「ウチの会社の給与は低い」と言われた社長の対応方法

「給与が低い、低い、低い」と言われているんです・・

 私は毎日のように人様の給与明細という「海」を泳いでいるような仕事をしています。また全国から、自社の給与が高いのか?低いのか?の賃金診断の依頼をいただきます。

 そこで、よくいただく経営者の悩みの一つに、「ウチの給与は低い」「ウチの賞与は低い」「ウチは年収が低い」と、社員から言われるということです。

 私は不思議なことを発見しました。「ウチの会社の給与は低いのではないか?」と不安になって、福田事務所に賃金診断のご依頼をいただく会社の大半が、相場以上の給与を払っておられるのです。なかには、見事な経営としかいいようのない給与を払っておられ、こちらが勉強になります。

 逆に、違うルートでのご依頼、たとえば、労使紛争解決や経営改善(いわゆる人件費削減が中心)のお手伝いでたまたま給与明細を見ると、総じて相場より低いのです。

 つまり、社員に給与が低いと言われる→不安になって賃金診断依頼をいただく場合、その多くの場合は、その会社(社長)は、相場かそれ以上の給与を立派に払っておられることが多いのです。

社員は何と比較して給与が低いと言っているのか

 社員は何をもって低いと言っているのでしょうか。多くは、新聞やテレビで報道される上場企業の賃金情報に比して、低いと言っているのかもしれません。また、取引先の大手企業との会話で得た情報と比較していることもあります。はたまた、比較などしていなくて、自分の小遣いが少ないことからの不満からの発言であるかもしれません。

 確かに、大手企業と比較すると中小企業は低いです。しかし、中小企業同士の比較ならどうでしょう。でも、社員にはこのような比較をする術がありません。製造業 社員100名(鹿児島県)とか、卸売業 社員50名(北海道)といった、自社と比較すべき給与情報は、簡単には手に入らないのです。弊社の所在地である京都では、京都北部と南部ではその相場感が異なります。京都北部 プレス加工業 社員30名 の相場となれば、社長なら同業者の会合などで情報を得ることができるかもしれませんが、社員には困難です。

 公的統計も、賃金診断情報として使いこなすには一定の知識が必要です(A評価人材ばかり集めたもの、通勤手当も含んだもの、残業代を含んだもの・・等)。公的統計も、私のような現場を知っている立場からは、「これ、本当かな?」と思うものもたくさんあります。この見極めも大切です。皆様もそのような経験をお持ちの方も多いでしょう。特に、公的統計では中高年の一般社員の給与が中小企業の管理職並となっていることがあります。

 比べる対象が曖昧なのに、低い、低い、低いと言われても社長は困ってしまいます。日本は欧米のように職種別の賃金統計が発達していません。ですので、高い・低いの議論が主観のもとづいた、とてもレベルの低いものになっています。

低い、低い、低いと言っている犯人は誰なのか?

 若い人が給与が低いと言っていることも最近は多いです。でも、若い人は今、低いと思っていても、将来の見通し、努力の方向性が明確であり、しっかりと相場程度を払っていれば、それほど「低い」という声は上がらなくなります。むしろ、独身の人は残業代が増えるより、早く帰って、自分の時間を大切にしたいという向きもあります。

 問題は、世帯をもった40代の管理職又はその少し下位の係長・主任あたりのベテラン男性です。この人達が最も「ウチの会社は給与が低いからな~」と高らかにぶち上げる人たちです。それなりに仕事もしておられるので一定の影響力があります。彼らは今の自分の働きに相応した給与を得ていない、割を食っていると思っています。また、今後のアップの見通しも怪しい人たちです。

 そして、部下・後輩に「ウチは給与が低い」「今後も上がらないよ」と啓蒙します。その一方で、社長には「(私はそう思いませんが)みんな、ウチの会社の給与は低いと不満を持っていますよ」「給与を上げないと社員のモチベーションは高まりません。これは会社のためです」と耳打ちをします。社長がある日、高級車にでも買い替えて通勤してきたら、その勢いは増すことになります。

本当の幹部には伝えたい

 本来なら、管理職・幹部は社長の意を汲んだ、社長の意向の通訳でなければなりません。

 一つの解決策として、真の中小企業の給与相場を、幹部・管理職にだけは共有したらどうかと思います。

 もっとも、年収ベースで管理職の相場が払えてない場合は、「今は原材料費が上がり、パートの最低賃金が上がり、経営が苦しいが、今後は売上20億円、経常利益を10%を達成し、相場プラス10%の年収を実現したい。だから協力してほしい」と経営の意思を示します。

 中小企業は、幹部の質と量が決定的に重要です。そして、社長と幹部の一体感こそ成長の源泉です。まずは幹部の処遇はとても重要なのです。幹部との信頼感があって、それが末端まで浸透するものです。

社長の信念と社長の納得感を大切に

 社内のいろんな人がいろんなことを言います。幹部でさえ、影で社長の悪口を言っていることがあります。そんなときに最も大切なことは、誰がなんと言おうが「こんな会社にしたい」という信念です。そして客観情報に基づいた、「これでいいのだ!」という社長の納得感だと思います。だから、社長は必ず、真の賃金相場を研究することが重要です。

 幹部も含め社員をコントロールはできないので、社長ができることは、顧客のため、社員のために最善を尽くすことです。そして、信頼にたる情報を得て、必要に応じて社員(特に幹部とはしっかり話し込む)に情報提供するほかはないのです。

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