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遺族年金のしくみと手続~詳細版|#18遺族年金受給者は別居の本妻か、同居の内縁の妻と子か?

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は、戸籍上の妻と内縁の妻がいる場合の遺族年金です。戸籍上の妻は、亡夫と長年にわたり別居生活を送っていました。その間、亡夫は内縁の妻及びその子と一緒に暮らしていました。こうしたケースについて、法規制上はどのように考え、遺族年金を支給するのか見ていきます。

【事例概要】
死亡者:Aさん(昭和37年6月10日生まれ/60歳/会社員)
・昭和62年4月 B子さんと婚姻。その後、長男D、次男Eが出生
・平成22年8月 家族と別居してC子さんと同居を始める
・平成28年頃   会社の経営状況が悪化。その後、倒産
・令和3年9月   発病
・令和4年9月   死亡
 
配偶者:B子さん
・Aさんの戸籍上の妻
・Aさんが家を出てからは長男D、次男Eと暮らす
 
請求者:C子さん(昭和50年7月15日生まれ/47歳)
・平成22年8月 X市内でAさんと同居を始める
・平成22年12月  Aさんとの子Fが出生
・平成23年2月 Aさんが子Fを認知
・平成25年4月 Aさんの転勤でM県にFとともに転居
その後、Aさんの転勤によりX市に戻る
・令和4年10月 年金事務所へ来所

子のいる内縁の妻の遺族年金

厚生年金保険の被保険者であったAさんが死亡したので、その内縁の妻というC子さんが遺族年金の相談に見えました。なお、Aさんには戸籍上の妻であるB子さんがいるとのことでした。
 
国民年金法及び厚生年金保険法では、厚生年金保険の被保険者で、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が25年以上ある者が死亡した場合、その者の配偶者でその者の死亡の当時、その者によって生計を維持し、かつ、18歳年度末までの間にある子と生計を同じくしていた者には遺族基礎年金及び遺族厚生年金を支給する、としています。

また、同法では「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む、としています。そして、重婚的内縁関係が存在する場合には、①死亡した者と内縁関係にあった者が、死亡した者によって生計を維持していた事実があり、②死亡した者の法律上の婚姻関係がその実質を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化している場合、内縁関係にあった者は遺族給付を受給できる配偶者に当たる、としています。

なお、「死亡した者によって生計を維持していた配偶者」とは、死亡した者と生計を同じくしていた配偶者であって、年額850万円以上の収入または年額655万5千円以上の所得を将来にわたって有すると認められる者以外のものとされています(国年法第37条の2第3項、国年法施行令第6条の4、厚年法第59条第4項、厚年法施行令第3条の10)。
 
Aさんが厚生年金保険被保険者であったこと、C子さんが年収基準額を将来にわたって有すると認められる者以外の者であること、Aさんが死亡した当時、C子さんと生計を同じくしていたことは持参資料等から明らかです。

そうすると、問題はAさんの死亡の当時、C子さんがAさんによって生計を維持していた配偶者であったと認められるかどうか、また、戸籍上の妻B子さんとの婚姻関係が形骸化し、かつ、その状態が固定化していたと認められるかどうか、です。 

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