「私は直感が鋭い」という思い込みが危うすぎる理由

「ビビッと来たほうに決める!」など、人生の重要な場面では直感で判断しているという人も多いのではないでしょうか。「元・日本一有名なニート」としてテレビやネットで話題となったphaさんは、「私は直感が鋭い」という思い込みはときに危うく、陰謀論などの極端な思想にハマるきっかけになる可能性もあると語ります。
今回は、社会の枠組みにとらわれない生き方をしてきたphaさんによる、約100冊の独特な読書体験をまとめた著書『人生の土台となる読書』の発売を記念し、特別インタビューを実施。読書を通じて学んだという判断軸の作り方や、読書の本質について聞きました。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

すぐに役に立たなくても読書をするべき理由

──phaさんは今回の本の中で、「読書には2つの種類がある」と書かれていましたよね。まずは、その2つの違いについて教えていただけますか?

pha:「すぐに効く読書」と「ゆっくり効く読書」ですね。

 一見、仕事術やライフハックなどについてまとめられた、「すぐに効く読書」のほうがいいように思えますが、今回、僕が提案しているのは「ゆっくり効く読書」のやり方です。

 読み終わってすぐに使えるようなノウハウは得られないけれど、遅れてじわじわと、しかし確実に人生を変えてくれるような本こそが、人生の土台を作ってくれると思っています。

──とはいえ、社会人として働いていると、つい「すぐに効く本」に手が伸びがちですよね。たとえば学術書などは読んでいて面白いのですが、「この本を読む意味って何なんだろう?」とふと我に返ってしまうこともあって。「いつ役に立つかわからない本を読んでいる暇があったら、仕事ですぐに使える本を読まなくちゃ」と焦る気持ちが湧いてきたり……ということもよくあると思うんです。

pha:なるほど。

──そこでお聞きしたいのですが、phaさんは「読書の本質」とは何だと思いますか。あえて、「ゆっくり効く読書」を提案した理由についてお伺いできればと思います。

pha:たしかに、「ゆっくり効く読書」で得られるのは今すぐに役立つ情報ではないので、「何のために読むんだろう?」と考えてしまう人もいるかもしれませんね。ただ、僕は「ゆっくり効く読書」こそが、自分らしく自由な生き方を作ってくれると思っています。

 少し抽象的な言い方になるけれど、学びの本質とは、いろんな視点からものを考えられるようになること、つまり、「絶対的な正しさは存在しない」と知れるようになること、ではないかな、と思います。

 どうしても人間は「絶対的な正しさ」を信じたくなってしまいます。多種多様な本を読むと「世の中にはこういう生き方があるんだ」「こういう考えも存在するんだな」と、一つの視点に偏らずに物事を考えることができる。そういう経験をしていないと、視野が狭くなったり、特定の思想にハマったりしやすいかもしれません。

なぜ、多くの人が「陰謀論」にハマるのか

──最近もよく話題になっていますが、いわゆる「陰謀論」を信じてしまう人も多いですよね。そういった極端な思想を信じてしまう人がいるのはなぜなのでしょうか。

pha:人間は「わかりやすいストーリー」を信じたがるようにできているんですよね。

「私は直感が鋭い」という思い込みが危うすぎる理由

 人間の脳が陥ってしまいやすい非合理的な判断のことを「認知バイアス」というんですが、人は「無意味な出来事」に耐えられないんです。何事にも「意味」や「物語」を求めてしまう心の弱さを持っている。だから、辻褄の合う、絶対的な正解を提案してくれるような「わかりやすいストーリー」は、すごく気持ちいい。

 説明がつかなかったものに説明がつく瞬間、スカッとしますよね。推理小説が面白い理由もそれです。

──たしかに。仕事でも理不尽なことがあると、「神様は乗り越えられる試練しか与えない」「こんなつらい状況になってしまっているのには何か理由があるはずだ」とか、つい考えてしまいますよね……。

pha:そうなんです。ただ、これは仕方のないことなんですよね。人間は元々、「原因」と「結果」を結びつけることで生き残ってきた生き物です。たとえば、「この痕跡があるから近くに獣がいるはずだ、逃げよう」とか、「こういう雲が出ると天候が崩れる。今から準備しておこう」とか、因果関係を推測し、物語を作ることによってトラブルを回避してきました。そうして生き抜いてきたのが人間なんです。

──そうか、その本能が今でも私たちに残されているわけですね。

pha:これが「認知バイアス」なんですが、言うなれば人間に生まれた「心のバグ」のようなものです。それは原始の世界を生きるには有効だったけど、複雑すぎる現代社会ではときどきエラーを起こしてしまう。

 だから陰謀論にハマってしまう人がいるのも、仕方のないことなのかもしれません。現代社会というのはあまりにも複雑になりすぎてしまった。複雑すぎるので、専門家ほど「これはこうかもしれないけど違うかもしれない」という曖昧な言い方しかできなくなっている。でも陰謀論は「真実はこれだ!」と断言してくれる。それがとても気持ちいいんですよ。

──なるほど。でも人間には元々そういった「心のバグ」があるのだと思うと、ちょっと安心できますね。自分だけが弱いわけじゃないと思えるというか……。

pha:そうなんですよね。僕は認知バイアスや進化心理学の本を読んで、「人間にはそういう心の弱さがある」「だからしかたない、自分が悪いんじゃない」と知ったことで、とても生きやすくなりました。

 これが『人生の土台となる読書』で伝えたかったことの一つですね。「自分の責任じゃなくて、人間がもともとそうなっているからなんだ」と考えると、気がラクになりますよ。