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「入」の形の低気圧閉塞により東日本太平洋側で大雪の「なごり雪」

饒村曜気象予報士
冬道と吹雪(ペイレスイメージズ/アフロ)

閉塞前線

 低気圧は、前線上で発生し、強風や強雨(大雪)をもたらします。温暖前線は低気圧の東側にあって暖気が寒気上を滑昇しつつ寒気を押しのけながら移動します。寒冷前線は低気圧の西側にあり、寒気が暖気の下に潜り込んで暖気を押し上げます。

 低気圧が発達してくると、暖気に向かって進んでいた寒気が、温暖前線の前方の寒気に追いつき、閉塞前線ができます。

 閉塞前線で追いついた寒冷前線の後方にある寒気が先行していた温暖前線の前方にある寒気より冷たい場合は、寒冷型の閉塞前線となり、通過後は気温が下降します(以後、混同をさけるため、比較して気温が高いほうを冷気と記します)。この時の前線は「人」の形をします(図1)。

図1 寒冷型閉塞と温暖型閉塞の模式図
図1 寒冷型閉塞と温暖型閉塞の模式図

 反対に、追いついた寒気が温暖前線前方にある寒気の気温より高い場合は、温暖化の閉塞前線となり、通過後は気温があがります。また、この時の前線は「入」の形をします。

平成30年(2018年)の春分の日の南岸低気圧

 平成30年(2018年)の春分の日は、本州の南岸を前線を伴った低気圧が発達しながら通ったため、関東地方西部と長野県、山梨県、静岡県では山沿いを中心に大雪警報が発表となりました。

 東京では大雪警報が多摩西部に発表となりましたが、東京で3月に大雪警報が発表となったのは、昭和61年(1986年)3月23日に東京全域に大雪警報が発表となって以来、32年ぶりのことです。

 太平洋側の地方では、雪に対しての対策があまり行われていないことから、日本海側の地方に比べて少しの雪でも交通機関が大混乱します。特に、長時間降り続く場合は、弱い雪でも積雪が増え、交通機関の混乱は増します。

 南岸低気圧は、閉塞しながら日本の南海上を通過したため、低気圧の中心付近の暖かくて水蒸気を豊富に含んだ空気が上空に持ち上げられ、下層に寒気が入っています。

 しかも、関東地方には強い寒気が南下しており、低気圧の東側、温暖前線の前方にある寒気のほうが、低気圧の西側、寒冷前線の後方にある寒気より温度が低い強い寒気です。このため、温暖型の閉塞で、前線は「入」の字の形をしています(図2)。

図2 地上天気図(3月21日9時)
図2 地上天気図(3月21日9時)

 南岸低気圧が八丈島付近を通ると大雪になりますが、低気圧が本州に接近して通過すると南から暖気が入って雨となることが多いのですが、閉塞しながらの通過ですので、上空だけの暖気で、雨に変わることなく雪として降り続けました。

 週間天気予報によると、この低気圧通過後は気温は上昇しますので、「なごり雪」になるかもしれません。「なごり雪」は気象用語ではありません。対応する言葉は、春に向かって最後に降った雪のことをさす「雪の終日(しゅうじつ)」です。

平成26年(2014年)には寒冷型で大雪

 一般的には、南岸低気圧が閉塞しながら通過するときは、大雪に警戒が必要です。

 平成26年(2014年)2月14日から15日にかけて甲府で積雪が114センチメートルに達する大雪が降りましたが、このときも閉塞しながら東進しました。1時間に5から10センチという降雪が長時間にわたって降り続き、119年間の記録である49センチを大幅に越えた積雪となっています。

 南岸低気圧が本州に接近して通過しましたが、上空だけの暖気であったために雨に変わることなく雪として降り続けました(閉塞点は八丈島付近を通過しました)。

 ただ、このときは、低気圧の西側に強い寒気が入ってきたため、寒冷型の閉塞で、前線は「人」の字の形をしています(図3)。

図3 甲府で記録的な大雪が降ったときの地上天気図(平成26年2月15日9時)
図3 甲府で記録的な大雪が降ったときの地上天気図(平成26年2月15日9時)

一枚の天気図に寒冷型と温暖型

 一枚の天気図上に寒冷型閉塞と温暖型閉塞が同時に表現されているという、ちょっと珍しい天気図もあります(図4)。

図4 地上天気図(平成30年(2018年)2月23日21時)
図4 地上天気図(平成30年(2018年)2月23日21時)

 これは、今年の2月の天気図ですが、日本の東海上にある低気圧は温暖型閉塞前線で、温暖前線の前面(東側)には冷たい寒気が待ち構えています。前線は「入」の字です。

 これに対し、北海道付近の低気圧は寒冷型閉塞前線で、寒冷前線の後面(西側)には強い寒気が南下しています。

 日本付近は、大陸から強い寒気が次々に南下してくることが多いことから、寒冷型の閉塞前線が多くなります。

 低気圧は閉塞のときが一番危険です。低気圧の動きが遅くなったり、激しい現象が中心付近から閉塞点付近などの別の場所に移動したりしますので、最後まで注意が必要です。

図1の出典:著者作成。

図2、図3、図4の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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