アングル:堅調な米雇用、製造業は例外 映し出す構造変化の現実

アングル:堅調な米雇用、製造業は例外 映し出す構造変化の現実
 4月4日、鮮やかなオレンジ色の除雪機や芝刈り機のメーカーとして国内外で高い知名度を誇る米アリエンス社の最高経営責任者(CEO)、ダン・アリエンス氏は、昨夏の販売が振るわなかったため従業員を一時解雇して操業シフトを減らし、採用もほぼ全面的に停止した。ウィスコンシン州ぶりリオンの同社工場で3日撮影。同社提供(2024年 ロイター)
[4日 ロイター] - 鮮やかなオレンジ色の除雪機や芝刈り機のメーカーとして国内外で高い知名度を誇る米アリエンス社の最高経営責任者(CEO)、ダン・アリエンス氏は、昨夏の販売が振るわなかったため従業員を一時解雇して操業シフトを減らし、採用もほぼ全面的に停止した。従業員数を20%減の1600人に絞り込んだが、業績は2025年まで改善する見込みがない。
ウィスコンシン州ブリリオンで4代続く家族経営企業である同社の経営状況から、1年余りにわたり実質的に横ばいが続く米国の製造業雇用と、4年にわたり好調が続く雇用市場全体の対照的な姿がくっきりと浮かび上がる。
バイデン大統領の産業政策は半導体、電気自動車(EV)、グリーンテクノロジーなどの分野を後押しすることを狙っている。建設業が活況を呈し、政府出資のインフラプロジェクトに製品を供給する重工業の一角は好調を保つ。
だが、製造業の雇用見通しは暗い。高金利、景気減速、新型コロナのパンデミックに伴う需要増の終了などが重なった、というのが専門家の見立てだ。
バイデン政権は政府政策の成果が出るのはもっと先だと主張。大統領経済諮問委員会のメンバーからは、製造業向け投資が雇用に結びつくには6─8四半期ほどかかるとの声も聞かれた。
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者でバイデン氏の経済諮問委員会委員を務めた経験を持つエリザベス・レイノルズ氏は「ノースカロライナ州やジョージア州などさまざまな地域を見ると、企業は工場の着工前、既に採用を開始している。こうした動きから今後の様子が透けて見える」と述べた。
これまでに農機具最大手ディア、白物家電ワールプール、工業用品・事務用品スリーエム(3M)など大手製造業がレイオフを発表しているが、ほとんどの場合、最近のIT(情報技術)大手の大規模な削減と違って的を絞ったものとなっており、多くの工場が雇用を抑制するか、採用を停止する道を選択している。
例えば、従業員280人、主に農業機械に使用されるブレードを製造するコンデックスは、今年はレイオフなしで人員を約5%削減する計画だ。
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<重なる打撃>
採用凍結や的を絞った人員削減が地方や小さな町の複数の拠点で起きると、影響は一段と深刻になる。ディアは先月、アイオワ州アンケニーの拠点で150人を削減すると発表。その数日後にタイソン・フーズが近隣の豚肉加工工場を閉鎖し、1200人を解雇すると発表した。
米国は雇用に占める製造業の割合が第2次世界大戦後には約3分の1に達していた。しかし、経済がサービス業中心に移行するとともに、効率アップと自動化で生産ラインに必要な人員が減ったため、製造業の雇用割合は数十年にわたり低下の一途をたどっている。さらに最近、米製造業は中国など低コスト生産国との競争激化にも直面している。
製造業の雇用はパンデミック直前にいったん下げ止まったが、22年後半に消費の勢いが鈍り、再び減少傾向となった。22年後半以降、全セクターの雇用が月平均25万人強に上るのに対し、製造業雇用は2000人強に過ぎない。2月の米国雇用に占める製造業雇用の割合は8.2%と過去最低を更新し、1979年に付けたピークの22%から13.8ポイント低下した。
米供給管理協会(ISM)が今週発表した統計によると、3月の製造業雇用者数は6カ月連続で減り、景気後退期以外では異例の長期減少となった。
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<短期の回復は望めず>
米製造業協会のスコット・ポール会長は、工場建設ブームによって建設業や、セメントや鉄鋼など工場に必要な資材を生産するセクターで雇用が生み出されていると指摘。「こうした取り組みによる雇用が実現するのはまだ先のことで、25年以降になる」と述べた。
一方で、ポール氏はパンデミック期の極端な人手不足を経験し、多くの雇用主が人員解雇に消極的になっていると分析。「この業界では数年前と比べて経営哲学に変化が起きている」という。
アリエンスがその一例で、同社は従業員数を減らす一方、昨年は3カ月間にわたり1週間働くごとに1週間の休暇を取ることを義務づけた。CEOのアリエンス氏によると、こうした仕組みによってレイオフの拡大を回避することができた。
アリエンスは非上場で、不況乗り切りのためにコスト削減を迫られることはない。また、アリエンス氏はこうした取り組みで利益が打撃を受けたことを認めている。
アリエンスにとって重要なのは天候だ。米東部で雪が少ない冬が2度あった上に夏に日照りが続き、販売不振に拍車を掛けた。アリエンス氏は「天候が景気と同じか、それ以上に影響するという点で、当社は変わり種だ」と述べた。

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トムソン・ロイター

Tim Aeppel covers the intersection of economics and companies, with an emphasis on manufacturing. Previously, Tim served as the Chief Economics Correspondent at The Wall Street Journal after spending six years as the Journal’s roving manufacturing correspondent. He began his career at the Christian Science Monitor, where he launched the paper’s first environmental affairs beat. Tim has spent much of his career chasing stories on the world’s factory floors and industrial byways, applying a sharp eye for detail coupled with a deep understanding of the macro forces that shape the economy. He is a graduate of The Fletcher School of Law and Diplomacy at Tufts University and of Principia College.