韓国総選挙、与党惨敗の理由は? 対話欠く尹錫悦大統領に厳しい評価
【建国大の李鉉出教授に聞く】
10日実施の韓国総選挙(定数300)で、保守系与党「国民の力」は比例向け系列政党を含め、改選前議席割れの108議席にとどまった。与党惨敗の要因や今後の内政、外交への影響について、日韓関係に詳しい建国大の李鉉出(イ・ヒョンチュル)教授(政治学)に聞いた。 (聞き手はソウル山口卓) 【関連】韓国総選挙、与党108議席で惨敗 尹大統領「国政を刷新」表明 「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の『独断的』とされる政治姿勢が厳しく評価されたのだろう。尹氏は2年間、革新系野党『共に民主党』の李在明(イ・ジェミョン)代表からの再三の会談要請を断り続け、国会でも拒否権を9回も行使した。自らが決めた方針にこだわり、対抗する勢力に一切、歩み寄る姿勢を見せない」 「それがよく現れたのが医学部定員の増員問題だ。2千人という増員幅を決めたプロセスを説明せず、医療界との対話もないまま推し進めた。医療現場が混乱したことに対する国民の不満は、対話姿勢に欠ける政府に向かった」 -選挙戦では医療問題や高騰する物価対策の議論が深まらなかった。 「各党は本来、政策を戦わせて未来の展望を示さなければならないのに、与野党とも互いの批判に終始した。有権者は『どっちが悪いか』『どっちが嫌いか』という基準で選ぶようになってしまう。敵対心をあおることで支持を得ようとすれば分断を深めるだけで、民主主義の崩壊につながる。こうした傾向が強まっているのは、韓国に限った話ではない」 -尹氏は今後さらに厳しい政権運営を迫られる。 「労働、教育、年金の三大改革を進めるのは難しくなるだろう。尹氏は『国政を刷新する』と語っており、野党との協調を探るようになると思う。拒否権の行使も控えるようになるのではないか」 -日韓関係への影響は。 「対日政策が変化することはないと思う。外交問題は韓日だけではなく、さまざまな国との関係で成り立っている。特に韓米日の3カ国の連携は非常に重要であり、内政の事情によって簡単に変えるわけにはいかない。野党も代案があるわけではない。総選挙でも対日政策はほとんど議論にならなかった」 -対北朝鮮政策に変化はあるか。 「北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることに厳しい姿勢で臨むのは与野党に関係なく当然だ。尹氏が強硬路線を変えることはないだろう。むしろ11月の米大統領選挙でトランプ前大統領が勝利した場合、朝鮮半島の安全保障体制に変化が生じる可能性がある」 ◆イ・ヒョンチュル 建国大大学院修了。大阪市立大客員研究員、韓国国会立法調査処審議官などを経て現職。建国大市民政治研究所長も兼務。59歳。