「だまして入院と憤慨」すれ違う太宰治と井伏鱒二 書簡を新発見

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太宰治を顕彰する文学碑のための揮毫(きごう)を取りに行くことを念押ししている井伏鱒二から佐藤春夫宛ての書簡=東京都渋谷区の実践女子大で、内藤絵美撮影
太宰治を顕彰する文学碑のための揮毫(きごう)を取りに行くことを念押ししている井伏鱒二から佐藤春夫宛ての書簡=東京都渋谷区の実践女子大で、内藤絵美撮影

 <もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました>

 自身の半生を基にしたとされる小説「人間失格」の中で、自己否定と人間不信を強めていくさまを書いた太宰治。今回見つかった書簡には、師の井伏鱒二がこの作品の原点となった太宰の入院の様子を書き記していた。

 新発見の書簡(1936年10月24日付)では、<まだ妄想的なことを口走っている>と太宰に禁断症状が残る状況をつづり、<だまして入院さしたと憤慨している>と続けている。被害者意識が強く、半ば強制的に入院させられたと思い込む様子が記されている。さらに<まともに面とむかってそんなことをきくと喧嘩(けんか)したくなりますから、当分のうち面会に行かないつもり>と、井伏が入院の様子を絶えず気に掛けていたにもかかわらず、「だまされた」と言われたことを心外に思う師弟間のすれ違いも読み取れる。

 また、太宰は後に面会に来ない妻のことを「薄情」となじっているが、実際は病院長から面会謝絶とされており、誤解だとみられることも分かった。

 太宰は当時27歳。既にデビューしていたものの、前年4月に急性盲腸炎から腹膜炎を併発。治療のため大量のパビナール(鎮痛剤)を摂取したことで中毒になっていた…

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