懲戒免職とは?
種類・懲戒解雇との違い・該当行為・
退職金や年金の取り扱いなどを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

懲戒免職」とは、公務員を失職させる懲戒処分です。民間企業における「懲戒解雇」に相当します。

懲戒免職を含む国家公務員の懲戒処分については、人事院が指針を公表しています。同指針においては、正当な理由のない21日以上の欠勤、故意による秘密の漏えい、入札談合への関与、悪質な犯罪行為などが懲戒免職相当とされています。

懲戒免職された公務員に対しては、退職手当の全部または一部が支給されないのが一般的です。また、すでに退職手当が支給されている場合は、返納を命じられることもあります。

年金についても、その一部が不支給となることがあります。

民間企業においては、懲戒処分を行うに当たって考慮しなければならないポイントがあります。特に、安易な理由で懲戒解雇を行うと、解雇権の濫用に当たり無効となるおそれがあるので要注意です。

この記事では公務員の懲戒免職について、懲戒解雇との違い・該当行為・退職金や年金の取り扱いなどを解説します。

ヒー

公務員にも解雇ってあるんでしょうか? 懲戒処分などは、たまにニュースになっていますが…。

ムートン

公務員には企業でいう整理解雇などはありませんが、非違行為を理由とする懲戒免職はあります。どんなときに免職になるのか、免職の影響についても確認していきましょう。

※この記事は、2023年9月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

懲戒免職とは

懲戒免職」とは、公務員を失職させる懲戒処分です。民間企業における「懲戒解雇」に相当します。

免職の種類|懲戒免職・分限免職・依願免職・諭旨免職

公務員の免職には、以下の4種類があります。

4種類の免職

①懲戒免職
職場における綱紀粛正や規律・秩序の維持を目的として、懲罰の意味で行われる免職処分です。公務員に何らかの重大な非違行為があった場合に、懲戒免職となることがあります。

②分限免職
組織の能率的運営の維持・確保を目的として行われる免職処分です。財政の悪化による人員整理や、死亡または長期間の行方不明、心身の故障などを理由に分限免職となることがあります。

③依願免職
本人の希望を受け入れて行う免職処分です。諭旨免職を受けて公務員が退職する場合も、「依願免職」として取り扱われることがあります。

④諭旨免職
非違行為をした公務員に対して、自発的に退職するよう促すことをいいます。厳密には免職処分ではありませんが、拒否すれば懲戒免職となる可能性が高いため、実質的な免職処分として位置づけられることがあります。

懲戒免職と懲戒解雇の違い

懲戒免職懲戒解雇は、いずれも労働者に対して行われる最も重い懲戒処分ですが、対象者が異なります。

懲戒免職は、公務員を失職させる懲戒処分です。
これに対して懲戒解雇は、民間企業などが従業員を解雇する懲戒処分です。懲戒解雇は厳しい要件を満たす必要があるため、実際に従業員を懲戒解雇する際には慎重な検討を要します。

人事院が公表する懲戒処分の指針

国家公務員に対する懲戒処分については、人事院が指針を公表しています。同指針においては、「免職」「停職」「減給」「戒告」という4つの懲戒処分を定めた上で、それぞれの懲戒処分に該当する行為を例示しています。

なお、地方公務員に対する懲戒処分については、条例や各地方公共団体が定める規則によって基準が示されています。

懲戒免職に相当する行為の例

人事院の懲戒処分の指針では、免職(懲戒免職)に相当する行為として、以下の例が挙げられています。

一般服務に関する行為

一般服務に関する行為のうち、免職に相当するものは以下のとおりです。

免職
・自己の不正な利益を図る目的で、職務上知ることのできた秘密を故意に漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせること

免職または停職
・正当な理由なく、21日以上の間勤務を欠くこと
・同盟罷業、怠業その他の争議行為を企て、またはその遂行を共謀し、そそのかし、もしくはあおること
・職務上知ることのできた秘密を故意に漏らし、公務の運営に重大な支障を生じさせること(自己の不正な利益を図る目的による場合を除く)
・国が入札等により行う契約の締結に関し、当該入札の公正を害すべき行為をすること
・公文書の偽造もしくは変造、虚偽の公文書の作成、または公文書の毀棄
・決裁文書の改ざん
・暴行もしくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、または上下関係に基づく影響力を用いて無理やり性的関係を結び、もしくはわいせつな行為をすること
・相手の意に反することを認識した上で、わいせつな言辞等の性的な言動を執拗に繰り返し、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させること

免職、停職または減給
・パワーハラスメントを行ったことにより、相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患に罹患させること

公金・官物の取り扱い

公金・官物の取り扱いに関する行為のうち、免職に相当するものは以下のとおりです。

<免職>
・公金または官物の横領
・公金または官物の窃取
・人を欺いて公金または官物を交付させること

公務外における非行に関する懲戒免職相当の行為

公務外における非行のうち、免職に相当するものは以下のとおりです。

<免職>
・放火
・殺人
・強盗
・麻薬、大麻、あへん、覚醒剤、危険ドラッグ等の所持、使用、譲渡等

<免職または停職>
・自己の占有する他人の物の横領
・窃盗
・詐欺、恐喝
・18歳未満の者に対して、金品その他財産上の利益を対償として供与し、または供与することを約束して淫行をすること

飲酒運転・交通事故・交通法規違反

飲酒運転・交通事故・交通法規違反のうち、免職に相当するものは以下のとおりです。

<免職>
・酒酔い運転によって他人を死亡させ、または傷害を負わせること
・酒気帯び運転によって他人を死亡させ、または傷害を負わせた上に、救護義務違反をすること

<免職または停職>
・酒酔い運転(他人を死亡させ、または傷害を負わせた場合を除く)
・酒気帯び運転によって他人を死亡させ、または傷害を負わせること(救護義務違反をした場合を除く)
・飲酒運転以外での交通事故によって他人を死亡させ、または傷害を負わせた上に、救護義務違反をすること

<免職、停職または減給>
・酒気帯び運転(他人を死亡させ、または傷害を負わせた場合を除く)
・飲酒運転以外での交通事故によって他人を死亡させ、または傷害を負わせること(救護義務違反をした場合を除く)

<免職、停職、減給または戒告>
・飲酒運転をした職員に対し、車両もしくは酒類を提供し、もしくは飲酒をすすめた職員または職員の飲酒を知りながら当該職員が運転する車両に同乗すること

懲戒免職された公務員の退職金・年金の取り扱い

懲戒免職となった公務員に対しては、退職手当退職金)の全部または一部、および年金の一部が不支給となる場合があります。

懲戒免職された公務員の退職金

懲戒免職処分を受けて退職した国家公務員に対しては、退職手当等の全部または一部を不支給とする処分が行われることがあります(国家公務員退職手当法12条1項)。また、すでに支払われた退職手当等についても、返納が命じられることがあります(同法15条1項)。

地方公務員の退職金の取り扱いについては、条例で定められます(地方自治法204条2項・3項)。

懲戒免職された公務員の年金

停職以上の懲戒処分(免職を含む)を受けた公務員に対しては、支給される年金のうち、職域年金相当部分の額の一部が5年間不支給となります。

ムートン

最後に、企業における懲戒処分についての注意点を紹介します。

企業における懲戒処分について注意すべき点

公務員の懲戒処分の基準は人事院や条例によって明示されていますが、企業が懲戒処分を行う際の基準は、各企業が独自に定めます

しかし、企業は自由な判断で懲戒処分を行うことができるわけではありません。法律上の要件を満たさない懲戒処分は、無効となってしまいます。

企業が懲戒処分を行うに当たっては、以下の要素に留意した上で慎重な検討を行いましょう。

① 就業規則に懲戒処分の種別・事由が示されていること(「罪刑法定主義」の考え方)
② 一事不再理の原則(二重処罰の禁止)
③ 不遡及の原則
④ 相当性の原則
⑤ 平等取り扱いの原則
⑥ 適正手続きの原則

就業規則に懲戒処分の種別・事由が示されていること(「罪刑法定主義」の考え方)

懲戒処分を行う際には、就業規則にその根拠が示されていなければなりません。具体的には、以下の2点を満たす必要があります。

① 行う懲戒処分の種類が、就業規則において示されていること
② 従業員の行為が、就業規則上の懲戒事由に該当すること

懲戒処分について就業規則上の根拠が必要とされているのは、従業員の予測可能性を確保するためです。犯罪について刑罰を科すためには法律の根拠を要するという刑法の大原則になぞらえて、比喩的に「罪刑法定主義」と表現されることもあります。

一事不再理の原則(二重処罰の禁止)

従業員による1つの非違行為につき、複数回にわたって懲戒処分を行うことは原則としてできません。これを「一事不再理の原則二重処罰の禁止)」といいます。一事不再理の原則は、刑事裁判における原則を借用したものです(日本国憲法39条、刑事訴訟法337条1号参照)。

ただし懲戒処分については、刑事裁判に比べて、一事不再理の原則は緩やかに適用すべきと解されています。懲戒処分は刑事罰そのものではなく、企業は捜査機関のように強力な事実調査能力を持たないからです。

これらの点を踏まえて、全く同一の事実について複数回の懲戒処分を行うことは認められないものの、後から判明した事実を踏まえて懲戒処分の内容を変更することは認められると考えられます(東京地裁令和4年2月10日判決等)。

不遡及の原則

懲戒処分は、対象行為の時点において有効な就業規則の根拠規定に基づく必要があります。

対象行為がなされた後で新たに懲戒処分の根拠規定が設けられたとしても、その規定に基づいて懲戒処分を行うことはできません。これを「不遡及の原則」といいます。

不遡及の原則は、懲戒処分に就業規則の根拠が要求されることから当然に導かれます。後から作られた規定によって懲戒処分を受けることがあるようでは、従業員の予測可能性が全く確保されないからです。

相当性の原則

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。同規定に基づき、懲戒処分に客観的合理性・相当性が求められることは「相当性の原則」と呼ばれます。

懲戒処分の客観的合理性・相当性の判断に当たっては、懲戒に係る労働者の行為の性質および態様その他の事情が考慮されます。

平等取り扱いの原則

懲戒処分の客観的合理性・相当性を判断する際には、「平等取り扱いの原則」も考慮されます。

「平等取り扱いの原則」とは、就業規則違反に当たる行為の内容や程度が同じであれば、実際に行う懲戒処分の種類や重さも同じでなければならないという原則です。例えば、上司の好き嫌いによって懲戒処分の重さを変えたり、「見せしめ」などの名目で過度に重い懲戒処分を行ったりすることは認められません。

平等取り扱いの原則を遵守するためには、裁判例や自社における過去の懲戒処分事例を調査することが大切です。調査した類似事案における非違行為と、実際の労働者の非違行為の内容と比較した上で、適正な懲戒処分の種類や重さを検討しましょう。

適正手続きの原則

懲戒処分の客観的合理性・相当性を確保するためには、適正な手続きによって処分を決定することも重要になります。

懲戒処分の判断に当たっては、事実関係を正確に調査した上で、従業員本人を含む多様な関係者に事情を聴くべきです。例えば以下のような対応を行えば、適正な手続きによって懲戒処分を行ったことを説明しやすくなります。

懲戒処分の適正な手続きの例

① メール・書類・録音データなど、調査可能な資料を漏れなく調べて、調査結果をレポートにまとめる
② 非違行為に関係し、または非違行為を目撃した従業員等から幅広く事情を聴き、その内容をレポートにまとめる
③ 従業員本人に対して事情聴取を行い、その際に自由な弁明の機会を与える
④ 過去の裁判例や自社の懲戒処分事例等を調査し、問題となっている事案との比較を行った上で、その内容をレポートにまとめる
⑤ 取締役会等の適切な意思決定機関が、適正な合議を経て懲戒処分を決定する
など

ムートン

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