上司や先輩に指示されてやっていた業務を、他の人からそれ間違っているからと指摘されて困った経験はありませんか。
こういった二つの矛盾した指示などで受け手が困惑してしまうような状況を「ダブルバインド」と呼びます。
何気なく使ってしまうことも多いコミュニケーション方法ですが、実は知らずのうちに相手を追い詰めてしまう可能性があるものでもあります。
この記事では、ダブルバインドの意味やダブルバインドによって引き起こる仕事への悪影響の例についてご紹介します。
今後、ダブルバインドで失敗しないために気を付けるべきことについてもご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
◇記事の内容を動画で解説◇
ダブルバインドの意味とは?
ダブルバインドは日本語で「二重束縛」とも訳され、複数の矛盾したメッセージを受けた人が、その後どう行動したらいいかわからず、精神的に束縛された状態に陥ってしまうことを指します。
例えば、図のように「分からなかったらすぐ聞いて」と言われたにもかかわらず、実際に聞きに行くと「それくらい自分で考えて」と怒られ困惑してしまうといった状況があげられます。
どちらの言うことを聞いたとしても一方の指示には背くことになってしまうため、受け手側はどう対応していいのかが分からなくなってしまいます。
結果、どの指示に従っても怒られてしまうという精神的な束縛状態に陥り、強いストレスを感じるのです。
ダブルバインドを判断する定義
ダブルバインドかどうかは以下に当てはまっているかで判断できます。
・最初のメッセージと、それを否定するメッセージが伝えられる
・受け手側がどちらのメッセージに従ってもマイナスになると感じる
・受け手側がメッセージの矛盾から逃げられなくなる
・受け手側がダブルバインド状態であることを認識している
・受け手側がダブルバインドによりストレスを感じている
条件が多いようにも感じますが、普段のコミュニケーションでもこれに当てはまっている人は意外と多いです。
ダブルバインドはメンタル不調の原因となる可能性
ダブルバインドは1956年に文化人類学・精神医学の研究者であるグレゴリー・ベイトソン氏が、統合失調症の子どもがいる家庭を調査していく中で発見した「ダブルバインド理論(二重拘束理論)」に由来しています。
「Double(二重)」×「bind(束縛・拘束)」から成る造語で、日本では二重束縛や二重拘束と訳されています。
ベイトソン氏は「家庭」という逃げ場のない空間でダブルバインドが繰り返し行われると、統合失調症を発症すると主張しています。
統合失調症とは、何かしらの原因で情報や刺激に対して敏感になってしまい、それらに脳が対応できなくなることで精神機能が正常に働かなくなってしまう精神疾患の一つです。
この状態になると、感情や思考をうまくまとめることができなくなってしまいます。
環境によっては幻覚や被害妄想のような症状が出てしまい、コミュニケーションや日常生活に支障をきたすこともあるのです。
現在の精神病理学では、正式に「ダブルバインドが統合失調症の原因」とは認められていませんが、精神的なストレスを与える要因にはなるため、ダブルバインドが様々な精神疾患につながってしまう可能性があるということは認識しておく必要があります。
親子関係におけるダブルバインドの具体例
ダブルバインドはそもそも、グレゴリー・ベイトソンが総合失調症の子供がいる家庭を調査した結果をもとに提唱されたものです。
特に、親子関係は家庭という逃げ場のない空間にあるため、そのような環境下でのダブルバインドが与える影響は非常に大きいと言えるでしょう。
実際に親子間でダブルバインドとなってしまった具体例を見ていきましょう。
<具体例1>子どもがおもちゃを壊してしまった時
第二のメッセージ:「なんでそんなことしたの!」
「正直に言えば怒らない」というメッセージに従って正直に説明すると怒られるという矛盾が発生しています。
このような矛盾するメッセージは、典型的なダブルバインドの例と言えるでしょう。
<具体例2>結婚について
第二のメッセージ:「この人とは結婚してはいけません」
早く結婚しなさいと結婚を急かされているのにもかかわらず、相手を見つけてきたらそれを否定されてしまっている状況です。
これでは、どうしたらいいのかわからずに大きなストレスを感じてしまいます。
<具体例3>レストランでの注文をする時
第二のメッセージ:「もっと栄養のあるものにしなさい」
「自分で選んでいい」というメッセージに対してその通り好きなものを選んだところ、親の期待した行動を取らなかったことで否定されています。
こういった相反する指示もダブルバインドといえるでしょう。
職場におけるダブルバインドの具体例
ダブルバインドは親子関係のような両者に立場の差があると起きやすい傾向にあります。
同じように立場に差がある典型的な例として「上司と部下」の関係も想像しやすいですね。
「上司と部下」の関係においてダブルバインドが起きてしまうと、自身の選択によっては「怒られてしまうのではないか」と萎縮してしまい、自信や主体性の損失にもつながってしまいます。
また、きつい言い方をしてしまうとパワハラだと言われてしまうかもしれません。
ここでは、職場におけるダブルバインドの具体例をみていきましょう。
<具体例1>新入社員が困っているときの対応
第二のメッセージ:「それくらい自分で考えて」
「わからないことがあったら何でも聞いて」と言われたにもかかわらず、実際に聞いてみたら「自分で考えて」と言われ、矛盾した状況に陥ってしまっています。
こういった状況は、職場で起こるダブルバインドとしてよくみられるシーンのひとつです。
<具体例2>ミスをした部下に対して
第二のメッセージ:「言い訳をするな」
ミスの理由を聞かれて答えただけなのに、言い訳をするなと矛盾したことを言われてしまっています。
部下にとって、ミスをした報告をすること自体が非常にストレスのかかる行為なのにもかかわらず、その先の行動もどうしたらいいのかが分からないとなれば、精神的なストレスは相当なものでしょう。
このように、たとえ部下のミスが原因であってもダブルバインドが起きると、委縮して本来の力が出せなくなってしまう可能性がありますので注意が必要です。
<具体例3>同僚と喋っている部下に対して
第二のメッセージ:「もっと積極的にコミュニケーションを取りなさい」
業務以外のことで喋っていると注意されるにもかかわらず、喋らなかったらコミュニケーションが足りないと言われるという矛盾した状況になっています。
もちろん、あまりにも無駄話が多すぎるといった場合もあるため状況にはよるものの、上記のような指示だけだと正しく判断ができずにダブルバインドになってしまう可能性が高いです。
ダブルバインドによって発生する仕事への悪影響
具体例をみて分かるとおり、ダブルバインドは受け手側に大きなストレスを与えてしまうため様々な悪影響が出てしまいます。
具体的には下記のような悪影響が考えられます。
・精神的に大きなストレスがかかってしまう
・生産性が低下してしまう
それぞれについて具体的にみていきましょう。
精神的に大きなストレスがかかってしまう
ダブルバインドは矛盾した複数のメッセージを受け取るため、受け手側は混乱・緊張してしまいます。
このような状態が長期間続くと、自分の感覚が麻痺してしまい「すべて自分が悪い」と考えこんでしまうようになります。
こうして精神的に大きなストレスがかかってしまうのです。
このような状況が続くことで、仕事がうまくいかないどころか、先述したように精神疾患にもつながってしまう可能性があります。
生産性が下がる
職場でダブルバインドが起きると、受け手側は「また怒られるのではないか」と考え、必要以上に相手の顔色をうかがうようになってしまいます。
次第に自分の判断がすべて間違っているように感じ、自信や主体性を喪失してしまうかもしれません。
その結果、「より良い成果を出す」働き方ではなく「怒られないように」という働き方になってしまうため、仕事の生産性が下がってしまうのです。
ダブルバインドで失敗しないために
ダブルバインドは無意識で行ってしまっていることがほとんどです。
なので、これを防ぐためには当事者自身が、普段どんな言動をしているか意識することが重要になります。
自分がどんな言動しているか意識することによって、好ましくない発言や矛盾した発言にも気付けるようになるでしょう。
また、周囲の人と協力することで自身では気づけなかった矛盾にも気付ける可能性があります。
自分はダブルバインドをしていないと過信せず、まずは周囲の人に相談してみましょう。
第三者からの意見も取り入れながら、自身の発言を変える意識を持つことで、少しずつダブルバインドを解消していくことが重要です。
ダブルバインドが効果的に働くケース
今まで説明してきたダブルバインドは、どの選択をしても間違いとなるものでしたが、逆にどちらを選んでも正解になるような使い方をすることで、有効に活用できることがあります。
ここでは、ダブルバインドを効果的に活用できる例をご紹介していきます。
「YES」を引き出すエリクソニアン・ダブルバインド
エリクソニアン・ダブルバインドとは、答えられる選択肢を限定して質問することで、質問者の意図に沿った選択をさせやすくする心理テクニックです。
例えば「魚か鳥どちらが好みですか?」と聞かれたら、本当は別の動物が好きな場合でも「魚」か「鳥」と答えてしまいませんか?
質問した側は動物というたくさん選択肢があるものの中でも「魚or鳥が好き」という前提で尋ねています。
このような誤った前提で限定した選択肢を与えて、質問者の意図した答えを導く方法がエリクソニアン・ダブルバインドです。
日本語では「誤前提暗示」と呼ばれることもあります。
これを恋愛での駆け引きやビジネスでの交渉時うまく活用することで効果的に働くケースもあるのです。
職場でも使えるエリクソニアン・ダブルバインド
エリクソニアン・ダブルバインドは職場でも活用できます。
ここでは、職場で使えるエリクソニアン・ダブルバインドの具体例をご紹介します。
<具体例1>ジャケットを試着している人に対して
そもそもジャケットが必要かどうかは確認せず、いずれかのジャケットは着るという前提で質問しています。
不要であるという選択肢を除き、着ている姿を先にイメージさせることでどちらかを購入してもらうように誘導するというテクニックです。
<具体例2>利用者に対して
よく見かける文言ですが、実はこれもエリクソニアン・ダブルバインドのひとつです。
アンケートに答えないとどうなるかという結果を考えさせず、答えた後の結果だけイメージできるように誘導しています。
<具体例3>仕事を依頼したい時
仕事をお願いしていいかどうかの確認はせず、頼む前提で質問していますが、同じく確認しない頼みでも「データ集めをお願い」と一方的に言われるより高圧的に感じません。
依頼された方は受ける仕事を自分で選択しているため、負担が軽くなったように感じるのです。
ダブルバインドを活用する際の注意点
ダブルバインドは上手く活用することで、様々なコミュニケーションにおいて効果を発揮します。
しかし、先述の通りダブルバインドには大きなリスクがありますので、活用するうえで注意するべき点をご紹介していきます。
相手に納得感を与える
ダブルバインドは選択を誘導できる手法ですが、それが相手に伝わってしまっては効果がなくなってしまいます。
あくまで相手にとっては「自分で選択した」と納得感を持ってもらえるよう注意しましょう。
そのためにも、いきなり重要な選択をさせるのではなく、選択しやすい内容から徐々に重要な選択をさせるようにすることをおすすめします。
最後の選択肢を選んでほしいものにする
いくつかの選択肢を出した場合、最後の選択肢が選ばれやすい傾向があります。
これは、一番直近に提示された情報が最も印象に残りやすいという「親近効果」が働くためです。
そのため、選んでほしい選択肢はなるべく最後にもってくることをおすすめします。
ダブルバインドをされた場合の対処法
これまで自身が行うダブルバインドについて解説してきましたが、逆に相手からかけられるケースも少なくありません。
ここからは、ダブルバインドが自身に使われた場合の対処法をご紹介していきます。
周囲を観察する
ダブルバインドを受けた際、どうしたらいいかと目の前が真っ暗になってしまうこともあるかもしれません。
しかし、その状態に陥ってしまうとさらに悪い状況に進んでしまう可能性が高いです。
そのため、まずは冷静になり、相手の言葉や表情、周囲の環境を観察してみましょう。
冷静に状況を観察することで、ダブルバインドから抜け出す方法が見つかったり、余裕をもって相手に接することができるかもしれません。
信頼できる人に相談する
ダブルバインドは自分だけでは解決することが難しいケースも少なくありません。
その場合は同僚や上司、友人といった信頼できる人に相談してみましょう。
悩んでいる状況で自分一人で答えを出してしまうと、冷静な判断ができないこともあると思います。
周囲からの客観的な意見をもらったり、直接注意してもらうこともできるかもしれませんので、一人で悩まず相談するようにしてみてください。
言動に注意する
ダブルバインドではそもそもの前提が誤っているケースが多いです。
なので、相手の言動に注意を向け、決めつけられた前提がないか、意図的に誘導されている言動はないかを意識して聞くようにしてみてください。
ダブルバインドの効果は、受け手がダブルバインドを受けていることを認識することで効果をなくすことができます。
ダブルバインドをなくして良好な関係を築きましょう!
ダブルバインドは矛盾するメッセージによって相手に避けられない混乱を与えてしまうため、相手にストレスを与えるだけでなく、自身の伝えたいこともうまく伝わらずにお互いにとって悪影響を及ぼします。
円滑なコミュニケーションをとるためにも、自身の言動には十分に注意をして発言するようにしましょう。
また、無意識で起こってしまっていることも少なくないため、周囲の協力も呼びかけてみるとより改善に近づきますよ。
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