連載コラム

第27回 日本のあかり文化とSSL

[ 2011.12.22 ]

はじめに

 今年の文化勲章に赤﨑勇博士(名城大学大学院理工学研究科教授及び名古屋大学特別教授)が受賞されました。おめでとうございます!受賞の報を知ったのは、赤﨑先生へあるワークショップのことお知らせしようと準備していた時でした。文化勲章授与でしたら、今以上にご多忙に・・・。そう思いながらその「親子LED工作のワークショップ」へのご招待案内は未送にしたのでした。10月29日に実施したこのワークショップでは、赤﨑先生発明の青色LEDや白色LEDなどを用いて、親子(おじいさん、おばあさんも参加して)で工作を行いました。
 赤﨑先生への文化勲章は、LEDへの嬉しい「おめでとう!」でもあると思います。そして、「LEDによる21世紀のあかり文化の創出を!」と促し示していると、私には思えるのです。



図1 名古屋大学内の赤﨑記念館。赤﨑先生の映像と、窒化ガリウム系半導体の青色発光ダイオード結晶成長を成功させた歴史的装置MOVPE2号機。



図2 名古屋大学内にある赤﨑記念館1階。赤﨑博士の青色LED発明までの経緯や当時の実験装置などが展示されている。窒化ガリウム(Gan)結晶模型(左側)と世界初の高品質GaN単結晶の成長に成功したMOVPE装置1号機(真ん中のケース内)。この装置は赤﨑教授の設計指導のもと、当時の学生たちがほとんど手作りで作り上げたもので、数々の実験と改良の上、1985年2月に窒化ガリウム結晶成長に成功している。現在市販の窒化物半導体デバイス(LEDやレーザー)はすべてこの成長法が用いられている。



図3 日本のあかり文化と関連深い、和紙を用いた「ワーロン紙」使用の親子LED工作展の案内ポスター(親子LED、名古屋テレビ塔講座作品展2011)。展示場所は名古屋市内のトヨタホーム本社ショールームと名古屋テレビ塔で、親子LED講座の作品が発表展示されています。

 今回のコラムは前回にも記述した、SSL(Solid-State Lightingの略で半導体の光源であるLEDとOLEDを示す)の照明計画をするうえで、大いに参考になった日本のあかり文化と関連する事柄を取り上げますが、まずは最近多くなったLED工作教室の事例なども紹介したく思います。日本のあかり文化になくてはならない和紙、その活用商品「ワーロン紙」を活用したLED工作教室も併せて記します。

全国に広がるLED工作教室

 今秋のあかりの日、全国で照明関係者によるイベントや街頭での省エネ照明への促進PRがありました。10月21日は、米国のトーマス・エジソンが炭素電球を40時間点灯に成功した歴史的な日(1979年/明治12年)です。 その歴史的な日を記念して日本の主な照明関係4団体(照明学会、日本電球工業会、日本照明器具工業会、日本電気協会)はエジソンの偉業をたたえ「あかりの日」と制定し、全国でより良い照明のあり方への啓蒙活動を展開しています。このあかりの日にちなんでの各種活動の中に、日本電球工業会とその会員(ランプメーカー)による全国的なLED工作教室があります。今年で6回目となったこのイベントは会員企業の工場所在地域の小学校とのコラボレーションで、省エネ光源LEDを楽しみながらよく知ってもらおうとする活動です。筆者も協力しています。LEDキットの組み立てから始まり、各自の家にある材料で自由なLED創作物をつくろうとするもので、毎回新趣向の作品が多く生まれ、子供たちの豊かな創造性に感動を受けます。今年はこのLED工作教室に鎌倉市の小学校(6年生97名)が新たに加わり、その子供たちへのLEDキット作りに鎌倉市に本社がある工業会会員の三菱電機照明とそのグループカンパニー、三菱電機オスラムがサポートしました。LED作品創りをフォローして、子供たち一人ひとりのオリジナリティー溢れる作品が生まれ始めます。教室はLEDの光であふれ出し、子供たちの作品完成に沸く喜びの声があちらこちらで聞こえるのでした。
 日本電球工業会の会員による他の開催地は、愛媛・今治市、大阪・高槻市、滋賀・甲賀市、栃木・鹿沼市です。工業会以外では、徳島市や宇部市などの地域の関係行政が主催するものから、札幌市や仙台市や高松市などで民間企業が主催するLED工作教室などもあり、全国でLED工作教室が開催されています。





図4、5、6鎌倉市の小学校で開催されたLED工作教室の様子と作品。父兄らの参観もありましたが、6年生たちは自由創作に熱中の様子でした。教室壁面には事前にLEDのことを自習発表した用紙が貼られており、LEDへの関心の強さを感じました。

 今秋、新しい形態でスタートした親子LED工作教室を紹介します。世界で専用テレビ塔として最初に建てられた「名古屋テレビ塔」を、LEDでモデルアップしようという企画です。主催団体は「LEDあかり塾名古屋・名古屋テレビ塔講座実行委員会(ヘッドリーダー:若松寿)」で、今春開塾したLEDあかり塾名古屋の塾生たちと名古屋テレビ塔講座実行委員会が立ち上げたLED講座(ワークショップ)と展示会で、ワークショップ&レビューという工作教室スタイルと言えます。そのワークショップは普通のLED工作教室と違う点があります。次の4点です。

 ①レクチャー(講義)を受けます。(LEDについて、テレビ塔について、使用材料についてなど)
 ②LEDランプとコードやICチップ基盤らの結線に、半田付けを実施
 ③LEDランプを組み込んでの完成品の形態は自由で多種多様
 ④造形物の材料は、和紙をベースにしたワーロン紙を使用
 
等で、「ものづくり」への本格的講座・工作教室にこだわっていました。その内容ですが、①のレクチャーでは、LEDの基本的事項を聴講し、さらにテレビ塔やワーロン紙の特性や歴史などの説明を受けます。まず講義を受けるので、親子でメモを取る姿が印象的でした。②の半田付けは各親子に半田ごてで実施してもらいます。現在の義務教育課程で半田付け体験することは皆無に近く(工業高校などの専門高校に進学すれば別)、一般的には未経験者多数でありましょう。しかし子供たちに科学の楽しさを知ってもらうのなら、半田つけはぜひ必要とヘッドリーダーの若松氏が強調し、実施となったのでした。親子の真剣な取り組みが始まります。③の造形は自由ですが、テーマ=名古屋テレビ塔に決まっており、子供たちは思い思いの21世紀型名古屋テレビ塔をスケッチし、創作をしました。④のワーロンは、紙の世界で最高と云われる「和紙」を極薄アクリルや塩ビシートで特殊サンドイッチしたもので、各色自由に組み合わせ使用がOKです。しかも切断ははさみで、接着は両面テープでの作業が簡単な代物です。この材料で制作をしました。

 このワークショップですが10月29日に実習を済ませて、展示発表されています。100組の親子によるLED名古屋テレビ塔のモデル、本物・名古屋テレビ塔のそばで見られます(2012年12月25日まで)。

 「親子LED工作、名古屋テレビ塔講座作品展2011」の会場は、
 トヨタホーム本社ショールーム 名古屋市東区泉1-23-22 1階展示室
 アクセス http://www.toyotahome.co.jp/showroom/access.html



図7、8 世界初の専用テレビ電波塔として建てられた1954年当時の名古屋テレビ塔(左)と現在のライトアップされた状態(右)(名古屋テレビ塔株式会社より)。



図9と10 「LEDあかり塾名古屋」の塾生たちによって運営実施されるワークショップ会場。半田付けしている親子の様子(会場はトヨタホーム本社ショールーム内セミナールーム)。



図11 ウインドウから見える会場「親子LED工作、名古屋テレビ塔講座作品展2011」



図12 ウインドウに置かれた作品例



図13 展示会場におかれた作品例



図14 「親子LED工作、名古屋テレビ塔講座作品展2011」会場内の情景

海外での活躍を期待する日本人デザイナー

 次世代の若者たちに、ぜひ世界で幅広くデザインワークをしてほしいと願い、この項を設けました。前回は世界最大といわれる家具見本市milano saloneの若者向け出展コーナーsatelliteにて展示していた男性と、日本とヨーロッパで照明デザインしている女性を紹介しました。今回も主にヨーロッパでデザイン活動している二人を紹介します。
 まずは今年のmilano saloneの家具メーカーCampeggi社で新作展示されていた、スタッキングチェアのMatrioskaデザイナー安達さくら氏です。家具デザインを中心に、食器などのテーブルウエアや照明器具などをヨーロッパメーカーと商品開発を手がけ始めています。 2001年に武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、ロンドンのデザイン学校で修士インダストリアルデザインコースを卒業し、イタリアに渡りデザイン事務所に勤務。その後2008年に独立した新進気鋭の安達氏は、2010年、白と黒のフルーツボウルECLIPSEでドイツのデザイン・コンテストred dot design awardを受賞しています。このコンテストはプロダクト部門では世界的に高い評価を受けており、毎年世界中から多くの応募が寄せられています。若くしてそのコンテストに応募し、受賞を勝ち取られたこと、デザインセンスとともに前向きに取り組む安達氏の姿勢に、今後の大いなる可能性を感じています。現在はミラノに居を構えながら、日本のメーカーとも照明の製品開発をしているとのこと。来春の発表が楽しみです。



図15、16 今春発売されたスタッキングチェアMatrioska、milano saloneのCampeggi社ブースで座ってみたが、意外と座りやすかった。そして、スタッキングは絶妙でスムーズであった。



図17 ドイツのデザイン・コンテストred dot design award 2010を受賞したフルーツボウルECLIPSE。モノトーンの2つの部品(白と黒)が組み合わさっている。(詳しくは、www.sakurah.netを参照ください)

 もう一人、有機EL照明デザインによって一躍日本照明界で知られるようになった三井直彦氏です。今年のmilano fuorisalone(フォウリサローネ)のLumiotecの展示会場で初めてお会いしたのですが、All OLED空間の照明効果を見ることに夢中で、お話する機会を逃がしてしまったのです。改めて日本で5月再会し、彼のビジネスマインドの素晴らしさを知りました。
 三井氏は東京芸大の美術研究科建築系大学院にイタリア政府外務省給費奨学生としてイタリアへ渡ります。その関係でミラノ工科大学建築学部で助手となり、多くの著名イタリアデザイナーと接しました。1996年にはマリオ・ベリー二事務所に入所し、本格的なイタリアンデザインのビジネスマインドを得とくします。そして2004年に独立、ミラノにトライアンフというデザインコンサルティング会社を設立し、今日に至っています。
 有機EL照明デザインはこれからの新境地です。デザインコンサルタントとして、21世紀の主要光源と目される有機EL照明の用途開発やセールスプロモーションの分野に、新しい機知に富んだ戦略で挑み、市場開拓をするでありましょう。 照明については決して経験豊富ではありませんが、社会や市場動向への考察や時代の要求する未知覚ニーズへのFeasibility Study(実現可能性検討)などは修練されていましょう。OLED新境地を見せてくれるでありましょう。日本の有機EL照明が世界に展開することを期待します。



図18、19 三井直彦氏がLumiotec社の為に開発したテーブルランプ「VANITY」(左)と吊り下げ型の簡易照明「HANGER」(右)(詳しくは、www.triumphdc.comを参照ください)

日本のあかり文化とSSL

 前回に日本の建築と採光について、さらに日本の紙「和紙」の活用や1世紀半ほど前までの主要光源であるろうそくと草種油について、それらを活用した多種多様の古灯具など19世紀までの中世の日本のあかり文化のすばらしさを、かいつまんで記しました。そして2年ほど前から意識し始めた「日本のあかり文化とSSL」のことも記しました。これらのことは筆者の講演会でも紹介することがありますが、先般の「あかりの日」の講演会では講演後に質問され、SSL照明との要点などお答えしています。そのことを筆者の今秋の旅「日本のあかり紀行」と併せて紹介します

 1990年代、世界は環境共生・省エネ志向を鮮明にしました。その動向をニュースや海外視察で感じていた私は、2001年から20世紀の光源から新世代の光源に可能性を求め、LEDに特化することにしました。そしてさらに2006年からOLEDを加え、SSL光源を生業として現在に至っています。この間、LED照明器具開発や白色LEDだけでの照明空間計画と実践(OLEDの照明も同様に)をしてきました。
 2年前ほどより、白色LEDの照明空間事例も各地で話題にもなりニュースでも取り上げられ、ALL LEDやALL OLEDの照明提案も世界各地で体験できるようになりましたが、筆者が取り組んでいた2005年ごろはLEDの空間はほぼ皆無でした。世界3大ランプメーカーの動向を注意深く拝見していても、日本の照明メーカーの方々に聞いても事例の話はなく、学習対象など見つからない時でした。ですから私は試行錯誤をしながら「LEDによる快適照明の探求」をしていました。2004年、5年、6年と・・・。
 どうすれば心地良い空間になるか?そしてOLEDの場合は?さらに両者の共通事項は?など。あれこれ自問自答をくりかえしていたのです。



図20と21 日本の中世後半で、自然素材を巧みに生かし、構成させた傑作のあかり道具、提燈(左、照明文化研究会より)と行灯(右、「あかりの古道具」坪内富士夫著より)の例。

 日本のあかり文化をこよなく愛し、研究学習する任意団体の「照明文化研究会」に、入会して10年が過ぎようとした頃の2006年、自問自答へのヒントをこの研究会で掴みます。まず一つ目は、「拡散透過光」です。見学会や研究発表会で教示された行灯や提灯や格子障子の拡散透過光は心地よいあかるさであることに、改めて気づきます。古灯具の種類や構造や成り立ちなど、少し理解し始めていた頃で、古灯具鑑賞が楽しくもなり始めた頃でした。



図22と23 八間行灯(左、「あかりの古道具」坪内富士夫著より)と多くの日本建築住空間に見られる障子と縁側のある光景

 また、ちょうどその頃、有機EL照明のパネルを実際に手に取り、面の輝きに驚いていた時期でもありました。面の透過は和紙の特性だが、他にも和紙の特性を生かした(面発光)古灯具があることに気がつきます。和紙の白い面を光らせて室内の明るさを採る古灯具、八間行灯です。なるほど、この手法は日本建築の採光の常套手段ではないか!と、あれこれ思い巡らすのでした。日本庭園の白い玉砂利や砂地への直射陽光、その反射拡散光の室内採光は昔から活用しているのです。縁側を照らす陽光の反射光を室内に取り入れるのも反射光、それも表面が不規則である雑凹凸の木面では反射率が低く、乱反射する、つまり反射拡散光ではないか・・・。この八間行灯や日本建築の採光手法の一つである「反射拡散光」、LEDの光も八間行灯の和紙の様に適用したらよいのでは!と理解し始めたのです。日本のあかり文化からの教示、2つ目は「反射」でした。

 山形大学工学部で有機ELを学び、研究している学生に、照明の講義をして欲しいとの依頼が2009年にありました。有機EL照明の発明者として広く知られる城戸淳二博士からでした。工学部の学生に、しかも有機ELの基礎研究の学生に照明の何を伝えられたら良いだろうか?思考しました。以前から留意していた日本建築の採光の一つ「面採光」を分かりやすく話せないか?と思考しました。照明デザインや世界の照明動向を講義するより、空間の面的「室礼」を知ってもらうのも、有機ELの照明用途に繋がり、今までとは違う研究への参考になるのでは?と判断し、「日本のあかりと室礼」のことを話すことにしました。早速に資料集めと整理に取り組みました。
 平安時代の日本建築空間では、仕切りはどのようにしていたのか?そして鎌倉・室町時代には、さらに安土桃山、江戸時代はどうだったのか?ということです。すべてが面での対処であったが、その採光方法は?と、映像を用いて部屋の区切りと仕切り、その採光について整理したのでした。この視点は「LEDによる快適照明とは?」を把握し始めていた頃であり、各時代の建築様式の違いを映像で見つめていると、画面の中の「部位面明るさ」の違い(多様さ)に気づきます。この多様さが人にとって心地よいのでは?・・・、そうか、光の面のグラデーションだ!と気づきました。日本建築の室礼による採光はグラデーションでもあるのでは?と思い廻らしました。そして茶室の土壁や畳面や天井の部位平面的明るさ感の違い、これこそ凝縮された典型的室礼の採光事例では!と思ったのです。茶室が日本人に好まれ、愛しまれることが少し解かったように思え、日本のあかり文化のすばらしさをも改めて感じたのです。
 日本のあかり文化から学んだ3つ目は、日本建築の室礼や仕様内外装材からの「グラデーションによる採光」です。



図24 京都御所の紫宸殿の壁代 壁の代わりに長押から垂らして仕切りにする幕のこと。巻き上げたりして採光調節もする(照明文化研究会より)。



図25 広島県呉市の蘭島・松涛園の茶室。天井、窓、障子戸、土壁、畳の面の明るさの違いを知ることができる。

おわりに

 前回に続いて日本のあかりとSSLのタイトルで記しました。それはこの10年間、LEDとOLEDに特化して活動してきて思い至ったことでもあり、日本のあかり文化の凄さを感じているからでもあります。
 この数年間、21世紀の最新光源を用いて照明計画をしようとした時、どのようなあかりが大切で、どのような機能を有する器具(あかりの道具)が必要か?を自らに問いてきました。そのとき私に示唆してくれたのが「日本のあかり」であり、記述した「透過拡散」と「反射」と「グラデーション」で、私はこれらの採光手法を用いて空間を判断し、その人工照明のための器具化を試行し実践しました。それが「あざぶの丘」のLED照明器具(シャンデリア、スタンド等。2008年10月竣工)です。いかに形と光のデザインを両立させ形態創出するかに気遣かったのでした。
 そして現在、新たなる次の4つ目の手法を模索中です。そのためにいろいろなところに出かけ見聞を広めるよう心がけています。照明学会の日本のあかり文化調査委員会活動への参加、さらにあかりと関連する事柄(勉強会等)へも積極的に出向くようにしています。
 本コラムの最後に、その見聞に出かけた事柄(筆者が自らに称する「日本のあかり紀行」)から2~3を紹介し、終了とします。

 10月に瀬戸内海にある小島で「日本のあかり」が見られると聞き、行ってきました。素晴らしい魅力ある島で、素朴で、再訪したく思ったほどの広島県呉市の郊外にある下蒲刈町下島です。別名「蘭島」と名されているこの島の松濤園に「あかりの館」がありました。見ごたえある古灯具の展示の数々がありました。それも移築した古い日本建築の中に整然と展示されており、当時の様子も窺い知ることができます。他にも展示館(朝鮮通信使資料館や陶磁器館など)や美術館もあり、魅力溢れる島です。
 訪問した時、高島北海とアールヌーボー展がこの瀬戸内の小さな島で開催されていたのには、驚き、そして感動しました。以前にフランス北部のベルギー国境に近い街、アールヌーボーで有名なナンシーを訪れた時、日本人「高島北海」が大変高い評価を得ていたことを知ったからです。彼の名はエミール・ガレの作風に大きな影響を与えた人物としてデザイン史には必ず名が挙げられていますが、氏の生い立ちや活動歴、さらにはその後の様子などを記したデザイン書は本当に少なく、知りたいと思っていましたから、関心を持って観てきました。素晴らしい描写力を有す日本を代表する日本画家の一人であることを知りました。高島は青年時代、明治政府の科学研究員としてヨーロッパの森林視察研究に派遣され、ナンシーに3年間滞在します。このとき、高島の写生がナンシーの工芸作家たちに大きな影響を与えていたのでした。そして52歳の退官後は日本画に専念し、多くの受賞を経て日本画会重鎮となっていたのです。高島北海の多くの作品やその生い立ち(山口県出身など)などを知ることができた旅でもありました。
 温暖なる瀬戸内の食の幸も多いと知ったこの島、各種の文化も充実している蘭島へ改めて再訪し「あかりの館」をじっくり観察したく思いました。



図26と27 広島県呉市の郊外の下蒲刈町下島、松濤園「あかりの館」館内(左)と高島北海の作品が展示(11月28日で終了)されていた会場(三之瀬御本陣芸術文化館)

 次は「やきもののあかり」企画展です。多くの窯で作られた古灯具が、各窯ごとに分類されている、見応えあるユニークな素晴らしい内容の紹介です。
 長野県小布施には、国の重要有形民族文化財の指定を受けた灯火用具を展示している「日本のあかり博物館」があり、その2階が「やきもののあかり」企画展の会場でした。陶磁器を好きな方も灯りに関心を持つ方々も、この企画展は興味深くそして新たな発見でわくわくすることでしょう。これだけいろいろやきもの産地を区分けしたあかり企画展は、世界にもないでしょう。日本のあかりとやきものとのつながりの深さと多さは、日本のあかり歴史を知るうえでも貴重だと思いました。この素晴らしい企画展は来春4月3日まで開催中です。



図28と29 長野県小布施にある日本のあかり博物館、館内の様子(左)と企画展「やきもののあかり」展、展示の様相

 11月初旬に島根県益田市を訪問しました。今年も日本一に選定された清流・高津川が流れる美しいのどかな街は中世の歴史と文化の溢れる街でした。日本を代表する文化人・雪舟の日本庭園などもある、雪舟にゆかり多い街でした。
 今回の訪問は益田市の文化遺産を未来につなぐ実行委員会から、「遺跡から多くの灯明皿が発掘され、灯明皿で中世の灯りをテーマにしたワークショップをしようとしているので協力を!」との要請でした。ワークショップに参加した親子が事前に作った灯明皿に、このワークショップのために菜種から精製した菜種油に灯心を浸し、灯します。当日親子の参加者が創った和紙貼りの手作り「行灯」(補強材も紙) カバーが添えられ完成です。
 この手作り灯明「行灯」の制作と、灯された場所は、雪舟の庭で有名な「萬福寺」 で、益田市中心を流れるもう一つの川「益田川」のほとりでした。益田川の堤防からは庭に揺らめく手作り行灯が見え、犬と散歩する人たちもお寺境内の灯りの美しさに足を止めて眺めていました。
 ワークショップを終えて萬福寺の本堂では、「日本のあかり文化」講演が行なわれ、市民の方々(ワークショップ参加の親子も)に灯明皿のしくみや行灯の由来などを映像で紹介(筆者より)しました。
 萬福寺本堂裏に雪舟のお庭があり、日中の鑑賞を楽しませていただきました。紅葉の葉も庭に彩りを添え、落ち着いて心地よい眺めでありました。最近多いライトアップなどは決して似合わないであろうし、明るくしたら雪舟が嘆くのでは?と、「どのような灯りが相応しいか?」に思いを巡らしながら島根県を後にしました。



図30 告知されたチラシ、紹介された和紙の手作り行灯(益田市教育委員会より)



図31 ワークショップでの親子手作り行灯が並んで点灯されている様子



図32 講話で紹介した灯明皿についての画像



図33 萬福寺本堂裏の雪舟の庭

 「日本のあかり紀行」と称しての最後の紹介は、輪島の千枚田「あぜのきらめき」です。千枚田、温帯モンスーン地域でしか見られない稲作の棚田。その冬季のあぜ道に、夕暮れどきになると、ポッ!ポッ、ポポと、あちらこちらであかりがともり始めるのでした。協力している友人から今年はろうそくからLEDに代わると聞いて、見てきました。
 遠くから見ると「あ、ろうそくのあかりだ」と思わず思ってしまうほど、冬の日本海からの吹きすさぶ冷たい風とは裏腹に、寒々しくない暖かなアカリ(ろうそくの灯りでないのでカタカナ表記する)が輪島の北方に位置する「白米(しろよね)」の千枚田に点灯していました。LEDソーラーのランプのオレンジ色のアカリ、12.000個(技術供与は石川サンケン㈱)でした。12月初旬の雷雹が降る日でした。
 このLED、日中の太陽光をそれぞれにLEDランプが付いたミニソーラーパネルで受けて起電し、そのエネルギーで点灯するという、まさしく自給自足、いや、自起電自給自灯で、リサイクルペットボトルを活用した環境超優良イルミネーションでした。暗くなるとパネル裏側下部のミニ蓄電用電源に備蓄した電気をLEDに給電するのです。この輪島の千枚田LED、なかなかの逸品でした。
 年末になると、世界中でLEDイルミネーションが色華やかに輝きますが、その光景は年々華々しく、省エネ推進する時流に逆流するかのようです。しかしこの輪島の千枚田、素晴らしい企画構想=自起電自給自灯で、それを実現した知恵と技術と創作力、21世紀型のイルミネーション事例でもあると思いながら見惚れていました。
 「あぜのきらめき」と命名されていた世界初の千枚田LEDソーラーイルミネーションが、冬の日本海から世界に向けて輝いていました。壮観で美しいこの輪島の千枚田、2012年1月9日まで点灯しているそうです。



図34 日本海の海岸に作られた輪島市白米の千枚田、12.000個のLEDがかがやく。(白色発光部は見学者向けに設置された歩行用ガイドあかりで、散策路に固定された既成LEDラインチューブライト)



図35 夕暮れ前の下段あたりの千枚田。 直前に日本海が迫っている。あぜ道に連なるのがペットボトル活用のLEDソーラー。



図36 ポツ、ポツと点灯し始めたLED、ペットボトルの中上部の黒い円盤がソーラーパネル、下部に電源部がある。地上に接している黒いキャップ状の先は地中に差し込んである。(制作技術供与は石川県にある石川サンケン㈱)この後30分ほどで、全点灯された。

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落合 勉
執筆者:落合 勉

照明デザイナー
M&Oデザイン事務所代表
LBA JAPAN NPO 理事長、愛知県立芸術大学非常勤講師、照明文化研究会 会長


1948年愛知県三河生まれ、ヤマギワにて照明を実践。
1991年横浜にてM&Oデザイン事務所スタート、現在に至る。
2001年からLED照明デザインワークに特化しての活動を展開、そして2006年からはOLED照明普及にも尽力。
2006年のALL LEDの店舗空間、2008年のALL LED街あかりや住空間、2009年のALL OLED照明空間など手がけ、SSL快適照明を探求提案。
器具のプロダクトデザインや照明計画などを行う傍ら、国内外の照明関連展示会や企業などを訪れ、グローバルな照明最新情報をインプットする。コラム(http://messe.nikkei.co.jp/lf/column/ochiai/index.html)参照。
趣味は古灯具探索で、日本のあかり文化の認知普及活動を展開中。
2009年7月、Light Bridge Association JAPAN NPOを設立し、理事長に就任。
次世代のあかり文化を担う「あかり大好き人間」の育成を目指している。

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