前回は、航空機の価格が安定している理由を解説しました。今回は、航空機の資産価値を担保するテクノロジーと審査基準について見ていきましょう。

基礎技術はすでに確立、技術革新のスピードも緩やかに

ここまで、アセットクラスとしての航空機の特徴の一つである価格安定性を需給環境で説明してきました。航空機に限らず価格は一般的に需給の影響を強く受けるものですが、価格安定性を支える航空機ならではの特徴をさらに2つご紹介したいと思います。

 

一つは航空機に使用されているテクノロジーの成熟度です。これまで航空機はすさまじいスピードで進化を遂げてきており、1903年のライト兄弟による初の有人動力飛行からたったの36年後には世界初のジェットエンジンによる初飛行(1939年のドイツ、He178)が実現し、その後も技術革新はめざましく、今では800人以上の旅客を運送することが可能になっています。ここに至るまで様々な画期的な技術革新が行われましたが、飛行に係る基礎技術はすでに確立し、近年は技術革新のスピードは緩やかになっています。

 

航空機はこれまで「より早く、より高く、より多く、より遠くへ」と発展してきましたが、1960年代には飛行速度・高度・航続距離とも事実上頭打ちとなりました。飛行速度については、熱の壁(※1)などの問題から戦闘機はマッハ2程度での運用が多く、旅客機ではさらに騒音や燃費の問題が加わることで亜音速である530ノット(※2)程度(マッハ0.8、時速980㎞)が実用範囲となっています。飛行高度も約3万3000フィート(※3)(約1万メートル)付近が旅客機を効率的に運用できる最良な高度ですし、長距離飛行する機体は地球の裏側へ到達可能な航続性能を有するほどになりました(例えばボーイング787-9の航続距離は7635マイル(※4)、1万4140㎞)。

 

※1 「壁」と表現されるが物理的な抵抗や障害ではなく、それらに起因する技術的な問題のことを指す。類似するものに音の壁があるが、音速に近づくにつれ空力的な課題が数多く発生し飛行が困難になることを表している。熱の壁とは音の壁を突破した後に直面した問題であり、音速を超えてマッハ3程度まで加速すると空気の圧縮熱により高温度にさらされることになり、機体の耐熱性や機内の保護などの課題が深刻になることを表している。

 

※2 航空機の運航速度はノット(kt)で表すが、これは船舶のルールに由来しており、ほかにも運航ルールやキャプテンの制服など船舶文化に由来しているものは多い。航空機の前身が飛行船だったからという説もあるが、大陸間を移動する交通機関として船舶のルールや文化を引き継いだことは想像に難くない。ノットとは1時間あたり何海里(マイル)進むかを表す単位であり、1海里は地球の緯度にして1度分の長さにあたるため地図との親和性が高く、主に船舶や航空機で使用されている。なお、海里もマイルと呼ばれるが米国で使われる法定マイル(陸マイルともいわれる)とは異なることに注意。海里は1マイル=1.852㎞、法定マイルは1マイル=約1.6㎞である。

 

※3 旅客機は離陸後3万3000フィートまで一気に上昇し水平飛行に移るが、この高度は気圧(空気抵抗)と酸素(燃焼効率)のバランスが取れた効率的な運航に適した最良の高度である。ちなみに、これは富士山(3776m)の3倍、エベレスト(8848m)よりも1000m以上の高度であるが、旅客機の運航高度の高さよりもむしろエベレストの高さが、あれだけ高く飛ぶ航空機の運航高度と10%程度しか変わらないという事実に驚かされる。

 

※4 航空機にまつわる数字は単位がそれぞれ異なる。距離はマイル、高さはフィート(1フィート=約30㎝)、速さはノット、重さはポンドと一般的なメートルやグラムは使用されない。機長アナウンスでも聞きなれない単位で説明されて今ひとつピンとこないという方も多いと思うが、それぞれ歴史的な背景と理由が存在している。さらに副次的な効果でもあるが、単位を聞いただけで何について報告しているのかわかるという利点もあり、航空無線でのやり取りでの聞き直しの手間や単位間違いのリスクを減らすことができる。「キロ」だけでは、距離なのか高さなのか重さなのか長さなのかわからないが、それぞれ単位が異なることによりコミュニケーションミスを減らすことにも寄与しているのである。

 

離陸重量についても、最大離陸重量が140万ポンド(640トン)を超える貨物機や800人以上輸送できる旅客機も開発されていますが、例えば旅客機においては営業上の効率性やマーケティング、オペレーション上の制約(※5)により500人を超える超大型旅客機は人気がなくなり、その結果、これまで熾烈な技術競争が行われてきた速度、航続距離、キャパシティといった飛行に関わる基本性能よりも、足元の技術開発の方向性は燃費や騒音等の環境性能や旅客の快適性、整備性などを重視し始めています。

 

※5 通常の旅客機であれば乗降口は1つか2つしか使用せず、総2階建てのエアバスA380でも4つである。数百人の乗り降りをたった数個の乗降口で行わなければならないために座席数に比例してオペレーションの負担は増大する。乗り降りにストレスを感じられる方も少なくないと思うが、乗降口の数や搭乗口での確認事項の多さなど、ライバルである新幹線と比較すると非常に不利な環境にある。乗り降りに非常に時間がかかるという印象の航空機だが、緊急時における安全規格の一つとして「90秒ルール」というものがあり、機体の大きさや定員にかかわらず、また深夜の暗闇や何らかの悪条件で非常口の半数が使えなくなったとしても、90秒以内に乗客乗員の全員が機外へ脱出できるように設計されている。

 

一度に大量の旅客を運べるほうがいいのではないか?と素朴な疑問を持つ方もいるかもしれません。しかしながら、例えば新幹線も以前は2階建て車両がありましたが、重量がかさむことによる加速・制動性能の課題や整備コストが高いことなどの理由により徐々に姿を消しており、上越新幹線のE4系車両は2020年度末までに廃車することが発表されています。

 

2階建て車両のキャパシティは確かに魅力的でありますが、製造コストや運航コストを考えると2階建て1両よりも1階建て2両を買った方がさまざまな面で効率的だと判断されたともいわれています。航空機も似た状況にあり、一度に大量に運ぶより高頻度で運航したほうがサービス品質は高くなります。例えば600人乗りの飛行機を3時間に1本運航するよりも、200人乗りの飛行機で1時間毎に3本運航するほうが旅客の利便性が高くなるのは自明です。

PCやスマホのような「技術の陳腐化」は起こりにくい

もちろん、今後新たな技術革新が突然起こらないとは断言できませんが、先進的なエンジンや飛行方法がもし開発されたとしても、それが実用化されて航空機に応用され、各国の認可を得るまでには非常に長い年月がかかります。直近で最も実現性が高いと想像される技術の例としては、オートパイロットの実現によるパイロット不要の航空機の開発ですが、これだけでも実現には無数のハードルがありますし、技術的に可能だとしてもパイロット組合による反対や行政の認可の問題などにより、実用化が遠い道のりであることは想像に難くありません。

 

実際のところジェット機時代が到来して以来、航空機技術においては大きな進歩はそれほど実現していません。例えば、ジェット機時代初期(1945-1970年)には高バイパスエンジンやフライバイワイヤ・コントロール、複合素材、新合金などの革新的な技術が実用化されましたが、これらの技術は現在も第一線で使用されており基礎技術はここで確立したともいえます。

 

また、航空機のライフサイクルは非常に長く(30年以上)、関連する技術の進歩と新機種開発時の新技術の採用のペースは長期かつ段階的になるため、航空機の技術革新は比較的緩やかな状況が続いています。そのため、航空機の技術的陳腐化のスピードは、例えばコンピュータやIT、無線通信(携帯電話やスマートフォンが代表的ですが)などの技術革新が急速にかつ進み続けている分野と比較すると非常に緩やかです。

 

燃費や環境への適合といった面では少しずつ改善が実現しており、とりわけ近年はエアバス社とボーイング社から新型エンジンに換装したナローボディ機や、複合材料を採用した新型ワイドボディ機が開発されましたが、これらの進歩は世界の航空機の大きさや形状、基礎的な構造に突然の変化をもたらすものではありません。したがって、世界中に存在している現行航空機の資産価値が技術の陳腐化を理由に、短期間に大幅な価値下落に陥る可能性は低いと評価できますし、モデルチェンジによる価格下落の影響は中長期間かけてゆっくりと段階的に起きていくと思われます。

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

無敵のグローバル資産 「航空機投資」完全ガイド

航空機投資研究会、澁田 優一、野崎 哲也

幻冬舎メディアコンサルティング

航空機市場が世界経済とともに成長を続ける理由や航空機投資はエアライン企業への株式投資と何が違うのか、他の現物投資と比べた場合の圧倒的なメリット、どの機体を選んで投資すべきなのかなどをわかりやすく解説。

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