“リレー侍仕様”バトンパスはアンダーハンドで「バンッ」ではなく「スッ」…本紙・手島記者「やってみた企画」

スポーツ報知
東京五輪の予選で山縣亮太(左)にバトンを渡す多田修平

 男子400メートルリレーは7月の最高峰リーグ、ダイヤモンドリーグ(ロンドン)で37秒80を記録。カナダに並ぶ今季最速で、19日開幕の世界陸上(ハンガリー・ブダペスト)でも堂々のメダル候補だ。陸上担当の手島莉子記者が、若きエース候補の柳田大輝(20)=東洋大=ら、リレー侍の生命線となるアンダーハンドによるバトンパスに挑戦。長年、リレー代表チームを支える法大の苅部俊二監督(54)から、熟練の技を「受けてみた」。

 リレー侍が世界と戦うために2001年から採用するのがアンダーハンドによるバトンパスだ。とてもなめらかで高等技術、というのが印象だった。「腕振りの延長線上でバトンをもらいます。オーバーハンドよりも楽ですし、ミスのリスクも少ないです」と苅部さん。多くの国が互いに手を伸ばしながら前走が上からバトンを渡して距離を稼ぐオーバーハンドを選択する中、日本は距離が近く、ミスが少ないアンダーハンドを武器にしてきた。腰の位置で腕を伸ばすだけなので加速もしやすいという。

 受ける形は親指と人さし指をV字に広げ、手のひらは上を向きすぎないことがポイント。フォームも完成し、お待ちかねの苅部さんからのバトンパスだ。「本気でお願いします!」。そう頼んだ手前、どれだけ力強く来るのかドキドキした。しかしバトンはスッと差し込まれただけ。苅部さんは笑いながら「バンッとかやらないです。『渡してあげる』っていう感じですね」。

 ミスのリスクが少ないのは、この意識にもある。「渡す側はバトンを離さない、もらう側は奪い取るイメージです」。渡す側が差し込み、受ける側は手の位置を変えず一気に引き抜く。「後ろの人を信頼し、全力で加速することも重要。日本は9秒台の選手も多くないですし、細かい微調整をしなければ世界とは戦えない。本当に紙一重です」。やり方を教わってからデモンストレーションを見ると、そのスムーズさに感動した。

 オーバーハンドは腕を全力で伸ばして受けため「利得距離(走らなくていい距離)が生まれます。日本は利得よりも、走りやすさをとりました」。スピードに乗って渡すことに重きを置いた日本は、スタッフがパスの位置や速度変化などから研究を重ねている。「選手はスピードさえ上げてくれれば、つなぐ部分は我々ができます。ここまでやっている国は、正直聞いたことがないですね」。バトンパスは、科学なのだ。

 とはいえ、国内ではオーバーハンドを採用しているチームは多い。「両方のやり方をしっかり教えてもらい、利点を理解して、特性を考えながらやってほしい。オーバー、アンダー共に利点と不利な点があります。今の日本代表を見る目も変わると思います」と苅部さん。チームの特性に合ったパス技術にもリレーの魅力が詰まっている。(陸上担当・手島 莉子)

 ◆3度目メダルへ

 【展望】 男子400メートルリレーの“リレー侍”は世界一のバトンパス技術で17年ロンドン銅、19年ドーハ大会銅以来、2大会ぶり3度目の表彰台入りを狙う。メンバーには、男子100メートル代表のサニブラウン、坂井、柳田、同200メートルの鵜沢、上山、飯塚。リレーのみの代表で小池、水久保が名を連ねる。24年パリ五輪へ08年北京、16年リオの銀以来のメダル獲得へ弾みをつける。

 ◆男子リレー種目の日程 男子400メートル(4×100メートル)は26日午前2時30分から予選、27日午前4時40分から決勝。男子1600メートル(4×400メートル)は27日午前2時30分から予選、28日午前4時37分から決勝。女子、混合の日本の出場はない。(いずれも日本時間)

 ◆バトンの規格 日本陸連の競技規則によると、バトンは継ぎ目のない木材か金属などの硬い物質でつくられ、断面が丸く中が空洞の管でなければならない。長さ28~30センチで、直径4センチ(前後2ミリが許容範囲)、重さは50グラム以上とする。色も、容易に識別できなければならない。

 ◆苅部 俊二(かるべ・しゅんじ)1969年5月8日、横浜市生まれ。54歳。法大を経て、92年富士通入社。96年アトランタ五輪1600メートルリレーで5位入賞。97年世界室内選手権400メートル銅メダル。世界陸上は400メートル障害で91年東京から99年セビリアまで5大会連続出場。2001年、法大コーチとなり、05年監督昇格。16年リオ五輪は短距離部長として銀メダル獲得に貢献。

 ◆手島 莉子(てじま・りこ)千葉県生まれ。25歳。法大から2021年に入社。陸上やスケートボード、スポーツクライミングなどを担当。中学時代はバレーボール部、高校時代は陸上部でやり投げ選手。

スポーツ

×