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知る人ぞ知る幻のご当地ラーメン 「船橋ソースラーメン」とは?

山路力也フードジャーナリスト
醤油でも味噌でも塩でもないソース味のラーメンが「船橋ソースラーメン」だ。

「船橋ソースラーメン」を知っているか

人口64万人を誇る船橋市。
人口64万人を誇る船橋市。

 ラーメンの世界は実に多様で奥深く、面白い。その土地の歴史や食文化によって醸成された、その土地ならではのラーメン文化がある。札幌味噌ラーメンや喜多方醤油ラーメンに博多豚骨ラーメンなど、同じラーメンという料理でありながら、麺もスープも全く異なる個性を持つ料理が他にあるだろうか。

 人口64万人。千葉県で千葉市に次いで人口が多い船橋市には、戦後から愛されているご当地ラーメンがある。その名も「船橋ソースラーメン」。名前の通り、醤油でも味噌でも塩でもないソース味のラーメンだ。

 千葉県では内房エリアの「竹岡式ラーメン」や、外房エリアの「勝浦タンタンメン」が知られているが、「船橋ソースラーメン」は知る人ぞ知る「幻のご当地ラーメン」だ。

船橋市民も知らなかった「幻のご当地ラーメン」

船橋駅南口の「仲通り商店会」で「船橋ソースラーメン」は生まれた。
船橋駅南口の「仲通り商店会」で「船橋ソースラーメン」は生まれた。

 私が「船橋ソースラーメン」と出会ったのは、もう20年以上前のことだ。あるラーメン店のメニューに「ソースラーメン」があり、食べてみたら想像以上に美味しかった。店主に尋ねたところ、船橋には古くから「ソースラーメン」を出す店があると教えてくれた。

 調べていくと船橋駅南口の仲通り商店会にあった『花蝶(閉店)』という店で、焼きそばの汁ありを食べたいと言った常連客の要望から生まれたことや、『花蝶』では「ダイヤキ」というメニュー名だったこと、船橋市の中でもソースラーメンを出している店は、本町や湊町の数店舗のみということも分かった。

「船橋ソースラーメンプロジェクト」とは

『拉麺阿修羅』(左上)『おはこ』(右上)『麺処ゆきち』(左下)『麺屋あらき竈の番人外伝』(右下)。
『拉麺阿修羅』(左上)『おはこ』(右上)『麺処ゆきち』(左下)『麺屋あらき竈の番人外伝』(右下)。

 醤油ラーメンも塩ラーメンも味噌ラーメンも、新しい職人たちによって新たな技術や知識、食材などが導入されて、この数十年の間に驚くほどの進化を遂げていた。しかしながら「船橋ソースラーメン」は、基本的には戦後に作られたラーメンのまま進化していなかった。

 例えば醤油ラーメンの場合、元々は醤油をそのまま使っていたものが、醤油に動物や魚介の旨味を加えるようになり、醤油ダレ(カエシ)として進化した歴史があるが、ソースという調味料は元来野菜や果物、香辛料や調味料を配合して作られておりラーメンとの親和性は高いと考えた。

 船橋で戦後から根付いているラーメン文化でありながら、船橋市民ですら知らない「幻のご当地ラーメン」。もっと多くの店がその価値に気づき、ソースラーメンを提供したら、船橋のご当地グルメとして定着するのではないか。

 そう考えた私は、2012年に船橋市内でラーメン店を営む若き店主たちに声を掛け、船橋にソースラーメン文化を定着させるベく「船橋ソースラーメンプロジェクト」を立ち上げた。

ラーメンイベントやカップ麺でも話題を集めた。
ラーメンイベントやカップ麺でも話題を集めた。

 そこで「船橋ソースラーメンプロジェクト」では、現代の製法や材料を駆使してソースラーメンのアップデートを目指した。共通したレシピは敢えて作らずに「ソース味のスープであること」というルールだけを決めて、プロジェクトに参加しているラーメン店が自由に表現した。その結果、個性豊かなソースラーメンが出来上がり、船橋のソースラーメン文化を繋ぐことが出来た。

 さらに、2014年には「東京ラーメンショー」や「大つけ麺博」などのラーメンイベントにも出店し話題を集めた。さらに同年には2種類のカップ麺が全国発売されて大ヒット商品となった(現在は終売)。また、2015年には人気ラーメンチェーン『らあめん花月嵐』の期間限定ラーメンとしても全国で販売されて人気を博した。

「第4のラーメン」になる可能性

『中華料理 大輦』(船橋市)のソースラーメンはソース焼きそばテイスト。
『中華料理 大輦』(船橋市)のソースラーメンはソース焼きそばテイスト。

 ソース味のラーメンと聞くと一瞬怯んでしまうかも知れないが、ソース焼きそばは言うまでもなく、お好み焼きやたこ焼きなど、小麦粉とソースの相性の良さは証明済み。またソースに含まれる野菜や果物の旨味やスパイスなどは、ラーメンのスープにも合う。醤油や塩、味噌に続く「第4のラーメン」になる可能性を大いに秘めているのがソースラーメンなのだ。

 船橋で半世紀以上にわたり愛されている、老舗中華料理店『中華料理 大輦』(千葉県船橋市本町4-20-17)のソースラーメンは、戦後に生まれたソースラーメンの姿を感じさせるもの。中華鍋で肉とキャベツやモヤシなどの野菜を炒め、鶏ガラ豚骨ベースのスープとウスターソースを合わせて仕上げる一杯には、青のりや紅生姜なども乗って、まさにソース焼きそばのラーメン版と言ったところ。

 丼からはソースの香りが立ち上がり食欲をそそる。ソースの旨味や甘味とほのかな酸味、さらに炒められた肉や野菜の旨味も溶け出したスープは、ついつい後をひく美味しさ。ソースと相性の良いハムカツが人気のトッピング。揚げたてのサクサクとしたハムカツは、時間が経つごとにスープが染み込み、さらに味わい深くなる。

『麺屋あらき 竈の番人』(船橋市)店主の荒木康勝さんと、豚骨魚介風味の船橋ソースラーメン。
『麺屋あらき 竈の番人』(船橋市)店主の荒木康勝さんと、豚骨魚介風味の船橋ソースラーメン。

 「船橋ソースラーメンプロジェクト」参加店の一つ『麺屋あらき 竈の番人』(千葉県船橋市本町4-41-29)の船橋ソースラーメンは、店の特徴を生かした豚骨魚介味のソースラーメン。濃厚な豚骨スープに負けないソースの力強さと、鰹節などの魚介の旨味が調和した、現代に合わせてアップデートされたソースラーメンだ。

 プロジェクトの立ち上げメンバーでもある店主の荒木康勝さんは、プロジェクトを立ち上げるまではソースラーメンを食べたことが無かったが、老舗のソースラーメンを食べて研究を重ねて、自分らしさを表現したオリジナルの船橋ソースラーメンを完成させた。系列店の『麺屋あらき 竈の番人外伝』(千葉県船橋市西船5-3-10)では、船橋ソースつけ麺も提供している。

 「昔のソースラーメンを懐かしんで年輩のお客様も多く来て下さいます。地元船橋のラーメン文化のバトンを繋いでいきたいと、10年前にプロジェクトに参画しましたが、これからは僕らよりも若い世代のラーメン店にも参加してもらって、もっと船橋にソースラーメンが増えていくと良いなと思っています」(麺屋あらき 竈の番人 店主 荒木康勝さん)

※写真は筆者によるものです。

船橋ソースラーメンプロジェクト Facebookページ

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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