Yahoo!ニュース

「日本の人口は半減する」が、そもそも1億2千万の人口そのものが異常だった

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(提供:イメージマート)

2023年の将来推計人口が発表

4/26に、国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研という)から令和5年度版の「日本の将来推計人口」結果が発表された。今回発表されたのは、全国人口に関わるものだけであり、都道府県別や世帯別、配偶関係別などの詳細結果はまた後日となる。

早速、ニュースなどでこの結果が取り上げられ、「50年後の2070年には日本の人口が8700万人に減少」とか「高齢化率が4割近くになる」などという部分が報道されている。しかし、そんなことは、前回の2017年推計結果の時点でも大体その通りであり、今更新しいニュースというほどではない。

この連載でも何度か「2100年には日本の人口は6000万人になる」とお伝えしているが、それは2017年推計結果(出生死亡ともに中位推計)に基づくものである。その時点では2100年の総人口は約5970万人になるとされていた。

今回の推計では同じ2100年の総人口は約6280万人と少し増えている。これは何も出生数予測が前回からあがったわけではなく、さりとて死亡数予測が前回から下がったわけでもない。出生と死亡という自然増減にかかわる数字はほぼ前回と変わっておらず、2100年の人口が増えているのは外国人人口の増加によるものである。2100年時点で、総人口に対する外国人比率は現在の2%から15%以上に増えているからだ。

人口動態の予測は外れない

人口動態に関して、出生と死亡という自然増減の予測はほぼ外れない。たまに、大学教授であっても「人口推計はあくまで推計であって定まっている未来予測ではない。推計などはこれからの頑張りで覆していくべきものだ」などと宣う御仁がいるのだが、それこそ「明日、豪雨になることが明確なのに、我々が頑張れば快晴にできる」と言っているようなもので、昭和のスポーツ部活の監督なんだろうか。

写真:イメージマート

人口動態は精神論ではない。個人の意志でマクロな出生や死亡が転換できるものでもない。出生も死亡もその時点での年齢別人口とこれまでの推移からおおよそ外れない予測が可能である。それこそ戦争や大規模災害や疫病でもない限りは。

しかし、出生と死亡による自然増減だけなら精度の高い予測が可能だが、移民など社会増減については予測は困難である。今から25年もの前の社人研1997年推計に基づく2020年の総人口予測は誤差2%もあるという指摘があるが、これもまた社会増のせいである。外国人を除いた場合での誤差はわずか0.3%しかない。ほぼ完ぺきに25年先の人口を言い当てているのだ。

今回の推計で総人口が増えているのは、この社会増加分が加味されているためだ。その裏には、政府の移民政策の意図が見え隠れしている。もしくは、あまりに将来の人口が減りすぎるという結果を出したくないという表れだろうか。

単純に、日本人だけの総人口でいえば、2100年は6000万人どころか、約5300万人に減っている。

人口は半減することは確実

いずれにしても、2100年には今の人口の約半分の6000万人程度になることは避けられない。多少の移民が増えたとしても、数年後ろ倒しになったとしても、大きくは「人口は半減する」のである。

今回、2120年までの推計が出ているが、それでは中位推計で人口4970万人へと減少し、大正時代と同等になる。

「人口が半減するなんて大問題じゃないか」という声もあがるが、高齢化率上昇に伴う社会保障の話や、労働力不足や地域社会の存続の話などはまた別の記事で書くとして、問題であるという指摘は同意するが、さりとて不可避な現実なのだから、それに対応すべき視点を持たないといけない。

顔を真っ赤にして叫ぼうが、予算をふんだんにつけようが、出生数は増えないし、人間を不老不死にはできない。

そもそも1億2千万人の人口だったこと自体が異常なのだ。

写真:ロイター/アフロ

歴史的に見る日本の人口

日本の人口の長期推移を見れば、徳川家康が関ケ原の合戦で勝利した1600年には、日本の人口は1200万人程度であった。今の東京都よりも少ない人口だ。

それが、いわゆる元禄バブルの時代を経て、人口が激増し、1720年徳川吉宗の時代には、その約3倍近い3100万人以上になった。しかし、その後、人口は減退停滞期に入り、幕末までほとんど人口の増減がなかった。明治維新当時でも人口は3300万人である。

しかし、ここから人口が激増する。太平洋戦争直前には7300万人と倍増し、戦後二度のベビーブ―ムを経て、2008年に1億2800万人の最高人口となった。

明治から見れば、実に4倍増である。ちなみに、日本に限らず、20世紀は全世界的に人口爆発の時代でもある。

冷静に俯瞰してみれば、この急激な人口増加そのものが異常であり、人間の身体でいえば、熱病で急激な高熱に冒されたようなものだ。

写真:イメージマート

1900年あたりから100年かけて異常に膨れ上がった人口を正常な位置へと戻すかのように、今後100年かけて人口メカニズムが修正しているようにも見える。何より、今後の人口減少は、決して出生が足りないからだけではない。それ以上に、今まで長寿だった高齢者群が一気に死亡する「多死化」によって人口は減る。

日本の人口は6000万人へ。まもなくやってくる「多死時代」の幕開け

人口ピラミッド補正

人口減少も決してマイナスな面ばかりではない。

日本の人口ピラミッドは、戦後2度のベビーブーム期に生まれた中高年層により、歪なカタチとなっているが、2070年の人口ピラミッド図を見ればわかる通り、それが今後の50年で随分と修正されて、全体的にバランスがとれるようになっていく。

日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要より
日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要より

もちろん、その間の50年の過渡期は痛みが伴う。

しかし、できもしない出生増に予算をつぎ込むより、このバランスの悪い50年をどう乗り切っていくか、そっちの方向に舵を切るべき時に来ているのは間違いない。

そのためにも、高齢者はもはや支えられる側ではなく、数少ない子どもたちを支える側にならないといけないだろう。

関連記事

イーロン・マスクが日本の少子化を心配したが、やがて世界も日本同様人口減少する

都市への人口集中、女性の社会進出、晩婚化と離婚増で人口減少~現代ではなく江戸時代のお話

地方から若者が集まり結婚もできずに生涯を終える。現代の東京と江戸との酷似点

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、著者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事