「日本の保守で言えば、皇室の長久を願うというのが一番大事な価値観」

2年前に稲田氏が事務局長を更迭された、神道政治連盟、神政連は、全国の神社を統括する神社本庁の関連政治団体。その関連議連が、神政連の国会議員懇談会だ。つまり、保守系議員のシンボル的組織で、総理時代を含め、長く安倍晋三氏が会長を務めていた。安倍氏亡き後、会長ポストは不在のまま。萩生田議員が狙っているとの噂もあるが、このポストに就く議員が保守系議員の中心となる。この“保守”という存在は、果たして何を守ろうとしているのだろうか?

一橋大学大学院 中北浩爾 教授
「保守を右派という意味で私は捉えてるんですが、保守は日本国憲法に否定的で、戦前の体制が良かったと…。天皇制を中心として、家制度、これを擁護している。戦後いちばん怖かったのは共産革命。すると擁護してくれるのは何かというと、アメリカだった。で、日米同盟賛成と…。
本来ナショナリストである右派は、親米である必要ないんだけれど、反共という点で結びつく。そういう構造の中に日本の保守は存在している」

LGBT、夫婦別姓、未婚の母…そういうものを認めているうちに、だんだん家を重んじた“良き戦前の体制”から離れていく。ひいては天皇制の存続を脅かすのでは…。小さなことから揺らいでくる。蟻の一穴になってしまうと保守派は考えるのでは、と中北教授は言う。

毎日新聞 古賀攻 専門編集委員
日本の保守で言えば、皇室の長久を願うというのが一番大事な価値観としてある。天皇を中心とした家族国家というのが日本の国柄としてあって、そういうものと同性婚や別姓はそぐわないと…」

LGBT、未婚のひとり親を擁護するために左翼呼ばわりされた稲田氏も言う。

自民党 稲田朋美 元政調会長
「私は、天皇制では男系維持です。家族は大切だし、日本の国柄は守るべきだし、伝統の中心にあるというのが皇室の今の在り方だと思うし、それをしっかり守りつつ、(LGBTや未婚のひとり親)困っている人、いじめにあっている人、辛い立場にある人を排除することはできない」

「秘書官の発言は全くおぞましい。隣に住んでいたら出ていくとか50年前にアメリカで黒人に対して言っていたことだ」

番組では、ニュージーランドのある元国会議員にインタビューをした。彼は10年前、ニュージーランドで同性婚を認める法案が採択される時、反対派に向けて演説した。

モーリス・ウイリアムソン 議員(当時)
「この法案に今反対している人に約束しよう。水も漏らさない保証です。明日も太陽は昇ります。世界はそのままです。だから大ごとにしないでください。愛し合う二人の愛を結婚によって認めるという内容です。それだけのことです。我々は外国に核戦争の開始を宣言しようとしているのではありません。農業分野を完全に消し去るようなウイルスを導入しようとしているのでもないのです」(2013年4月の演説より)

この演説は絶賛され、法案は可決された。今は国会議員を辞め、地方議員をしているウイリアムソン氏に、同性婚を認めた後どうなったのか、そして、LGBT法がない日本の現状をどう思うか聞いた。

元国会議員 モーリス・ウイリアムソン 氏
「殆どの人が次の選挙への影響を気にしているだけだ。日本の政治家への私からのメッセージは、同性婚に賛成票を投じても誰も落選しなかったことだ。(中略)日本の状況で理解できないのは、日本には宗教団体からの強い抵抗はないことだ。(中略)ニュージーランドの問題は強固なキリスト教基盤だった。反対派は“同性婚は邪悪だ。許してはならない”と全ての議員に連絡した。テーブルを叩いて認めるなと言ってきた。世論調査では賛成反対半々くらいだった。しかし、反対派の多くは次の選挙への影響を懸念した。当時、私も反対派の司祭たちに“賛成票を投じれば落選するぞ”と言われた。しかし、翌年の選挙で私の獲得票数は前回の選挙より増えた」

当時反対票を投じた議員も、10年たった今、10人うち9人が再び投票する機会があれば賛成するという。最も保守的な宗教団体でも反対の声は聞かれなくなったという。ウイリアムソン氏に岸田総理の元秘書官の「隣に住んでいたら嫌だ」という発言をどう思うか聞いた。

元国会議員 モーリス・ウイリアムソン 氏
秘書官の発言は全くおぞましい。隣に住んでいたら出ていくとか、50年前にアメリカで黒人に対して言っていたことだ。日本の状況が理解できないのは、日本にはニュージーランドのように宗教団体からの強い抵抗はないことだ。(岸田総理の“社会が変わってしまう”発言について)総理には日本社会がどんなダメージを受けるのか説明してほしい。世界のどこにもダメージを受けた国はない。日本はそんなに違うのですか?」

(BS-TBS 『報道1930』 2月13日放送より)