衛関係費防衛力抜本的強化の2年目

 防衛省は8月31日、令和6年度予算の概算要求を決定し、過去最大の総額7兆7385億円を計上した。「安保3文書」改定後初となる予算要求では、5年度当初予算から17.2%増とし、防衛力の抜本的強化を進めたい考えだ。具体的には、敵部隊・艦艇の射程外から攻撃する「スタンド・オフ防衛能力」の整備や、高度化する弾道ミサイルなどの脅威から防護するため、地上配備型迎撃システムを搭載した「イージス・システム搭載艦」2隻の建造を要求。加えて、常設の「統合司令部」や台湾有事を想定し、南西地域への輸送部隊を新編するための費用なども盛り込んだ。

イージス・システム搭載艦2隻、極超音速誘導弾、「継戦能力」強化に弾薬確保など

 政府は安保3文書の改定で、令和9年度までの5年間で計43兆円程度の予算規模を確保する方針を示しており、5年度の6兆6001億円を大きく上回る規模となった。

スタンド・オフ防衛

 敵のミサイル拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)を持つスタンド・オフ防衛能力では、飛距離を1000キロ以上に改良した12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型・艦発型・空発型)などの研究開発や量産、取得に関する費用(7551億円)を要求した。

 このうち、12式地対艦誘導弾能力向上型の地上装置などの取得(144億円)のほか、新たに同能力向上型(艦発型)搭載のための器材調達(6億円)の費用を計上。音速の5倍以上の「極超音速」で低い高度を飛ぶ極超音速誘導弾の製造態勢の拡充など(85億円)も進めたい考えだ。

統合防空ミサイル防衛

 反撃能力とミサイル防衛システムによる迎撃を組み合わせた「統合防空ミサイル防衛(IAMD)」には1兆2713億円を求めた。

 この中には、「イージス・システム搭載艦の建造費(2隻・3797億円)が盛り込まれた。全長190メートル、横幅25メートルとなる見込みで、乗組員は約240人と既存のイージス艦よりも20%省人化した。

 また、反撃能力として活用する米国製巡航ミサイル「トマホーク」も搭載可能な垂直発射装置(VLS)を備える。

画像: 統合防空ミサイル防衛

無人アセット防衛

 革新的なゲームチェンジャーとなりうる無人アセットには、1184億円を要求。情報収集や警戒監視、偵察に活用する無人航空機(UAV)の購入費用に充てる。

 その中で注力するのは、水中の無人アセットの開発だ。無人水中機(USV)の試験運用の費用(160億円)を新たに盛り込み、国産USVの開発促進を図るほか、戦闘支援型多目的USVの研究(245億円)も進める。警戒監視や対艦ミサイル発射などの機能を選択的に搭載し、有人艦艇を支援するステルス性を有したUSVの実現を目指すという。

 また、島嶼(しょ)部への補給品輸送を想定して無人水陸両用車(211億円)のほか、無人機をコントロールする有人機も同時に開発を進める。無人水上飛行艇の救難以外の活用方法(1億円)についても検討する。救難機「US2」の後継機ではなく、新型として開発するという。

新領域

 宇宙領域の能力強化には、1654億円を要求。「宇宙領域把握(SDA)」では、SDA衛星の整備に172億円を盛り込んだ。8年度の打ち上げを目指し、衛星の運用準備、打ち上げや機能確認試験などを実施する。

 サイバーの能力強化には、2303億円を計上。陸自システム通信・サイバー学校(23億円)、陸自高等工科学校(2億円)のサイバー教育基盤の拡充を図るほか、防衛大学校の情報工学科を「サイバー・情報工学科(仮称)」に改編する。こうした施策を進め、サイバー専門部隊の隊員を約890人(4年度末)から9年度末までに約4000人の増員を目指す。

 電磁波領域では、通信・レーダー妨害能力のほか、電子防護能力などの強化に取り組む。

画像: 新領域

新型FFM、F35導入

 陸海空の装備品の開発や購入には、1兆3787億円を要求。新型FFM(基準排水量4500トン)2隻を建造(1747億円)。12式地対艦誘導弾能力向上型(艦発型)を搭載し、ソナー(水中音波探知機)の能力も向上させる。

 また、ステルス戦闘機「F35B」7機(1256億円)を購入。配備先は新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県新冨町)となる見込みで、同基地に「臨時F35B飛行隊(仮称)」を新設する。

南西諸島への補給強化

 台湾有事を想定し、南西諸島などの補給体制を強化する。「自衛隊海上輸送群(仮称)」を6年度末に新編。広島県の海自呉基地に司令部を置く。南西地域への機動展開能力を向上させるために共同の部隊を組織した。人員は約100人規模。機動舟艇3隻(173億円)も配備する。

 また、民間海上輸送力の活用事業(325億円)の費用を求めた。現行の民間活力導入(PFI)船舶の契約完了が7年末となっており、新たに2隻のPFI船舶を確保する。

弾薬の確保

 自衛隊の運用を円滑にするため、弾薬・燃料の確保、可動数の向上(部品不足の解消)、施設の強靭(きょうじん)化(既存施設の更新、火薬庫の整備など)などを図るため、「弾薬の確保」として9303億円を計上した。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、長期間戦える「継戦能力」の強化を図るのが狙いだ。

 また、装備品を最大限活用するため、維持整備には2兆3515億円を要求するなど、台湾有事も念頭に、防衛力の抜本的な強化を図る方針だ。

基本的考え方 防衛省

 ○令和6年度概算要求では、「防衛力整備計画対象経費については、『防衛力整備計画』を踏まえ、所要の額を要求する」との概算要求基準に基づき、計画期間内の防衛力抜本的強化実現のため、6年度中に着手すべき事業を積み上げるとともに、昨年度からの事業の進捗(ちょく)状況も踏まえ、歳出予算の要求額を着実に増額。

 ○「国家防衛戦略」(令和4年12月16日閣議決定)および「防衛力整備計画」(同)に基づき、防衛力の抜本的強化にあたって重視する能力の7つの分野について、重点的に推進。例えば、イージス・システム搭載艦の建造に着手するとともに、スタンド・オフ防衛能力、無人アセット防衛能力などの将来の防衛力の中核となる分野の抜本的強化を引き続き実施。現有装備品の最大限の活用のための可動数向上や弾薬確保、主要な防衛施設の強靭(きょうじん)化への投資も引き続き重視。

 ○また、防衛力を「人」の面から強化するため、優秀な人材の確保、生活勤務環境・処遇の改善などを通じた人的基盤強化、衛生機能の強化などを引き続き推進。さらに、いわば防衛力そのものである防衛生産・技術基盤の維持・強化のため、防衛生産基盤強化法に基づく措置を含めた各種の事業を着実に実施するとともに、研究開発や民生の先端技術の積極的活用に向けた取り組みを推進。

 ○取得にあたっては、足下の物価高・円安の中、経費の精査に努めるとともに、まとめ買い・長期契約などによる装備品の効率的な取得を一層推進。

図・表は全て防衛省より

あわせて防衛日報PDF版もご覧ください。

→防衛日報9月6日付PDF


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