私たちの人生には、就職や転職、結婚といった一大イベントから、日常における小さな出来事まで「正解のない問題」が無数にある。そうした問題に直面した時に、他人の意見に流されずに「自分だけの意見」を持つ方法を知っておくことは、自分らしい人生を歩んでいくために非常に重要だ。人気社会派ブロガーのちきりんさんの最新作『自分の意見で生きていこう』は、そうしたメッセージと方法論をまとめ、大きな反響を呼んでいる。
そこで今回は、同書の刊行記念セミナー(ダイヤモンド社「The Salon」主催)の質疑応答の模様を、全2回のダイジェストでお届けする。「意見を持つこと」「自分だけの人生を生きること」についての切実な質問への回答は大いに参考になるはずだ。(構成/根本隼)

「素直って何がいいの? 頑固のほうが全然いい!」

やる気がある時とない時とでやるべきことを分けることが重要

Q7. やる気がある時とない時の差が激しいです。ちきりんさんは、やる気を上げる、もしくはやる気が下がらないための対策をしていますか。

ちきりん 私もやる気のあるなしの差が激しく、しかも、やる気のある時間がとても限られています。なので、やる気がある時にすべきことと、やる気がない時にやるべきことを別々にToDoリスト化しています。

 あと、やる気が出る時間も把握できていて、私の場合は起きた直後の数時間です。寝ることで色々とリセットされ、目が覚めた瞬間はとても頭が冴えているんです。なので、起きた直後の1~2時間はもっとも優先度が高いことに専念します。

 しかし、一定時間集中すると疲れてきてやる気が低下してくるので、今度はあらかじめリスト化しておいた「やる気がない時にやるべきこと」に取り組みます。

 そのリストに載っているのは、単純作業か、もしくは家事作業です。洗濯は、服を放り込んでボタンを押すだけだし、床にクイックルワイパーをかけるのもまったく能力を要しません。特に食器などの洗い物は水に触れられ、いい気晴らしになります。

 このように、やる気がある時にやるべきことと、やる気がない時にやるべきことを分けて把握しておくことが重要です。そうしないと、起きた直後のやる気のある時間に掃除などをして、やる気を無駄にしてしまいかねません。

 自分のやる気が出るタイミングを理解しておき、その時間を最も重要なことに当てれば、やる気のある時間が短くても生産性が上げられます。

「頑固さ」があれば自分の軸がぶれなくなる

Q8. 「他者の意見を取り入れる素直さ」と「自分の意見を持つ頑固さ」のバランスの取り方について教えてください。

ちきりん 面白い質問ですね。皆さんにとって、素直と頑固、どちらがポジティブな概念でしょうか。もしかすると、素直なのがポジティブで、頑固なのがネガティブでしょうか。実は私の場合は逆で、素直というのはネガティブな概念で、頑固さはポジティブな概念です。

 私は、「素直って何がいいの?」とさえ思っています。素直な子とか素直な人って、自分の意見がなく、誰かに指示されたら無思考にそれに従ってしまうイメージなので、あまりポジティブに捉えられません。

 一方、頑固であることって大切ですよね。何度もなんども思考を深掘りし、自分の意見を固めないと頑固にはなれない。「絶対にこれだ」と言えるほど考え尽くして手に入れた「頑固さ」があれば、周りから何を言われても自分の軸がぶれなくなります。

思考に使える時間は大切にすべき

Q9. ちきりんさんが物事をじっくり考える時は、どのくらいの時間をかけて考えていますか?

ちきりん だいたい1日に30分×4回くらいです。たとえばTVを見ている時に興味深い情報が手に入ると、それについて30分ぐらい考えます。本や映画、展覧会などを通じて新しい刺激を受けると、また帰り道で30分ぐらい考えます。さらに、仕事上の案件に関しては、パソコンや机に向かって30分間、書いたり調べたりしながら考えるので、これらを全て合わせるとたいてい1日に2時間くらいになります。

 もちろん1時間+30分+30分というパターンもありますし、本の執筆の際などは、2時間ずっと1つのことについて集中して考える時もあります。

 ただ、年を取るにつれて考えられる時間は減ってきました。私の場合、若い時はいまの1.5倍、大体1日3時間くらいは考えることができていました。思考に使える時間は人生において非常に貴重なので、大切にしたいと思っています。

自信を失わずに楽しく過ごすために必要な考え方とは?

Q10. 考えられる限り考え尽くしたつもりでも、本当にそれでいいのか、見落としてる観点はないかと、自分の考えに自信を持ちきれません。ちきりんさんはこういう経験はないでしょうか。

ちきりん 私も自信は持ちきれていません。自信がなくても「言い切る」ところからしか思考は深まらないので、常にはっきりとポジションをとるようにしています。なので自信があるように見えているんでしょう。

 自分よりすごい人は世の中にいくらでもいるので、あまり高望みをせず、自分が自信を持って気持ちよくすごせる範囲で生きていくこと、つまり、自分が自信を持てる舞台を選ぶことが重要なんじゃないでしょうか。

 世界中の全員が同じ舞台に上がって競争をしたら、トップ数人以外の大半の人が敗者となり、自信を失ってしまいます。でも自分を含めて3人しかいない舞台を選べば、ビリでも3位です。
 
 なので、多くの人と勝負して勝つよりも、自信を失わずに楽しく過ごせる場所を探すことが大切だと考えています。それは逃げではなく、自分を守るための行動です。分相応の舞台を見つけることを、もっとポジティブに捉えればいいんじゃないでしょうか。

Q11. 仕事に愛着がないのですが、それなりに稼げることと、これまでのキャリアを無駄にしたくないという気持ちから、なかなか辞められません。このような考え方を改めるにはどうしたらよいでしょうか。

ちきりん 「仕事自体は好きではないけど、経済面やキャリア形成を考えると辞められない」という程度の状態ならば、辞める必要はないと思います。稼いだお金で土日に旅行や映画鑑賞ができて、それを楽しめているのならば、仕事が面白くなくてもトータルでは楽しい生活になりそうです。

 いっそのこと、「この仕事は好きじゃないけど、給料がいいから続ける」と割り切った方がよくて、わざわざネガティブな要素に目を向ける必要はありません。働いて手に入れたものを使って、どれだけ仕事以外の時間を充実した、楽しいものにできるか、そっちに注力すればよいと思います。

「つい残業してしまう」という心理の奥底にある「引け目」とは?

Q12. 自分のプライベートな時間を大事にしたいと思うのですが、会社に遅くまで残っている人が気になり、自分もつい残業してしまいます。周りの雰囲気に引っ張られないようにするにはどうしたらいいでしょうか。

ちきりん 早く帰りづらいという気持ちの奥底には、自分の仕事のパフォーマンスに自信がなく、「仕事の成果が出てないのにさっさと帰りやがって」と言われることが怖かったり、「協調性のないやつだ」と陰口を言われたりすることへの恐怖があるんじゃないでしょうか。

 そういった深層心理が明確になれば、自分としっかり向き合い、「無駄にオフィスに残るという協調性なんて、私にはなくていい」と割り切れたりするんじゃないかと思います。

 また、「さっさと帰っても、他の人と同程度以上に仕事をしている」と思えるようになれば、早く帰っても他者の目が気にならなくなるどころか、「ほら、私はもう仕事が終わったのよ、すごいでしょ!」という誇らしい気持ちで「お疲れ様でした。お先に-」と言えるようになるのでは?

 自分だけは絶対に残業しないと決め、デッドラインから逆算して仕事のやり方を抜本的に見直して生産性アップにトライしていたら、早く帰る姿もすごくかっこよく見えると思います。

これで、最後の回答になりましたが、皆さんがとても真摯かつ切実に、様々なことを考えていらっしゃることが、とてもよく伝わってきました。私の回答が、皆さんの人生をこれまでより少しだけでも楽しく、ワクワクするもの、ラクなものにするお手伝いになっていればとても嬉しいです。長い時間、お付き合いいただきありがとうございました。 
そんじゃーね!