メモ

なぜ発明が便利な技術として広まるまでに時間がかかるのか?


斬新な技術が発明されたとしても、人々の生活に浸透するまでには時間がかかります。例えば、蒸気機関車のような蒸気を動力にする技術は紀元前には存在していましたが、実際に人々の生活に蒸気機関が浸透したのは18世紀頃でした。このような発明と実用化の間にある壁について、エンジニアのジェイソン・クロフォード氏が語っています。

Epistemic standards for “Why did it take so long to invent X?”
https://rootsofprogress.org/epistemic-standards-for-why-it-took-so-long

蒸気を使った装置で最も古いとされているのが、紀元前1世紀に存在したとされるアイオロスの球です。以下の画像はアイオロスの球の絵で、中央にある球体型の容器に入れた水を熱して、蒸気の力で球体を回転させる仕組みになっています。


アイオロスの球は、蒸気タービンの一種であり、18世紀以降に発明された蒸気機関とは仕組みが異なります。18世紀にトーマス・ニューコメン氏が建造した蒸気機関は、ピストンの往復運動を利用したものでした。以下の画像はニューコメン氏の蒸気機関を再現したものです。


その後、ジェームズ・ワット氏により、ニューコメン氏の蒸気機関を改良したワットの蒸気機関と呼ばれるものが誕生しました。ワットの蒸気機関は、アイオロスの球の約25万倍の動力を生み出すことができます。

「アイオロスの球のような、単純で原始的な蒸気機関が紀元前から存在していたにも関わらず、なぜ18世紀まで蒸気の力は注目されなかったのでしょうか。これは、実用性が重要であることを示しています。理論的には蒸気機関として機能していても、動力が不足していたり、効率的が悪かったり、高価だったり、信頼性がなかったりする技術は人々に見向きされません」とクロフォード氏は語っています。

また、白熱電球についても、発明したのはジョゼフ・スワン氏ですが、トーマス・エジソン氏による功績が実用化に大きく貢献しました。なぜなら、スワン氏が発明した白熱電球は高価で寿命が短いという欠点がありました。エジソン氏が考案した竹炭による白熱電球は、スワン氏の白熱電球よりも安価で100倍近く寿命が長かったことから、エジソン氏の電球が一般に広く普及しました。


クロフォード氏は、発明と呼べる技術について「発明とは、実用的だからこそ発明と言えるのです。実用的でないものは発明ではなく、単なるプロトタイプに過ぎません。プロトタイプは、アイデアを生んだり、実験に使用したりするのに役立つかもしれませんが、歴史を動かすような発明は、実用的で、それまで問題となっていた障害を取り除くような影響力を持っています」と述べています。

また、いくつもの発明が積み重ならないと生まれない発明もあります。クロフォード氏は例としてコンピューターを挙げています。発明と呼べるコンピューターは、1946年に公開された完全に電子化された最初のコンピュータであるENIACでした。1944年に生まれたコンピューター、Harvard Mark Iと比較すると、ENIACの計算能力は、除算がHarvard Mark Iの約600倍、乗算が約2000倍高速という能力を誇っていました。ENIACの登場はメディアによって広く知られるようになり、コンピューターによる革命の火付け役となりました。以下の画像で壁沿いにずらりと並んでいるのがENIACの一部です。


ENIACのような初期のコンピューターは、1台で倉庫1部屋を丸々使うような大型のものが主流で、ENIACの大きさは幅30m、高さ2.4m、奥行き0.9mで重さは約27トンもありました。使用する部品も大量に必要だったことから、当時の研究者は、部品の信頼性を重視していました。ENIACのように優れたコンピューターが生み出されたのは、1906年に発明された真空管による影響が大きいとされています。そして、真空管が生まれるきっかけとなったのは、エジソン氏が白熱電球の実験中に発見したエジソン効果でした。ENIACには1万7000本以上の真空管が使用されており、以下はENIACの裏面に並んだ真空管の画像です。


「発明にはアイデアだけでなく、情報や知識、実験、そして資金が必要です。場合によっては研究室のような組織や、作るための材料も必要です。そして、発明は決して計画的に生み出されるのではなく、発明者たちのビジョン、インスピレーション、希望、プレッシャーと、チームや契約といった複雑なネットワークの中で、予測不可能な中から生み出されるのです」とクロフォード氏は語ります。

また、クロフォード氏は「すべてがスムーズに運んだとしても、発明の考案から技術として実現するまでに20年、30年かかっても驚くことはありません」とも述べています。なぜなら発明には、発明家の病気や金融恐慌、戦争といった予期せぬ出来事による中断や頓挫の可能性もあるからです。


発明家にとって理想的な環境として「経済的・軍事的な需要が大きく、法制度が整い、政治が安定しており、時間、空間、資金が充実し、教育を受けた創造的な人々や組織に恵まれているほど、発明の進歩は早く、世間に浸透するまでの時間は短くなります」とクロフォード氏は述べています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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