政策特集夏休み親子企画 試験に出る経済・産業 vol.4

【親子で学ぼう時事問題】未来へ守り育てたい伝統的工芸品

熊野筆、岐阜和傘、箱根寄木細工など、地名がついた伝統的な品物を見たことはありますか。日本には、昔から生活の中で使われてきた工芸品がたくさんあります。伝統的な技術を受けつぎ、腕をみがいた人々が、おもに手づくりでつくっています。これらの製品をつくる産業を守り、育てるために、「伝統的工芸品」として指定する制度があります。中学入試などでは、地域の特色を理解するという視点から、品目と産地を結びつける問題が出題されることもあります。今回も経済産業省のキャラクター「めてぃ子さん一家」と一緒に、各地にある伝統的工芸品の特徴や歴史などを学びましょう。

経済産業大臣が指定、産地の経済発展につなげる

伝統的工芸品は、100年以上の歴史があり、おもに手づくりで、伝統的な技術と材料を用いてつくられた、日常生活に使われる伝統ある工芸品のことです。織物、染色品、漆器、陶磁器、木工品、和紙、仏壇や人形など、昔からわたしたちの生活に密着してきた実用品で、使い勝手だけでなく、美しさを兼ね備え、暮らしを豊かにしてくれます。

経済産業大臣は、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」に基づいて、伝統的工芸品を指定しています。伝統的工芸品をつくる産業が盛んになることで、国民生活に豊かさやうるおいを与えるとともに、地域経済が発展することを目的としています。

伝統的工芸品に選ばれるには、五つの要件「①日用品であること」「②おもに手工業的であること」「③伝統的な(100年以上)技術・技法であること」「④伝統的に使用されてきた原材料であること」「⑤一定の地域で産地形成がなされていること」を満たすことが必要です。指定品目になることで、「伝統的工芸品」の名称が使えるようになり、製品にシンボルマークをつけられるようになります。

伝統的工芸品のシンボルマーク

2022年度には「東京三味線」、「東京琴」(ともに東京都、埼玉県)、「江戸表具」(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の3品目が新たに指定され、現在、伝統的工芸品は240品目になりました。三味線や琴は、江戸時代、上方(京都、大阪など)から江戸に製作技術が伝わり、音量や音色がさらに工夫され、現在に至っています。表具(ひょうぐ)とは、掛け軸やふすま、屏風(びょうぶ)、ついたてなどに紙や布地を貼り合わせて仕立てたものです。徳川幕府ができたころ、京都から移り住んだ表具師たちが、風が強い関東地方の気候に合わせて「のり」の濃さを加減して、紙や布地を貼り合わせる技術を確立しました。

新たに伝統的工芸品に指定された(左から)東京三味線、東京琴、江戸表具

伝統的工芸品は現在、全国に240品目ある

「東京2020オリンピック・パラリンピック」では、日本の伝統的工芸品の技術を生かした製品が大会を盛り上げました。例えば、大会で使用された卓球台の脚の部分に、美しく丈夫な高級漆器として国の伝統的工芸品に指定されている輪島塗(石川県輪島市)が使われました。入賞者に渡される表彰状(オリパラ分を合わせて17,600枚分)には、同じく国の伝統的工芸品に指定されている美濃和紙(岐阜県美濃市)が使われました。

動画「めてぃ子さんと行く!日本全国伝統的工芸品巡りの旅」より

西陣織は応仁の乱がきっかけ、伝統的工芸品が分かれば歴史が分かる

伝統的工芸品には、その地域の歴史が関係しているものがたくさんあります。西陣織(京都府)は、室町時代、応仁の乱(1467~77年)が終わり、各地に逃れていた織物職人が京都に戻り、西軍の陣地が置かれていた辺りで再び織物づくりを始めたことが名前の由来です。

伊万里・有田焼(佐賀県)は、豊臣秀吉による朝鮮出兵(16世紀末)の際に連れてこられた朝鮮の陶磁器職人が、上質な原料となる陶石 (とうせき) を有田で発見し、陶磁器をつくったのが始まりと言われています。その技術が石川県に伝わり、九谷焼になりました。山口県の萩焼、鹿児島県の薩摩焼も朝鮮の職人がはじめた、と言われています。これらの地域ではいずれも、陶磁器に適した石や土がとれました。

江戸時代に入り、諸外国との交易を制限する「鎖国」によって、日本独自の生産技術が大きく進歩しました。全国の藩では、財政を支えるために、特産品の開発をすすめ、職人を城下町に集め、技術をみがき合うようにしました。こうして、各地域でその土地にある素材を使った、特色ある工芸品がつくられるようになりました。

輪島塗、会津塗(福島県)、飛騨春慶(岐阜県)などの漆器は、木の器に漆(うるし)を塗り重ねてつくります。漆が固まるには湿気が必要なため、漆器の産地は雪国に多くなっています。

動画「めてぃ子さんと行く!日本全国伝統的工芸品巡りの旅」より

ただ、伝統的工芸品は、わたしたちの暮らし方の変化などにより、使う機会が減ってきているのが現実です。昔は着物など和服を着る人がたくさんいましたが、最近の家庭では自分の着物を持っている人は少なくなっています。伝統的な行事・生活文化も、生活様式の洋風化、都市化が進む中で少なくなってきています。

こうした流れの影響を受け、2000年度までは2500億円以上あった伝統的工芸品の生産額は2016年度に1000億円を下回り、更に少しずつ減り続けています。工芸品をつくる工房などで働く人の数も2001年以降ゆるやかに減っており、2020年度ではおよそ5.4万人と半減しました。後継者不足は大きな問題になっており、伝統的な技術を未来に伝えることが難しくなっています。

長く使える「持続可能」な魅力が、今の時代にマッチ

伝統的工芸品は、一つひとつが手づくりなので、大量には生産できず、価格も高くなりますが、長く使い続けることができ、むしろ長く使うことで味わいが出てきたりします。こうした魅力を知ってもらうため、さまざまな取り組みが行われています。

熊本県山鹿市で作られる伝統的工芸品の「山鹿灯籠(ろう)」は、木や金具を用いずに和紙とのりだけで組み上げることから、「骨なし灯籠」とも呼ばれます。この組み上げる技術を気軽に体験できる「山鹿灯籠制作キット」を売り出し、好評を得ています。鍋料理の土鍋で知られる四日市萬古焼(三重県)は、最近はIHクッキングヒーターでも使える土鍋や、茶葉が開きやすい丸みのある形が特徴の急須などを開発しています。

一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会でも、フランス・パリや中国・重慶に常設のショールームを開設し、伝統的工芸品をPRしています。宮城伝統こけしや輪島塗、南部鉄器(岩手県)など、海外で人気が高い工芸品もたくさんあります。

伝統的工芸品をつくる技術者で、高度な技術・技法を持つ「伝統工芸士」は、女性も多く、工芸士を支える職人としても多くの女性が活躍しています。

東京にある「伝統工芸 青山スクエア」(一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会が運営)では、伝統的工芸品が一堂に展示され、販売もされているほか、職人さんによる製作実演なども見ることができます。工芸品の数々を間近で見て、触れてみてはいかがでしょうか。

「伝統工芸 青山スクエア」には、全国の伝統的工芸品がずらりと並ぶ

自然の原材料を使い、確かな技術でつくる伝統的工芸品は、何度も修繕を重ね、長い期間、使い続けることができます。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にも合い、これまでの「大量消費社会」の見直しが始まった、今の時代にぴったりなアイテムなのです。皆さんもぜひ、その魅力を発見してみてください。

<親子で考えよう>
住んでいる地域の伝統的工芸品を調べましょう。その工芸品を守り、育てていくためには、どのような手を打てばよいでしょうか。

 

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