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Photo: Malte Mueller / Getty Images

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アトランティック(米国)

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Text by Leo Valdes and Kinnon MacKinnon

性別移行する人の数は日本でも増えているが、なかには元の性別に戻ることを選ぶ人たちもいる。いま、こうした人々の経験を理解することが非常に重要だと、米国とカナダのトランスジェンダー研究者らは主張する。

「地獄のような10年間」


元米海軍特殊部隊のクリスティン・ベックは、2013年にトランスジェンダー女性であることをカミングアウトするや、一躍トランスジェンダー・コミュニティの擁護者として注目を集め、左派および主要中道左派メディアで喝采とともに報じられるようになった。

だが、ここ数ヵ月の間に右派系のウェブサイトに目を通していなければ、ベックがその後、再移行(性別移行した後、また元の性別に戻ること)して、クリス・ベックという本名に回帰した事実は知らないかもしれない。

2022年末、ベックは「この10年間は地獄のような人生だった」と胸の内を明かした。ベックの当初の性別移行を熱狂的に報じたメディアの大半は、彼の人生の物語における最新章をまだ取り上げていない。

私たち筆者は二人ともトランスジェンダー研究を専門としている。一人はトランスジェンダーの権利擁護運動の歴史を研究しており、もう一人は最近、再移行した人々の経験について踏み込んだ研究を行った。

私たちは全米各地で起きている、トランスジェンダーの子供やその家族を標的にした活動や、性別違和の治療の選択肢を制限する法律を可決しようとする動きに強く反対している。

だが、トランスジェンダーの権利擁護団体と主流メディアは、再移行の現実を軽視する態度を慎むべきであり、読者や視聴者が「再移行など瑣末な問題にすぎない」と結論づけるような状況を招いてはならない。実際はそうではないからだ。


既存の研究結果の問題点


長年にわたり、再移行率は一桁台前半に留まると考えられてきた。1960年から2010年までにスウェーデンで法的性別を変更した人を対象に実施された画期的な調査では、出生時に割り当てられた性別への回帰を申請した人は2%に過ぎなかった。

さらに低い再移行率が示されている研究もあるが、データの数自体が比較的乏しいことに加え、これらの調査以降、トランスジェンダーの文化的状況は目まぐるしく発展してきた。そのため、こうした過去の調査結果は、現在のトランスジェンダーや自身の性別に疑問を抱く人々のはるかに広範で多様な状況を、適切に予測できていない可能性がある。

従来のジェンダー規範に抗う「ジェンダー・ノンコンフォーミング」と呼ばれる人たちは、彼らが抱えているあらゆる複雑さゆえに、深い思いやりとともに関心を向けられるべき存在だ。

再移行の経験を無視することは、彼らを傷つけるだけでなく、医師や科学者がジェンダー・アファーミング・ケア(トランスジェンダーの人々が自認するジェンダーを尊重する医療)の向上に必須のデータを取り逃がしてしまうことを意味する。

元の性別に戻るさまざまな理由

残り: 3217文字 / 全文 : 4578文字

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