米ニューヨークの国連本部で4日から開催予定だった核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染拡大の影響で延期になった。8月開催で調整されているが、3月には核廃絶を目指す核兵器禁止条約第1回締約国会議が予定され、核を持つ国と持たない国との溝が深まっている。
◆NPTとは
保有を5大国に限定 核軍縮・不拡散の柱
1970年発効のNPTは、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5大国に核保有を限定して拡散を防ぐ一方、核保有国は核軍縮交渉を進める義務を負うことなどを定めている。締約国は191カ国・地域に上り、世界の核軍縮や核不拡散の柱とされてきた。5年に1度開かれる再検討会議では、核軍縮▽核不拡散▽原子力の平和利用――の3部門で締約国の取り組みが検証されてきた。
ところが、2020年春に当初予定された再検討会議は、今回で4回目の延期となり、核軍縮の取り組みを検証できない空白期間がさらに延びることになった。非核保有国からは、核軍縮に向けた核保有国の議論が停滞しているとの厳しい目が向けられている。
「核戦争に勝者はいない」初の共同声明
そんななか、NPT加盟の核保有5カ国が3日、核戦争を回避する責務をうたった共同声明を出した。「核戦争に勝者はおらず、戦うべきではない」との内容だ。5カ国が一致して、核兵器に関する声明を出すのは初めてだという。
共同声明の背景には、核兵器保有を5大国に限定したNPT体制に対する国際的な信認の低下への危機感があるとみられている。
国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の川崎哲・国際運営委員は、4日開催の動画配信イベントで「この声明が良いか悪いかと言えば、良かったと思うが、核戦争を始めてはいけないというのも、NPTに加盟しているのだから核軍縮を進めるというのも、当然のことだ。最低限のことしか言っていない」と指摘している。
◆NPT・核禁条約、延期の影響は…
核軍縮の停滞、心配 核保有5大国に任せておけない…
NPT再検討会議が延期されると、どんな影響があるのかな。
再検討会議は、核保有国が核軍縮を誠実に進めていることを5年に1度、世界に証明する場なんだ。本当に核軍縮を進めているのか、分からなくなるね。
核軍縮の取り組みが証明できないと、どうなるのかな。
核保有国は、NPTを守っていないのではという不信感が非保有国から出てくる。なかには北朝鮮のようにNPTを脱退して、自ら核兵器を保有しようとする国が出てくるかもしれない。核保有国だけに任せられないというのも、核兵器禁止(核禁)条約ができた背景の一つでもあるんだ。
核禁条約とNPTは、対立しているの?
確かに核保有国は核禁条約に批判的だ。でもICANの川崎哲・国際運営委員は、これまでの再検討会議で「核兵器の完全廃絶を達成する明確な約束」といった合意文書などの議論を踏まえて核禁条約はできたものなんだとしている。だから対立するものではなく、核廃絶に向けて他の枠組みとともに全体として前に進めていくものだといっているよ。
では、日本はどうなの。岸田文雄首相は、再検討会議で日本は核保有国と非保有国の「橋渡し役」になるといっているね。
先月発足したドイツの新政権は、核禁条約の締約国会議にオブザーバー参加する方針を明らかにしたよ。でも、同じように米国の「核の傘」の下にいる日本は慎重な姿勢を崩していないんだ。
岸田首相は1月の再検討会議で、日本の存在感を示そうとしていたけど、それができなくなった。3月の核禁会議で、日本を抜きにして核廃絶が話し合われていくことになるのは避けてほしいな。
■KEY WORDS
【核兵器禁止条約】
2021年1月22日に発効。核兵器の製造から使用、威嚇までを禁じている。5大国やその「核の傘」の下にある日本などは参加していない。昨年12月24日現在の批准国は59カ国・地域。
【核保有国の議論が停滞】
米国とロシアは2019年、中距離核戦力(INF)全廃条約を失効させ、それぞれ小型核や極超音速滑空兵器の開発を進めている。また、台湾情勢などを巡る米中関係の緊張も続いている。米政府によると、中国も極超音速兵器の実験をするなど核戦力を強化し、今後10年程度で核弾頭を倍増させると指摘している。