本棚は、新井さんの身長に合わせて一部の棚を固定し、踏み台やハシゴを使わなくとも、上までよじ登れるように。本棚と本棚の間隔も、新井さんの体のサイズに合わせて作られている。床と天井両方にくっついているため、地震のときも倒れる心配はない

◆容積で本を選んだ新婚時代

子どもの頃、将来の夢として考えていたのは、「一日中本を読んでいられる職業に就くこと」でした。さすがに小説家は簡単になれるもんじゃないと気付いていたので、それじゃあ本の帯の文章を書く「腰巻作家」、講談社の編集者、もしくは校閲、翻訳家のどれかになれたらいいなあと。

でも、講談社はそんなに簡単に入れる会社ではないとわかり(笑)、校閲を仕事にしたら読書を楽しめなくなりそうだし……。と、あれこれ悩むはずが、高校2年で作家としてデビューすることになっちゃいました。

大学卒業後、学生時代から付き合っていた現在の夫と結婚。実家を出て下北沢の借家に新居を構えたのですが、ここがまた六畳二間に四畳半とキッチンしかない狭い家で。しかも畳が通常のサイズより小さくて、最低限の家具を並べたら、小さな本棚1つしか置けない。当時持っていた1万冊の本を持ち込むわけにはいかず、自分の本は全部実家に残し、辞書だけ持って引っ越しました。ただし、辞書だけで100冊以上あったのですけど。(笑)

その際、夫と約束したのが「この家に住んでいる間は、趣味でハードカバーの本は買わない。買っていいのは文庫とノベルスまで」ということ。新婚時代は、内容よりも「容積」で本を選んでいました。

そんな状況だったため、結局1年もたたないうちに再度引っ越し。次の4LDKの家には2竿の本棚が入ったものの、広い分、今度は歯止めが利かなくなり、どんどん本を増やしてしまって。子どもが生まれたら子ども部屋にしようと空けていた部屋、廊下、ついには夫婦の寝室にまで、本を詰めたダンボール箱が積み上がっていきました。

寝室の窓には防犯用の鉄格子がはまり、ドアは内開きという造りだったので、地震でダンボールが崩れ、火事が起こったら、間違いなく死んでしまう。そんなときに起きたのが、阪神・淡路大震災です。

本は大好きだけど、命とどちらが大切かと問われたら、そりゃあ命に決まっている。でも私は、絶対に本を捨てることはできません。ならば、「本で死なない家」を建てるしかない――。そんな思いからでき上がったのが今の家なのです。