コミックナタリー PowerPush - 池辺葵「繕い裁つ人」

Kissから誕生した新マンガ誌・ハツキスの連載作 孤独な洋裁店の店主を描く、作者の素顔に迫る

講談社の女性誌・Kissより、新たな姉妹誌・ハツキスが6月13日に創刊された。2月まで刊行されていたKiss PLUSの後継誌となるハツキスでは、「『初!』に挑戦する刺激的マンガ誌」をテーマに、作家陣が新しい試みに挑戦していく。

コミックナタリーではハツキス創刊を記念し、Kiss PLUSから引き続き連載されることとなった「繕い裁つ人」の池辺葵にインタビューを敢行。2015年1月に中谷美紀主演で実写映画化されることとなった同作のことはもちろん、謎に包まれた池辺自身についても深く聞いた。

取材・文/岸野恵加

池辺葵インタビュー

「マンガ家になられへんかったらどうやって生きていくんやろう」

──今日は「繕い裁つ人」についてはもちろんですが、あまり明かされていない池辺さんの素顔にも迫れればと思いやってまいりました。ご出身は関西ですよね。

はい。ハタチくらいからは関西を転々としてますが、それまでは大阪の田舎のほうで育ちました。

大和和紀「あさきゆめみし」完全版1巻

──小さい頃はどんな子でしたか?

マンガ読んで、絵ばっかり描いてる子供でしたね。大和和紀さんや岩舘真理子さんのマンガが大好きでした。「あさきゆめみし」なんて、絵画と思って見てました。

──絵画?

着物の柄とか、細部に至るまでていねいに描かれているのが人間業とは思えなくて。特にカラーが印象的でした。でも思春期になってだんだん「マンガの世界は面白いけど、こういうことは現実には起こらないよな」って思うようになって……。

──自分の世界の狭さに焦ったというか。

そんな感じですかね。だから一時はマンガから離れてました。

──具体的にマンガ家になろうと思ったのはいつ頃なんですか。

池辺葵

子供の頃から絵以外なんにもうまくできなくて、「マンガ家になられへんかったらどうやって生きていくんやろう」と思ってはいたんです。仕事はいろいろしましたがどれも上手くできず、結局マンガに戻るという感じで。マンガを1作描き上げて、初めて投稿したのはだいぶ遅かったですね。なかなかうまくいかなくて、投稿を始めてからデビューまでは7年くらい掛かりました。

──7年間ずっと、こまめに投稿し続けていたんでしょうか?

最初の投稿作で小さい賞をいただいて1年くらい投稿を続けましたが、デビューには至らず、このまま投稿し続けても無理だと思ったので、いったんマンガから離れました。4年後くらいにまた投稿を始めて、2年後くらいにデビューという感じです。再投稿を始めたときには、これでプロになれないともう先はないって危機感というか、悲壮感みたいなものがありました。

モノローグを入れないのは「できない」から

──デビューを飾ったのが2009年。初めて拝見した池辺さんの作品がKissに載ってた「サウダーデ」だったんですけど、雰囲気がいわゆる女性向けマンガとは一線を画していたというか、とても記憶に残ってます。

池辺葵「サウダーデ」1巻

ああ……地味ですよね。 下手くそだし……。

──いえいえ。セリフや説明が少なくて間が活かされた画面を見て、何を吸収したらこういう表現に行き着くんだろう、と気になって。映画的、小説的な表現に感じるときがあります。

本は読まないです。

──いわゆる文章の本?

活字を見るとめまいがしてくるくらい苦手です。小学生のときは武者小路実篤とか好きだったんですけどね、最近は……。老眼なのかなー。

──そんな(笑)。

いまは年に1冊とか2冊とか読むかなってくらい。セリフがすごく少ないのは言葉を知らないだけです。

「繕い裁つ人」にはモノローグやト書きがほとんど使用されていない。

──意外でした。「繕い裁つ人」はモノローグやト書きがまったくないのも特徴的ですよね。

自分ができることだけやろうって思って。モノローグの効果って大きいから、使うのが難しいです。どこに入れるかとか言葉の選び方とか、考えることが増えちゃうから、使い切れないものはなくそうって思って。最近はちょっと使えるかも、って思えるようになって、ハツキス創刊号に掲載されるエピソードにはちょっと入れてみたんですけど。

──削ぎ落としてくスタイルなんですね。

できないことはやらないだけです。コマ割りも、斜めのカットさえ最初はできなかったんです。

「繕い裁つ人」には、定点カメラを使用したような構図がたびたび登場する。

──コマ割りといえば、定点カメラを使ったような構図で、数コマをつなげる表現をよく使われますよね。これって何か意図があるんでしょうか。

これはバイトの経験に基づいてるんです。以前マンガを携帯で配信するためにリサイズする仕事をしてたんですけど、そのときに、こういう同じ構図のコマを連続させると、画面がすごくキレイに動いたんです。このコマの流れで人が動いてるのが表現できるんだなって。

──パラパラマンガみたいな。

そうそう。小路啓之さんの「かげふみさん」ってマンガを仕事でリサイズしたことがあるんですけど、部屋に入ったときに電気が消えるってシーンがあって、携帯画面でコマ送りをしたら、本当に電気が消えたの! 「ああ、すごい」って思って。それがきっと記憶に残ってたんだと思いますね。

「ハツキス」2014年7月号 / 2014年6月13日発売 / 650円 / 講談社
「ハツキス」2014年7月号 / 2014年6月13日発売 / 650円 / 講談社
ラインナップ

ヤマザキマリ(原作:W・アイザックソン)「スティーブ・ジョブズ」、磯谷友紀「腹ペコな魔女 サティーとパールヴァティ」、雁須磨子「感覚・ソーダファウンテン」、池辺葵「繕い裁つ人」、原作:こやまゆかり 作画:霜月かよ子「ポワソン ~寵姫ポンパドゥールの生涯」、東村アキコ「海月姫外伝 BARAKURA」、葉月京「FRIEND OF FOE」、漫画:おおきたよる 原作:壁井ユカコ(GoRA) アニメ原作:GoRA・GoHands「K ―Lost Small World―」、奈良原せつ「年甲斐ないにもほどがある」、坂下七恵「13階の死神さん。」、小川彌生「刻待アパートメント」、百乃モト「私の無知なわたしの未知」、みなみうみ「小さなお人魚日和」、宇仁田ゆみ「柄ラボ」、沖田×華「透明なゆりかご」、岡田有希「さよならしきゅう」、浜名杏「いといろとりどり」

池辺葵「繕い裁つ人」5巻 / 2014年3月13日発売 / 648円 / 講談社
池辺葵「繕い裁つ人」5巻 / 2014年3月13日発売 / 648円 / 講談社

藤井の担当する洋裁教室の終了が決まり、パリ支店への転勤を希望する藤井。一方、何も知らない市江は、南洋裁店での日々の生活の中で、自分が本当に欲しいものを見つけることとそれを手に入れることの困難さを改めて心に刻んでいた。そして藤井のパリ転勤が正式に決定。それを耳にした市江は……。

池辺葵(イケベアオイ)
池辺葵

2009年、Kissマンガセミナーにて、「落陽」でデビュー。その後、Kiss PLUSにて「繕い裁つ人」の連載を開始し、現在はハツキス(ともに講談社)にて連載中。同作は2015年1月に、実写映画が全国公開予定。主な作品に「サウダーデ」(講談社)、「どぶがわ」(秋田書店)など。9月には、秋田書店のWEBマンガサイト「チャンピオン・タップ」で連載されていた「かごめかごめ」の単行本が発売を控えている。