【知って予防】高齢者に多い感染症の特徴とは 感染経路と予防法

インフルエンザの流行や、高齢者施設で発生した感染症について、毎年のようにニュースで耳にすることが多くなりました。

このページでは、なぜ年をとると感染症にかかりやすいのか、高齢者はどんな感染症にかかりやすく、どうしたら予防できるのかについて説明します。

高齢者の免疫が低下する理由

高齢者が感染症にかかりやすいのは、若い人よりも免疫力が低下しているからです。

免疫機能は60歳を超えると20代のおよそ半分以下になるといわれています。

加齢によって、免疫を主導する白血球(T細胞)が生み出される数が減り、その活動も衰えます。さらにT細胞の成長を助ける脾臓やリンパ節の機能も低下するため、T細胞の病原体への反応が弱くなります。

このように、免疫機能を持つ細胞の産生が減り、免疫細胞の機能を助ける臓器が衰えると、体全体の免疫機能は低下していきます。

このため、高齢になると様々な病原体の影響をもろに受け、病気にかかりやすくなるのです。

高齢者がかかりやすい感染症

高齢者がかかりやすい感染症には、以下のようなものが挙げられます。

感染症は早く対処しないと、血液に細菌感染を起こし菌血症になったり、細菌による全身炎症反応である敗血症になって死亡に至る確率も高くなります。

インフルエンザ
インフルエンザウイルスに感染することで発症します。38℃以上の高熱や関節痛、筋肉痛などの症状が特徴ですが、高齢者はあまり高熱が出ないこともあります。毎年、12月~ 3 月にかけて流行しますが、A型は年ごとに流行する型が異なり、予防接種を受けても必ずしも有効とは限らないこともあります。既に慢性疾患のある方は、インフルエンザの合併症で肺炎を起こすなど重症化することがあります。
ノロウイルス感染症(感染性胃腸炎)
感染性胃腸炎とは、細菌やウイルスなどの病原体による胃腸炎で、その病原体の一つがノロウイルスです。牡蠣などの貝類に含まれ、加熱不足だったり、手や食器にウイルスが付着したまま食事をすることで感染し、激しい嘔吐と下痢を起こします。感染力は強く、感染者の便や嘔吐物から飛び散ったウイルスを吸い込むなどでも感染します。

ノロウイルスはワクチンがなく、しかも免疫は短時間しか効果がなく何度でも再感染し、治療は脱水管理や誤嚥防止など対症療法に限られます。感染性胃腸炎の原因である食中毒は一年中発生しますが、ノロウイルスの場合は特に冬季に流行します。
尿路感染症
尿路(膀胱、尿道、腎臓、尿管などの尿の通り道)に感染を起こすことを指します。多くは尿道口から菌が侵入し、尿が濁ることもあります。通常は残尿感や排尿痛がありますが、高齢者は頻尿症状だけのこともあります。

高齢者は加齢による様々な疾患のため尿路の防御機能が低下していて尿路感染症を起こしやすいうえ、再発を繰り返し治りにくい特徴があります。
寝たきりの場合は残尿の多さや、排泄後オムツ交換まで時間がかかるため細菌が増殖し、尿道や膣に付着・逆流することで尿路感染症になりやすい状態にあります。
肺炎
肺炎は病原体の感染による肺の内部(肺胞内部=空気に接する部分)の炎症です。一般的には外部から肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、レジオネラ菌、結核菌などの病原体が入り感染します。しかし免疫が落ちている高齢者の場合、普通は問題にならないような菌でも肺炎を起こします(このように、抵抗力の低下が原因で低毒性細菌に感染・発症することを「日和見(ひよりみ)感染」と呼びます)。

高齢者肺炎の7割以上が自分の口の中などの菌が誤嚥(ごえん)により肺に入って起こる誤嚥性肺炎です。たいてい高熱が出ますが、高齢者の場合は発熱せず、咳、胸痛、痰や息苦しさなどの症状だけで風邪と間違えられ、既に重症化している場合も多くあります。
結核
空気感染により結核菌が体内に入り、主に肺の内部で増えて発症します。咳、痰、微熱、だるさ、寝汗など風邪のような症状が多いですが、肺以外にも、リンパ節、脳など身体の他の部分に影響が及ぶことがあります。高齢者の場合は、かつて感染した菌が残っていて、免疫が衰えた老年期に再び活性化して肺結核を起こすことが多くありますが、発症した場合でも、現在は医療が進歩し、死亡率はそれほど高くはありません。
レジオネラ症
レジオネラ属菌が原因で起こる感染症です。レジオネラ属菌は、土中など自然界に広く生息し、風などで運ばれて空調の冷却塔や、高齢者施設の循環式浴槽、家庭用加湿器などに入り水を介して感染源となります。咳やだるさなど風邪のような症状があります。
人から人へは感染しないので、患者さんを隔離する必要はありませんが、上記のような共通の感染源から複数の人が感染し発症して、レジオネラ肺炎による死亡者が出る事例もあります。
MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
黄色ブドウ球菌は、普段私たちの鼻やのど、皮膚などにもいる菌です。それが多くの抗生物質に対し耐性を持ち影響を及ぼす病原菌となったものを薬剤耐性菌と呼びます。主なものがMRSA(マーサ)で、バンコマイシンなどのMRSA治療薬と呼ばれる抗菌薬を用いて治療しますが、皮膚の感染症(蜂窩織炎)や腹膜炎、肺炎、髄膜炎、感染性心内膜炎など様々な部位に感染を起こし、他の菌の感染症よりも治療に苦慮することが多くあります。
緑膿菌感染症
緑膿菌は水場を中心に通常の環境内にある菌で、健康な人には害がありません。しかし、免疫が弱まると体の様々な場所に影響を及ぼします。
緑膿菌感染は呼吸器系、尿路、血管内に影響が出ることが多く、特に呼吸器系に感染すると症状は重く、肺組織が破壊されてしまいます。
最近、様々な抗生物質に耐性を示す「多剤耐性緑膿菌」がみられるようになり、警戒されています。
腸管出血性大腸菌(O157)
大腸菌は家畜や人の腸内に存在しほとんどは問題を起こしませんが、中には人に下痢などの消化器症状や合併症を起こすものがあり、病原性大腸菌と呼ばれています。特に腸管出血性大腸菌は毒力の強いベロ毒素を出し、下痢、激しい腹痛、血便の他にも急性脳症や尿量減少や浮腫、頭痛、けいれんなどの症状が出る溶血性尿毒症症候群(HUS)などの命に関わる合併症を引き起こすのが特徴です。
腸管出血性大腸菌の中でも有名なのがO157で、生肉や井戸水をはじめ様々な食品から見つかるため、食品洗浄や加熱など衛生的取扱が大切です。
疥癬(かいせん)
ヒゼンダニが皮膚の角質層に寄生し、卵を産み増殖して発症します。手のひら、指の間、わきの下、おへそ周り、太ももの内側、陰部などに赤い発疹が出ます。かゆみはヒゼンダニが活動する夜間に強くなり、眠れないこともあります。1人に約100万匹以上のヒゼンダニが寄生するノルウェー疥癬は特に感染力が強く、患者の隔離が必要です。
接触によって感染し、人の皮膚から離れると3時間程度で死にますが、同じタオルを使う場合などでも感染することがあります。診断は難しく、通常の湿疹にしか見えないこともあるため、湿疹様のかゆみは感染を疑い様子を見ておかないと、感染拡大の恐れもあります。

上記の他に、感染症の治療による二次的な症状として、抗生物質の多用により腸内の良い菌が死滅し、悪い菌がはびこる薬剤性大腸炎も起こることがあります。

家族ができる感染症予防

日常生活での予防

ご本人の予防はもちろん、介護する人も健康管理に気をつけ、自分が患者にならないこと、感染源にならないことが大切です。

帰宅時に手洗いとうがいをする

外出先から帰宅した時には、手洗いとうがいを行います。うがいは、のどの奥だけではなく、口の中もしっかりとゆすぎます。

手洗いは、手の隅々まで洗うことが、外の菌を持ち込まないポイントです。

介護者は、介護前後の手洗いも徹底します。手袋をつけてケアした場合も、手袋をはずした後に必ず手洗いをします。

孫などの子どもから感染症がうつるケースが多くあります。子ども自身の体も守るため、丁寧な手洗い法を一緒にやって教えてあげましょう。

身体の清潔保持をする

感染症が流行する冬場は入浴が面倒になりがちですが、できるだけ清潔に保つよう心掛けましょう。

特に陰部は汚れがたまりやすい場所。尿路感染症や皮膚感染症を予防するためにも、清潔な水とタオルで清潔保持をすることが大切です。

予防接種を受けておく

高齢の方は、医師と相談のうえ毎冬に流行するインフルエンザの予防接種を受けておくとよいでしょう。

接種後約1~2週間してから効果が現れるので、流行前の10~11月ごろ摂取しておくと万全です。家族や介護者も接種が望ましいでしょう。

体力をつけ、楽しく過ごす

免疫の低下は、加齢のみではなく、栄養不良、睡眠不足、運動不足や過多なストレスなどからも生じます。

これらにより、体力が低下したり、体内のバランスを保つ機能が落ちると、さらに免疫力は低下し、感染症になりやすくなります。

食事・睡眠・運動などの生活習慣を整え、ストレスなく楽しく毎日を過ごして免疫機能を上げましょう。

感染後の感染経路に応じた予防

感染症にかかったことがわかった場合は、以下のような感染経路に応じた感染拡大防止策を徹底することが大切です。

感染経路 説明 主な感染症 予防法の例
飛沫感染 咳やくしゃみなどの飛沫から感染する インフルエンザ、肺炎球菌、風邪など ・マスクの使用
・眼鏡、ゴーグルの着用
・ビニールエプロンの着用
・フェイスシールドの使用
接触感染 触って、または触った媒介物を通して感染する。 尿路感染症、疥癬、水虫(白癬菌)など ・手袋・ビニールエプロンの着用
・手洗い・該当部位の清潔保持
・手指の消毒
・タオルなどの共有をやめる
・速やかなオムツ交換
空気感染 同じ空間にいることで感染する。 結核など

・マスクの使用
・感染者の隔離
・同じ空間にいた人の検査

現場では、感染症が直接状態の悪化や死亡を招くだけでなく、例として以下のように別の状況を引き起こして悪循環となり、恒常的な状態悪化を招くパターンがよくみられます。

  • ノロウイルスで嘔吐する → 誤嚥を引き起こす → 肺炎で呼吸状態悪化 → 呼吸器離脱できず
  • 下痢で栄養低下 → 体力低下 → 持病の悪化、または他の菌の肺炎で死亡

感染症にかかったら、それを治すことだけではなく、全身状態を注意深く確認しておくことも大切なのです。

目に見えない小さな菌やウイルスなどにより全身状態の悪化を引き起こす感染症は、高齢者介護で最も恐ろしいものの一つともいえます。

しかし、予防策を習慣化しておくことや、何よりもご本人が十分な睡眠をとり、運動をし、バランスの良い食事を適量摂って体力をつけ、楽しく過ごして免疫機能を高めておくことが大切です。

そうすれば、完全ではなくとも、かなりの確率で感染症を防ぐことができるでしょう。

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イラスト:安里 南美

この記事の制作者

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監修者:野溝明子(医学博士/鍼灸師/介護支援専門員)

東京大学理学部、同大学院修士課程修了。東京大学医学部(養老孟司教室)で解剖学を学んだ後、順天堂大学医学部解剖学・生体構造科学講座で医学博士取得。東京大学総合研究博物館(医学部門)客員研究員。
医療系の大学、専門学校で非常勤講師を務めるほか、鍼灸師として個人宅・施設等へ出向き施術を行ったり、ケアマネジャーとして在宅緩和ケアや高齢者の介護・医療の相談にものる。
著:編集工房まる株式会社

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