【新刊】『古図式趣向詰撰集』

 古図式とは何か、趣向詰とは何か。実はこの書名の2大要素である「古図式」も「趣向詰」も確固とした定義は存在しない。古図式は江戸時代以前と主張される方から昭和の戦前も既に古図式だとされる方までさまざま。「趣向」や「構想」も時代によって使われ方は移ろっていくことはちょっと古い方ならご存知だろう。
 ここでは明治時代までの作品集から、手順趣向(龍追い、馬追い、金追い、夏木立、朝霧……)をすべて選び出して収録している。書名を「撰集」としたのは「これ(は|も)趣向詰(ではない|だ)」という意見に平等に対応することは不可能だからだ。著者は「全集」を編むという心意気で取り組んでいる。数千もある古図式を何度も並べ、趣向手順を含むと選ばれた284局が収録されている。

 さらに難しいのは、古図式は出版・印刷されたものであっても異図や作意手順がはっきりしないものも数多く、さらに個人の手書きの作品集ともなるとそもそもその図の作者が誰なのか、自作なのか人から見聞きした作品を記録したものなのかも曖昧なことが多いということだ。長い年月の間に不具合を補正した図がそうと明記せずに紹介されたり、誤った図を紹介したり、もしくは人の作品を改竄して自作を偽る輩も現れたりするということだ。つまり一つの図についても、作者が誰で、いつ発表され、原図の配置がどうで、作意もはっきりしない場合があるということだ。(詰パラで詰将棋を紹介する際の指針を発表しているが、これを守らないtweetやYoutuberがいることは皆さんご存じだろう)
 著者はこれらの問題についても真摯に解明を進め、本書は現時点における古図式研究の一つの到達点であると謳っても許されるだろう。

 そのような研究書としての一面も持つ本書であるが、古図式になじみの少ない読者に「詰将棋の楽しい面を知ってほしい」という配慮も忘れていない。
 古図式というと、盤面いっぱいに駒が配置され難解を極めるという印象を持っている方がいらっしゃるに違いない。そこで作者は、全部解こうと思わず楽しいところだけ味わって貰ってもいいじゃないかと考えた。

 上の例を見ていただければ分かるように、趣向が始まる局面を途中図として挿入してある。腕自慢の方は初形から真面目に解いていただければ良いし、解図力に自信のない方は途中図から解く(もしくは並べる)ことで趣向詰の美味しいところを味わって貰おうという配慮である。

 古図式や手順趣向詰将棋の歴史的発展に興味がある方は勿論、初心者の方にも広く本書をお薦めしたい。

 amazonつみき書店で購入できます。


お詫び
 amazonで検索する際は「古典趣向詰撰集」でお願いします。
 これは筆者がかなり初期の段階から間違っていて、うっかりamazonKDPにも「古典……」で登録してあったからです。
 一旦出版したあとは書名は変更できないと言うことでamazonでは『古典趣向詰撰集』になっています。御免なさい。

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