宇宙

2023.10.08

「カイコ」は宇宙で活躍できるか、中国や米国が計画

Getty Images

蚕(カイコ)は、その地味な見た目とは裏腹に、何世紀にもわたって探検や開拓のきっかけとなってきた。まずは、中国と欧州を結ぶシルクロード(絹の道)の開発を促し、その後は、米国のジョージア植民地で、英国から来た入植者が商用の絹の生産を試みたこともあった。

そして現代の中国は、宇宙での長期ミッションに臨む宇宙飛行士の空腹を満たすために蚕を使うというアイデアを検討している。中国はさらに、月の裏側に有人基地を設けた際には、ここで蚕を飼うことも提唱している(中国は2019年、蚕の卵などを収めた無人着陸船「嫦娥4号」を月の裏側に着陸させた)。

実際、世界的に絹が交易されるきっかけとなった探検と、ごく初期の人類の宇宙への進出の間には、不思議な類似点がある。ジョージア植民地では「奴隷を使わない平等な絹産業」を立ち上げるという理想があったが、その取り組みはすぐに終わってしまった。同様に、宇宙への進出という理想も、実現は容易ではない。宇宙時代の幕開けから60年以上を経た今でも、私たちの生活は、この地球という惑星に否応なしに縛られたままだ。最初に月面に降り立った宇宙飛行士が「静かの海」を歩くのを中継で目撃した世代の人たちの大半にとっては、がっかりするような現状だ。

では、蚕の飼育が、長期の宇宙滞在の可能性を高める後押しになるのだろうか?

昆虫は、植物のバイオマスを、価値の高いタンパク質に非常に効率よく変えることができるようだ。ゆえに宇宙での養蚕は、確かに検討すべき選択肢と言える。米航空宇宙局(NASA)ケネディ宇宙センターの主任サイエンティストを務める植物生理学者レイモンド・ウィーラーはいう。

さらに栄養面でも、蚕は、葉物野菜には含まれない豊富な栄養素を提供できる。

「The Pharma Innovation Journal」に2022年に掲載された論文によると、蚕は繁殖率も非常に高いうえに、1kgあたりのタンパク質含有量は牛肉や豚肉よりも高く、飼育に必要な水も非常に少量で済むという。

西側社会は昆虫食を避ける傾向があるものの、日常的な栄養源として昆虫を食べる人の数は全世界で20億人に上ると推定されていることも、忘れてはならないポイントだ。

実際、蚕のサナギ1体には、18種類のアミノ酸と8種類の必須アミノ酸が含まれていると、2009年に学術誌「Advances in Space Research」に掲載された論文には書かれている。

さらに、蚕は通常、桑の木の葉を食べて成長するが、(やむを得ない場合には)他の種類の植物の葉でも生きられるという研究結果が、先ごろ発表された中国の論文で明らかになっている。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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