女性がつるされたお肉を見定めている画像

よりおいしい肉のブランドは?部位は?肉に合った焼き方は?おいしい肉を追求する肉好きの方の興味は尽きないのではないでしょうか?
2014年頃に欧米から日本に持ち込まれ、そのおいしさで一気にブームになった「熟成肉」。

多くの人が、そのワードを一度は耳にしたことがあると思います。しかし、実際に「熟成」とはどういう状態のことなのか、熟成方法や通常の肉との違いについて十分に理解している人は、実は少ないのが現状ではないでしょうか。

今回は、熟成肉について知っておきたい基礎知識をご紹介します!

熟成肉とは

「熟成肉」とは、適正な保存環境で一定期間寝かされた食肉のこと。熟成されたものは通常に比べて、旨味成分が増加しているのが特徴です。

食肉は死後硬直の後に酵素の働きでタンパク質が分解されて、ペプチドやアミノ酸といった旨味成分になります。そうした旨味成分を熟成することによって意図的に増やしているのが、熟成肉のおいしさのメカニズムなのです。

古来より「肉は腐る直前がおいしい」と言われていたため、熟成肉というと腐る直前の肉をイメージする人も多いかもしれませんが、“腐敗”と“熟成”は全く異なるものです。

熟成は、ただ放っておけばいいのではなく、適正な微生物が繁殖するように保存温度や保存期間のコントロールが必須になります。

レアのお肉の切られている画像

熟成肉は肉食大国のアメリカで誕生し、熟成技法が確立されました。日本に熟成肉の技法が持ち込まれたのは2014年頃、ニューヨークのステーキ専門店が東京に進出した際に伝えられたのが最初といわれています。

4つの熟成法とは

肉の旨味を増加させる熟成肉ですが、熟成法には大きく分けて4つの方法があります。
それが「ドライエイジング」「ウェットエイジング」「枯らし熟成」「乳酸菌熟成」。

ドライエイジング(乾燥熟成)」は文字通り、肉を乾燥熟成させる方法です。
0度くらいのチルド状態の低温に保たれた大型熟成庫の中、頭部や手足、皮と内臓を取り除き、骨が付いたままの枝肉を吊るして風にさらし、乾燥させる技法です。

この方法は、固い赤身肉を柔らかくする技法としてアメリカで確立されました。脂身の少ない赤身肉に適していて、アメリカ国内で多く消費されるアンガス牛などはこの方法で熟成されています。旨味を増加させつつ肉質は柔らかく、香ばしいナッツのような香りになるのも特徴的。

しかし、この熟成法は日本の霜降り牛のような脂肪分の多い肉には適していません。

カットされたお肉がつるされている画像

ふたつめの熟成法は「ウェットエイジング」。こちらは、部位ごとに切り分けられた肉を真空パックに入れ、10日前後寝かせる技法。もともとは肉を輸送する際に肉の劣化を防ぐために誕生した方法です。
肉を数日間寝かせると肉質が柔らかくなり、旨味が増すことが判明したことで、この技法が確立されました。

保存目的がメインのウェットエイジングは、ドライエイジングに比べると、旨味の増加度合は少ないものの、管理が容易であるという利点があります。

パッキングされたお肉の画像

日本の伝統的な熟成技法「枯らし熟成(枝枯らし)」は、枝肉のまま風を当てずに熟成させる技法。ただし、熟成した肉は歩留まりが悪いために利益率が悪く、もとより和牛は熟成させなくても肉質が軟らかいことから、今ではあまり用いられていません。

また、チーズやヨーグルトなど乳酸菌を付着して熟成させる「乳酸菌熟成」は、脱骨した肉にチーズやヨーグルトなどの乳酸菌をふりかけてチルドで保存する方法。
乳酸菌が肉全体に蔓延するため、腐敗が起きにくいのが特徴です。ただし、乳酸臭がするため、実用化して販売しているお店はまだ少ないようです。

近年、健康志向で赤身肉の需要が増えたことで赤身である熟成肉への関心が高まり、一気にブームになったと言えるでしょう。

熟成肉をおいしく食べるコツ

熟成技術によって旨味がアップした熟成肉。この美味しさを最大限に味わうには、肉を塊のまま焼いてカットする「塊焼き」と呼ばれる焼き方が最適です。

熟成肉は旨味が増加している一方で、水分が少なくなっているのも特徴の一つ。通常の肉のようにカットした後に焼いてしまうと、肉汁がなくなりパサパサした食感になってしまう恐れがあります。

そこで肉を塊のまま焼いて、火にあたる表面積を少なくする塊焼きが推奨されています。塊で焼くことによって表面にしっかりと焦げ目をつけつつも、旨味は肉の中に封印。肉の中心部は生に近いミディアムレアに保つことができます。

プレートの上に乗った厚切りステーキの画像

肉は焼きあがった後にカットしてサーブしますが、見た目にも豪快な塊焼きこそが、熟成肉の旨味を最大限に引き出せる調理法といわれています。

ローストした時の香りと風味の良さは、熟成肉の大きな特徴のひとつ。あらかじめスライスしてから焼きあげる従来のステーキか、表面を焼いてから薄くスライスして食べるローストビーフが定番だった日本において、塊肉のまま焼いて味わうというスタイルが根付いたのは、この熟成肉の食べ方からはじまったといえそうです。

熟成肉の注意点と将来性

肉を一定期間低温で寝かせることで旨みを引き出す熟成肉。しかし、この熟成肉の明確な基準や規定が日本では定められていません。よって、肉を扱う企業や店舗ごとに独自でルールを決め、それに沿って熟成肉をつくっているのが現状です。

熟成肉は牛肉以外にも、豚肉や羊肉、イノシシやシカなどのジビエで行う場合もあり、食肉の保存技術も日々向上する中で、熟成技術も進歩しています。

森の中にたたずむ猪の画像

昨今では、これまで食肉には適さないとされていた経産牛(出産経験のある牛)のほか、ホルスタインやジャージー牛のような乳牛の肉も、適切に熟成を施すことで旨味を引き出し、おいしく食べることが可能に。地球規模で深刻な問題として進行している食糧問題解決の切り札となる可能性も秘めています。

牧草生い茂る草原にいる牛の画像

日本ドライエイジングビーフ普及協会などの組織では、すでに制定されているアメリカの規定を参考に、日本へのドライエイジングビーフ(乾燥熟成肉)の普及を目的とする活動が行われています。

まとめ

熟成することで肉の持っているポテンシャルをうまく引き出したのが「熟成肉」です。
“熟成肉=滋味深くおいしい肉”として日本国内でも注目を集めていますが、これは一過性のブームではなく、今後はスタンダードとして定着していくのではないでしょうか。

そのためには、規定の制定やガイドラインを完成させることが急務です。厳しい審査をパスした熟成肉だけが市場への流通を許可されることで、ブランド力強化と安心・安定した供給の確保が見込まれます。

<参考資料>
「熟成肉は美味しくて体に良い」(株式会社フード・ペプタイド、2015/5/25)

「熟成肉とは」(熟成肉の格之進)

「熟成肉とは?」(FOODee、2018/3/1)