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なぜ?湿布薬の上限 4月から原則63枚に 専門家が解説

2022年4月4日 19:29
なぜ?湿布薬の上限 4月から原則63枚に 専門家が解説
4月から湿布薬上限が63枚に(写真:イメージマート)

4月から湿布薬の1処方あたりの上限が原則70枚から63枚に変更されました。1割削減はなぜ?医療政策学が専門の横浜市立大学の五十嵐中准教授と読み解きます。

湿布薬の上限枚数が63枚へ変更されスタートした4月1日、医療現場等では、患者へ説明を重ねる場面もあったようです。Twitter等では「63枚となることは知っておいてほしい」「湿布63制限」などのツイートも。

五十嵐中(いがらし・あたる)准教授に聞きました。

ーー湿布薬に関わる改定の内容は?
4月から医療機関で処方できる湿布薬の枚数の上限が、原則1回あたり63枚に引き下げられました。これまでの上限は70枚だったので、1割(7枚)減ったことになります。医療保険のルールや個別の医療行為の価格は、中央社会保険医療協議会の議論を経て、2年ごとに改定されます。2022年4月の価格改定 (診療報酬改定)で、湿布薬に関するルールも改められました。

なお、重い症状の時や患部が広いときなど、医師がやむを得ない理由があると判断した場合には、その旨を処方箋やレセプト(医療保険の請求書)に記載すれば、63枚を超えて処方することも可能です。

ーー湿布薬の処方に上限が作られたのは?
2016年4月からです。このときに1回70枚を上限とするルールが新設され、今回の改定で上限が63枚に絞られました。

■議論では上限35枚の意見も 1割削減の攻防とは

ーー上限はなぜ必要に?
2016年の改定に向けた議論で、医療費を支払う側(保険者)の委員は、湿布薬が一度に大量に処方されるケースが多いことを指摘しつつ、処方枚数に上限を設けることや、炎症を抑える作用の弱いタイプの湿布薬を保険から外すことを提言しました。

一方で医師側の委員は、環境などの要因で処方枚数が多くなることもあるなどとして、一律の制限には反対しました。最終的には、保険外しは行わず、70枚の上限を設けることが決まったのです。

クリニックを受診して保険で湿布薬を処方されるならば、その湿布薬は受診した本人のその時の症状に対して使われるべきものです。しかし実際には、家で束になって「常備薬」化していたり、「安く湿布をもらうために医療機関を受診する」のような、本来のルールから外れた使われ方があったことも否定できません。保険診療を適正に行って、本当に必要な人に必要な分だけ薬を使う…この一環として、「上限70枚」ルールが作られました。


ーー63枚は適当な上限なのか?
今回上限引き下げを検討する際に、保険での湿布薬の処方枚数が調査されました。

2020年度1年間で、湿布薬が含まれる処方箋は 約7,900万枚。うち28%の約2,260万枚の処方箋が湿布薬64~70枚を処方していました。理由の明記が必要な70枚を超える処方箋は圧倒的に少なく、全体のわずか1.2%、約94万枚でした。

また、枚数別に見た場合、いったん29~35枚でピーク (約1470万枚)が来て、それ以上では大きく減少したのち、64~70枚で再度ピークが来る…というフタコブの形になっています。

支払側の委員(健康保険組合連合会・健保連)は、最初のピークが来ている1回35枚で十分ではないかと主張し、医師側委員は「ピークが2つあるのは、急性の痛みと慢性の痛みで質が違うから」と反論する等のような応酬もありました。

いずれにしても、多くの人が上限まで処方されている現実があるわけで、その上限をずらすことは、医療費の適正化にはつながるだろう…ということです。


ーー今後も湿布薬の上限枚数は減らされていくことになる?

十分にありうると思います。この分野に限らず、全ての医療を保険で面倒を見るという形は、もはや当たり前とは言えなくなった…と思います。「国民皆保険なのになぜ?」のような見方もありますが、本来の国民皆保険の趣旨は「すべての人が、必要な医療を安価で受けられる」ことであって、「すべての人がすべての医療を無料で受けられる」ことではありません。

これまで日本は、承認された医療は「必要な医療」である…という原則でほぼ全ての薬をまかなってきましたが、今後どのような形をとるのか、何が「必要な医療」なのか?は、議論していく必要があります。

■医療費は増加の一途 医薬品使用に一考を

ーー日本の医療費は増えていくばかり。
医療政策学の専門家として、国に意見を求められる立場から見て、薬の使い方で求めることは?湿布薬にはジェネリック薬がありますし、ドラッグストアなどで処方箋なしに購入できるOTC医薬品もあります。

しかし、貼り心地がよいことなどを理由に、先発品の売上も依然として多いです。売上ベースでも、先発品のある湿布薬は年間300億円を超えています。

2020年に、私自身がOTC医薬品協会と共同で、OTC薬のセルフメディケーション(自分自身の健康に責任を持ち、軽度な不調は自分で手当てする)で代替しうる医療費がいくらになるかの試算を実施しました。

他の疾患がなく、軽症な疾患「のみ」で受診した場合…と範囲を狭く取っても、総額で3,210億円。そのうち今回の湿布薬のターゲットになりうる腰痛や肩の痛みは、約81億円にのぼりました。

OTC・セルフメディケーションに置き換えられるところは置き換えて、本当に必要なところを保険医療でまかなう…保険制度を今後も維持していくためには、OTCとジェネリックと先発品の使い分けが、不可欠だと考えます。

■セルフメディケーション税制とは?

ーー1月からスタートした新セルフメディケーション税制とは?
セルフメディケーション税制は、制度の対象となるOTC医薬品を年間で1万2000円以上購入した場合、一定額を所得から控除できる制度です。

昨年までは強めのOTC医薬品 (スイッチOTC医薬品)のみが対象だったのですが、ことし1月から、かぜ薬や消炎鎮痛薬・抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬・鼻炎薬などは、原則どのOTC医薬品でも対象になりました。湿布薬も、多くのものが対象となっています。対象の医薬品かどうかは厚生労働省のウェブサイトや、一部のECサイトでも検索できます。商品そのものについたマークやレシートでも、対象商品が確認できます。

制度がうまく活用されて、セルフメディケーションが浸透していくことを望んでいます。