※本稿には暴力や性的暴行の脅威に関する記述がある。

増え続ける顧客の無礼な言行

 2020年10月、クリーブランド・クリニックで患者体験の統括責任者を務めていたエイドリアン・ボアシ医師は大きな問題に直面していた。新型コロナウイルスだけではない。パンデミックですでに疲弊していた病院の看護・介護担当者から、ボアシの元に危惧すべき問題が次々と報告されていたのだ。彼らは患者や来訪者から、心ない言葉や金切り声の抗議、さらには人種差別的な侮辱など、不当な扱いを受けたと口々に訴えた。ボアシは筆者に「これほど救いがたい状況はかつてありませんでした」と漏らした。

 筆者は20年以上にわたって、職場の無礼(インシビリティ)──礼を失した態度、ぶしつけな言動、無神経な振る舞いと定義する──について研究し、世界中の数十万人を対象として無礼を受けた経験について調査してきた。しかし、ボアシ医師(現在は、オンライン調査ツールを提供するクアルトリクスの最高医療責任者であり、クリーブランド・クリニックの神経科医でもある)と話して以来、無礼な振る舞いが時とともに深刻化しているのではないかと思うようになった。