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近年、価格が大きく変動している小麦。日本はその8割以上を輸入に依存し、食糧安全保障の観点からも国産への期待は高まる一方だ。だが、製粉協会の佐々木康雄専務理事は「国産の増産にはさまざまな課題がある」と指摘する。パンの値段は今後どうなるの? 小麦も「国産が当たり前」という日は遠い? 農林水産官僚時代は麦の国家貿易に従事し、産地の事情にも詳しいエキスパートに、気になる「国産シェア拡大への道」を聞いた。
――身の回りの商品で値上げが相次ぐ中、小麦製品も値上げが続いています。世界的な小麦の相場について、現在の状況と今後の展望について教えてください。
◆小麦相場の世界的なメルクマール(指標)とされているのがシカゴ相場です。このシカゴ相場は、ロシアのウクライナ侵攻直後に高騰し、史上最高値を更新しました。ですが、その後は徐々に落ち着きを取り戻し、今では侵攻前の水準まで下がって、安定して推移しています。
ただ、最近の相場はウクライナ侵攻前から、世界的な大産地であるアメリカやカナダが干ばつで不作だったことで高くなっていました。それがウクライナ侵攻でさらにヒートアップした。このように地政学的なリスクがあると当然、相場は大きく反応しますが、それ以外でも、主要な輸出国の生産動向や大口の需要国の貿易政策の急な変更などによっても相場は動きます。
今後どうなるのかは、はっきり言って誰にも分からないということです。ただ、普通に生産がなされて普通に流通していれば、今のような相場水準になるでしょう。
「買い負け」防ぐ国家貿易
――輸入小麦の「政府売り渡し価格」も、10月から引き下げられました。私たちが手にするパンやパスタの値段も下がるのでしょうか。
◆9割近くを外国産に頼る小麦は、国が直接輸入する「国家貿易」という形を取り、製粉会社に売り渡しています。製粉会社が個々に輸入するのに比べてバイイングパワーが強いので、とても重要な仕組みと言えます。
製粉会社は小麦を国から買い、それを粉にして品質をそろえ、製パン会社や製麺業者などに販売します。商品を作るためのコスト構成はかなりの割合が原料代なので、政府売り渡し価格が上がれば、業務用に販売する小麦粉の価格も上げないと成り立たない。
逆に下がれば、その分はきちんと還元しないと取引先には納得してもらえません。なので、政府売り渡し価格の上げ下げがあれば、基本的にはそれにパラレルな関係で価格改定が行われてきた、というのがこれまでの経過です。
ただし、製粉工場はものすごくエネルギーを使います。電気料金や商品を運ぶための物流費など、小麦以外のコスト変動も当然あるので、それも加味して経営が成り立つような販売価格の改定にしないといけません。
一方、加工業者の立場からすると、例えばパン屋は製粉会社から買う小麦粉以外にも原材料を結構使います。小麦粉が下がったから即座に最終商品の価格を下げられるかというと、可能性としてはありますが、それぞれの会社の経営内容や扱う商品によって違ってくるので、一概には言えません。ただ少なくとも、上がる圧力にはならないのは間違いないでしょう。
作付面積拡大の余地は
――国際相場が不安定なので、国産小麦の増産が期待されますが、近年の作付面積はほぼ横ばいです。増える見込みはありますか。
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