からかは関係ありません。
コーチのこの心理からのネガティブ賛同は、クライアントの無限の成長前進の可能性を信じていないということであり、きつい表現をすると「クライアントに取り入る行為」「クライアントを馬鹿にしている行為」なのです。

もしコーチがそんなつもりなく、無意識にこのような賛同をしているのであれば、そのコーチはまだコーチングの本当の素晴らしさを知らない、自身が素晴らしいクライアント体験したことがないのかもしれません。

もしそれが有意識であれば、そのコーチは自分に自信がないのかもしれません。そして、自信のない自分を他人に知られたくないのかもしれません。

その答えはそのコーチが知っているはずです。

特に前者の場合は、私も含めた指導者も、自責で向き合うべきものなのかもしれません。

いずれにしてもコーチは常に、“誰のために、どんな目的でコーチングをしているのか”という揺るがない“軸”を持ち続けていなければなりません。

この“軸”は、『共感』のスキルではなく、その基盤となるコーチの心組み(マインド)です。しかし、この揺るぎない心組みの上にアウトプットされるそのコーチの『共感』は、それが言語、非言語問わず、クライアントの無限の成長前進のための強力な力となるものなのです

※コーチの赤本第7則冒頭の「原則として」は、クライアントがご自身をあまりに責め過ぎているなど、極度にエネルギーが下がり過ぎている場合はその限りでないということです。今の、エネルギーが下がりきったクライアントが前進するために、必要なフロントステップとして、意図をもった建設的なネガティブ賛同であれば良いのです。


以上が、プロコーチに必要なスキルのふたつ目となる「共感力」です。

ぜひ一度『共感』と『賛同』の違いについても含め、コーチが持つべき「共感力」について深く考えていただければと思います。

本コラムでは、「プロコーチとして生計を立てるために最低限必要なスキルとマインド」をテーマに、5回に分けてコラムを連載しています。

これらは、プロコーチとして生計を立てるために必要な

  1. クライアントを獲得し
  2. その契約を継続する

この2つを実現するために、最低限必要なスキルとマインドだと考えており、これらについてしっかり理解しておくことが、『プロコーチとして生計を立てる』ために必要だと考えています。

プロコーチとして生計を立てるために最低限必要なスキルとマインド

目次