【敵意帰属バイアス】特徴や原因・克服法を分かりやすく解説
あなたは、職場や学校で知り合い2人が何かヒソヒソと話していたら、どう感じますか?
選択肢A:私に関係のない話だろう。
選択肢B:私の悪口を言っているのかも。
「B」を選んだ方は、もしかしたら「敵意帰属バイアス」が強い可能性があります。
敵意帰属バイアスとは、「他人の言動が、自分への敵意に思えてしまう性質」のことです。
本記事では、敵意帰属バイアスに関する代表的な学術論文を参考に、定義や原因、具体例などを分かりやすく解説していきます。
敵意帰属バイアスとは?
この心理傾向は、アメリカの心理学者ドッジによって、子どもたちの行動を観察している中で発見されました。
敵意帰属バイアスが強い人は、他人の何気ない行動でも、敵対的に受け取ってしまいます。
例えば、人ごみの中で肩がぶつかった場合、普通の人ならば、
「人が大勢いるのだからしょうがない。」
と考えます。
一方、敵意帰属バイアスの強い人は、
「わざとぶつかってきた。」
と考えてしまう傾向があります。
また、こちらがチラっと見ただけなのに、ヤンキーがよく言う、
「何見てんだ!コラァ!」
も敵意帰属バイアスが強く現れている例と言えるでしょう。
このように、相手の行動を悪く歪めて解釈してしまう性質なのです。
敵意帰属バイアスが強い人はどんな人?
敵意帰属バイアスと人の攻撃性は密接にリンクしています。
そして、敵意帰属バイアスが強い人は、攻撃性も強くなると言われています。*2
クリックとドッジによると、人が社会的な状況に対して適切なふるまいをするためには、以下の6つのステップを順に踏まなければならないとされています。*3
①相手の行為を正しく記憶する
②記憶した情報を正しく説明できる
③相手の行為の目的を理解する
④どのような反応をすればよいか、いくつか選択肢を思い浮かべる
⑤今の状況に最もふさわしい選択肢を選ぶ
⑥選択された反応を実行する
例えば、人ごみの中で肩がぶつかってしまった瞬間、あなたの心の中では、
①(正しく記憶)
「あ!肩がぶつかった!」
②(正しく表現)
「今、人ごみの中で誰かとぶつかったんだな。」
③(目的理解)
「混んでいたから、相手の人は誤ってぶつかってきたのだろう。」
④(選択肢作成)
「怒る」、「謝る」、「無視する」・・・
⑤(行動選択)
「一応、すれ違いざまに一言謝っておくか。」
⑥(実行)
「すみません。」
これらの6つのステップが正しく実行されないと、攻撃行動に出やすくなるということが分かっています。
例えば、ステップ③で
「相手はわざと自分にぶつかってきた」
と誤って目的を理解してしまうと、「怒る」という攻撃的な選択肢が実行されてしまうわけです。
まさしく、これは敵意帰属バイアスであると言えるでしょう。
つまり、「敵意帰属バイアス」と「攻撃的な人格」は表裏一体なのです。
敵意帰属バイアスの原因とは?
子どもの頃の発達に問題があると、敵意帰属バイアスが強くなると言われています。
生育環境が悪く、心が健全に成長できなかった子どもたちが、敵意を感じやすくなるのです。
敵意帰属バイアスを増長させる代表的な例として、「仲間はずれにされた経験」と「親からの虐待」があります。
仲間はずれにされた経験
コリーとドッジの研究によると、小学校で仲間はずれにされた経験のある子どもは、そうでない子どもに比べて攻撃的な行動を取りやすくなることが示されました。*4
さらに、仲間はずれの経験をうまく乗り越えられないと、敵意帰属バイアスがより強くなることが分かっています。
親からの虐待
ワイスらの研究によると、幼少期に親からの虐待や厳しいしつけを受けた子どもは、攻撃的になりやすいということが示されました。*5
これは、厳しいしつけによって、子どもの社会的な情報処理能力がうまく発達できないからだと言われています。
敵意帰属バイアスの具体例
敵意帰属バイアスを持つ人は、珍しいわけではありません。
むしろ多かれ少なかれ大勢の人が持っていると言われています。
そのため、日常生活のさまざまな場面で遭遇することがあるでしょう。
職場にて
あなたが職場の廊下を歩いていると、同僚2人が何か笑いながら話していました。
あなたが通り過ぎようとすると、2人はチラッとこちらを見てきました。
もし、あなたが敵意帰属バイアスの強い人ならば、
「私のことを嘲笑っていたに違いない。」
と考え、怒りの感情に支配されてしまうでしょう。
しかし、同僚2人はただ昨日の面白かったテレビ番組の話をしていただけかもしれません。
また、あなたが通りかかったから反射的に振り向いただけかもしれません。
友人のバースデイパーティにて
今日は大学のサークルメンバーの誕生日会が開催される日です。
大勢のサークルの仲間たちが参加し、自分もその一人です。
会場に着くと、バースデイケーキとして大きなイチゴのショートケーキが用意されていました。
準備係の1年生が人数分のケーキを切り分けて、みんなに配ってくれました。
ところが、自分の前に置かれたケーキにだけイチゴが乗っていませんでした。
もし、あなたの敵意帰属バイアスが強ければ、
「準備係の1年生らに意地悪をされた。今度、仕返ししてやる。」
と、怒って攻撃的な態度を取ってしまうでしょう。
1年生からすれば、急いで人数分を取り分けなければならなかったので、細かいところをいちいち気にするヒマがなかったのかもしれません。
新入社員研修にて
あなたは、とある会社の新入社員です。
研修の初日、グループごとに分かれてディスカッションを行いました。
あなたが意見を言ったところ、ある男性が反対意見を述べてきました。
翌日のディスカッションでも、その男性はあなたの意見に反論してきました。
もし、あなたが敵意帰属バイアスの強い人である場合、
「私、あの人に何かした!?ホントむかつく!」
と激怒してしまうでしょう。
ただ、ディスカッションは反対意見がなければ成立しません。
その男性は、たまたま2日連続であなたに反論してしまっただけかもしれません。
敵意帰属バイアスのデメリットは?
外敵からの敵意を敏感に察知することは、人間が生きていくうえでとても重要です。
しかし、他人の善良な行動までをも敵視してしまっては、多くのデメリットが発生し得るでしょう。
では、どのようなデメリットがあるのでしょうか?
良好な人間関係を築けない
敵意帰属バイアスの強い人は、人間関係をうまく築くことができません。
なぜなら、相手の悪意のない行動にまで敵意を向けて攻撃的になってしまうので、相手からとても不快に思われてしまうからです。
その影響で、例えば、
・離婚
・退職やクビ
・絶縁
などの確率が高まる可能性があります。
ひどい場合には、多くの人から嫌われて、社会で孤立してしまうかもしれません。
ストレスがたまりやすい
敵意帰属バイアスの強い人は、他人のさまざまな行動が自分への攻撃に思えてしまうので、普段から緊張状態が長く続いています。
そのせいで、とてもストレスがかかり、ますますイライラしてしまうでしょう。
また、些細なことでも感情が抑えきれず、怒りが爆発することもあるでしょう。
犯罪を起こしやすい
敵意帰属バイアスが強い人は、犯罪率が高まるという研究報告があります。*6
これは敵意帰属バイアスが強いと、攻撃性も強くなることと関連しています。
些細なことがきっかけで、傷害事件や暴行事件に発展してしまうことがあります。
また、敵意帰属バイアスが原因で社会になじめず、犯罪に手を染めてしまうケースもあるでしょう。
敵意帰属バイアスの克服法
敵意帰属バイアスが強いことを自覚するのはとても難しいことです。
なぜなら、このバイアスは無意識のうちに働くからです。
しかし、本記事を読んでいただいて、少しでも
「私、敵意帰属バイアスあるかも?」
と感じたのであれば、克服するべきでしょう。
幸いにも、敵意帰属バイアスに基づく攻撃性は、治療やセラピーにより改善することが分かっています。
とはいえ、専門的な治療プログラムを受ける必要がある方は、敵意帰属バイアスが強い方に限られます。
一般的な方には、これから紹介する簡単な改善法をおすすめします。
敵意帰属バイアスに気づく
敵意帰属バイアスについて知ったのであれば、もうその時点で少なからず改善されているはずです。
なぜなら、これから体験する出来事の中で、
「あ!今の敵意帰属バイアスかも!?」
と自分から気づくことができるからです。
今後、敵意帰属バイアスを意識することによって、あなたの怒りっぽい性格を改善できるでしょう。
冷静になる時間を作る
敵意帰属バイアスから来る攻撃性は、計画的な攻撃ではなく、その場の感情に由来する突発的な攻撃行動であると言われています。
つまり、ついカッとなって反撃してしまうのです。
したがって、怒りが爆発しそうになったときは、時間をおいて状況を冷静に考えてみてください。
そうすることで、後悔するような事態を避けられるでしょう。
初めから「わざとだ」と決めつけず、理由を聞いてみる
もし、あなたが誰かから「いたずらされた」と感じたならば、思い切って相手に話しかけてみてください。
これは、とても勇気が必要だと思います。
しかし、相手は別に悪気があってやったわけではないので、にこやかに話しかけてみましょう。
例えば、学校で自分の机にだけ授業プリントが配布されていなかった場合には、プリントを配った人に、
「私のプリントが無いようなのですが、1枚もらえませんか?」
と聞いてみましょう。
そうすると、案外、相手から、
「あ!すみません。私のミスです。すぐ用意します。」
という返事が返ってくるかもしれません。
初めから「攻撃だ」と決めつけず、行動の理由を相手に尋ねてみましょう。
まとめ
本記事では、敵意帰属バイアスの定義や原因、具体例、デメリット、克服法についてご紹介しました。
簡単におさらいしますと、
ストレスがたまりやすい
犯罪を起こしやすい
冷静になる時間を作る
初めから「わざとだ」と決めつけず、理由を聞いてみる
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
引用文献
*1:K.A. Dodge, Social cognition and children’s aggressive behavior, Child Development, 51 (1980), 162-170.
*2:B.O. Castro, J.W. Veerman, W. Koops, J.D. Bosch and H.J. Monshouwer, Hostile attribution of intent and aggressive behavior: A meta-analysis, Child Development, 73 (2002), 916-934.
*3:N.C. Crick and K.A. Dodge, A review and reformulation of social information processing mechanisms in children’s social adjustment, Psychological Bulletin, 115 (1994), 74-101.
*4:J.D. Coie, K.A. Dodge, Multiple sources of data on social behavior and social status in the school: A cross-age comparison, Child Development, 59 (1988), 815-829.
*5:B. Weiss, K.A. Dodge, J.E. Bates and G.S. Pettit, Some consequences of early harsh discipline: Child aggression and a maladaptive social information processing style, Child Development, 63 (1992), 1321-1335.
*6:K.A. Dodge, J.M. Price, J. Bachorowski and J.P. Newman, Hostile attribution biases in severely aggressive adolescents, Journal of abnormal psychology, 99 (1990), 385.