物価上昇や生活苦の特効薬になる? 最低賃金「再改定」求める声

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横断幕やボードを手にしたデモ行進で最低賃金引き上げを訴える参加者たち=東京都渋谷区で2023年2月26日午後2時55分、東海林智撮影
横断幕やボードを手にしたデモ行進で最低賃金引き上げを訴える参加者たち=東京都渋谷区で2023年2月26日午後2時55分、東海林智撮影

 物価上昇が続く中、最低賃金を再び改定するよう求める声が上がり始めた。最低賃金を僅かに上回る水準の賃金で働く人たちの生活苦が深刻になっているからだ。最低賃金は使用者が支払わなければならない賃金の最低額で、通常は年に1回、10月ごろに改定される。だが、実は年1回と決まっているわけではなく、直近の改定から1年が経過する前の「再改定」は可能だという。どういうことなのか。

「結婚も子育ても全部諦めた」

 「電気代・ガス代どうにかしろ」「最低賃金¥1500」。ピンク色の横断幕やボードを掲げた若者たちが2月26日、東京・渋谷の繁華街を練り歩いた。最低賃金の引き上げを求めるデモ行進だ。学生や非正規雇用労働者など約100人が参加した。

 途中、東京都内在住の30代の女性がマイクを握り、長時間労働で体調を崩して残業がない正社員の仕事に移ったところ、手取りが15万円になったと打ち明けた。「家賃を払ってご飯を食べたら1円も残らない。結婚も子育ても、引っ越しも転職も全部諦めた。人間らしく暮らせる最低賃金に増額してほしい」と訴えた。「賃金上げろ」のシュプレヒコールが上がると、周囲から歓声が湧いた。

大みそかに食料の配布をはしご

 低賃金にあえいでいるのはデモの参加者だけではない。

 埼玉県西部に住む男性(42)は二つの仕事で生計を立てている。スーパーマーケットでアルバイトとして働き、勤務シフトが入っていない日や勤務時間が短い日にはレンタカー関連の仕事を請け負う。1人暮らしで、ひと月の手取りは14万円程度という。

 2022年10月の最低賃金の改定を受ける形で、スーパーの時給は35円上がって991円に。手取りはそれまでよりも月約5000円増えた。レンタカーの仕事では、手取りは増えなかった。

 「最低賃金が上がっても物価の上昇に追いつかない」。増えた手取りは電気、ガスなどの支払額の増加で帳消しになった。食費を削ろうと、民間の団体による炊き出しや食料の配布が催される際は、できる限り足を運んでいる。

 22年の大みそかには、東京都内で食料の配布をはしごした。「2カ所まわらないと年が越せないんでね」。暗くなった東京・池袋の広場で男性は肩をすくめた。困窮者らへの食料の支援に取り組む団体の関係者は「物価高騰で、これまでは並ばなくても大丈夫だった人たちが足を運ばなければならない状態だ」と話す。

 スーパーのパートとして働く宮崎県在住の女性は金銭的な余裕がなく、今年成人式を迎えた娘に、振り袖を着せてあげられなかったことを悔やむ。「生活が厳しいとはいえ、自分がしてもらったことを子供にしてあげられないのは本当につらい」

物価上昇に拍車

 最低賃金は中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)の議論を踏まえ、各都道府県に設置される地方最低賃金審議会で地域別に決められる。22年10月の改定で、全国の加重平均(都道府県ごとの労働者数の差異を踏まえた全国平均)が時給961円となり、それまでの時給930円から31円増加した。引き上げ幅は過去最大だという。

 これに先立つ22年8月の答申で、中央最低賃金審議会は地方最低賃金審議会に対し「前提とした消費者物価等の経済情勢に関する状況認識に大きな変化が生じたときは、必要に応じて対応を検討することが適当である」との見解を示した。

 ここで言う前提の一つが約3%の物価上昇だ。総務省の消費者物価指数を見ると、物価上昇に拍車がかかっている様子が読み取れる。

 中央最低賃金審議会が労働者の生計費を把握するために利用している指標(持ち家の帰属家賃を除く総合)は22年6月、前年同月からの上昇率が2・8%だった。この数値は最低賃金の改定があった22年10月には4・4%、23年1月には5・1%に達した。食料品や光熱費など生活の必需性が高い「基礎的支出項目」では、22年6月の4・4%が、23年1月には6・3%となった。

「23年度改定まで持たない」

 こうした点を踏まえ、最低賃金を再改定するよう求めているのが、労働組合関係者でつくる「最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会」だ。…

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