【解説】NewsPicksが提案する新しい働き方

2020/9/24
 NewsPicksとミーミルは、2020年9月1日から「NewsPicks Expert(NPEx)」というサービスを開始しました。企業や団体が、専門家や経験豊富な個人に、あらゆる案件を依頼できるサービスです。
 NPExは、ユーザベースが2020年4月にグループ化したミーミルのエキスパートネットワークサービスを基盤としています。ミーミルが展開していた既存サービス「エキスパートリサーチ」をNPExに名称変更し、サービスを拡張していきます。
 ミーミルが築いてきたエキスパートネットワークの基盤と、NewsPicksがニュースを起点に集めてきた「オープンなプロの視点」をかけ合わせ、個人と企業、両方にとって充実したエキスパートネットワークサービスを提供します。すでにエキスパート登録申請を開始しています。
 サービス開始について、ミーミル社長の川口壮史とNewsPicks コミュニティチームの佐藤裕美が、NPEx開始の狙いについてお話します。

企業と個人を結びつける

──サービスの概要を教えて下さい。
佐藤 NewsPicksを擁するユーザベースグループが保有する約1400社のネットワークを活用し、エキスパートとして登録する個人と企業をつなぐサービスです。登録希望者は、自身の得意分野や経歴を申請したのち、審査を経てエキスパートとして登録されます。
すでにミーミルのエキスパートは7000人を超えていますので、NPEx開始でさらに登録者数を増やし、サービスの質を高めていきたいと考えています。
──NPExのエキスパートにはどんな依頼が届くことを想定していますか?
川口 企業がエキスパートに依頼するのは、業界動向などのインタビュー、講演やアドバイザー依頼などです。企業から依頼があったタイミングで、弊社のアドバイザーが適切なエキスパートを選び、企業に対して提案をします。
適切なエキスパートを選び、提案をするだけでなく、コンプライアンスルールやNDA契約、秘密保持の規約、報酬のやり取りなど多くのことを確認しながら実施します。
川口壮史 / 株式会社ミーミル 代表取締役社長
──NPExの特徴はどこにありますか。
川口 まずは、ユーザベースグループの経済情報プラットフォーム「SPEEDA」で築き上げた顧客基盤です。SPEEDAを利用している企業を中心とした、1400社を超える法人クライアントからの相談を受けることができます。
1400社のうち、4割以上が1000人規模の大手企業、導入部署は3割が経営企画部門です。SPEEDAで築き上げた顧客基盤に加え、ミーミルも含めてユーザベースグループ全体が持つ優良企業からオファーがあるということは、登録エキスパートにとって大きなメリットになりえます。
NPExの認知が上がることで、新たにNPExを利用する企業も増え、ユーザベースグループ全体に対しても新たな相乗効果が生まれます。

プロピッカーもエキスパートに

──NewsPicks内で専門的なコメントを発信するプロピッカーもエキスパートに登録するのでしょうか。
佐藤 はい、是非登録をしていただき、活躍の場を広げていっていただきたいと考えています。今までも、NewsPicks内で発言をしていただく以外にも、NewsPicksのイベントへの登壇依頼などをしていました。NPExに登録してくださることで、NewsPicksのプラットフォーム以外でもご自身の知見を生かしていただけると思っています。
NewsPicksの記事のコメント欄では、プロピッカー以外にも、業界に精通された有識者や、高等教育機関における実務者教員のような経験知をお持ちの方々がコメントしてくださっています。
兼ねて、プロピッカーはもちろん、そのような方々にも、もっとその知識や知見を社会に還元してもらい、それらの知識や知見が評価され、世の中のために役立てていただける場所をつくりたいと考えていました。その1つがNPExとして形になったというわけです。
佐藤裕美 / NewsPicksコミュニティチーム
──なぜ今NPExを開始したのですか。
川口 2018年1月、事実上国内での「副業」が解禁を迎えました。企業における就業規則の指針となる厚生労働省の「モデル就業規則」が改定され、個人の働き方の意識は大きく変化を遂げています。自分の知識やスキル、積み上げてきた経験が、所属する企業以外でも活かせる時代。自分の「専門性」や「得意分野」を、もっとオープンに社会に還元できる時代が到来したともいえます。
個人の働き方が変わる一方で、企業も変革を求められています。新規事業開発などでは、スピードと質を両方で求められる時代です。企業や大学などの団体が外部の資源を投入する流れは加速度的に増している。いわゆるオープンイノベーションという言葉があちこちで聞こえるようになったとおり、企業の意識変革が進んでいるのです。
佐藤 今こそ個人がもっとオープンに自身の知見を「見える化」し、企業はそれをもっと活用していくべきと考え、NPExのサービス開始に至りました。
──エキスパートネットワークサービスを利用する企業にはどんな企業が多いのでしょうか。
川口 エキスパートサービスを利用する企業は、コンサルティングファームが主軸になっています。企業に対してコンサルティングをする際の前情報を取得する手段としてエキスパートサービスを利用するコンサルティングファームは少なくありません。一方、最近では大手事業会社からの依頼も増えています。経営企画や新規事業部門、R&Dなど、部署も多様性を増しています。企業の事業サイクルが早くなる昨今、新しい領域について質量ともに満たした情報をいち早く得たいと考える企業が多くなっているのです。

エキスパート情報をオープンにする

──今後の機能拡張の計画を教えて下さい。
佐藤 来年初頭には、希望されるエキスパートの方にはプロフィールページを開設いただけるように準備を進めています。NPExのプロフィールページを利用してもらうと、自身の専門やこれまでの実績・経験が一目でわかり、名刺がわりに使っていただけるようになります。今までは職務経歴書や履歴書で扱っていたような情報を、もっとわかりやすく表現できるプロフィールページを検討しています。
川口 このオープン化が、今後のNPExの大きな特徴になっていくと考えています。エキスパートのプロフィールページには、案件の受注やクライアントからの評判などエキスパートとしての実績を掲載できます。エキスパート情報をオープンにし、そこに情報を蓄積することで、企業もエキスパートへの信頼度合いを測りやすく、同時にエキスパートにとっても企業に対して実績をアピールできるというメリットがあります。エキスパートの情報をオープンにする取り組みは、業界内ではほとんどない取り組みです。NPExならではの挑戦になると思っています。
──個人の情報をオープンにするだけなら、FacebookやLinkedInで足りるのではないでしょうか。
川口 企業が外部の知見を入れたいと考えるときに、個人情報の『大海』であるFacebookやLinkedInから情報を探し出すだすのは一苦労です。NPExの中にいるアドバイザーが、企業の要望に即してエキスパートを推薦できるのはエキスパートサービスならではだと思います。また、個人のSNSには自分の経歴や仕事での実績以外の情報も多い。自身の知見や経験、実績をしっかりとまとめたプロフィールページというのは、FacebookやLinkedInでは足りないと考えています。
佐藤 将来的にはNPExに登録しているエキスパートにも、NewsPicks内でコメントをしてもらうことも検討します。企業にとっては、NewsPicks内のコメント内容が、エキスパートを選ぶ判断材料になるからです。NewsPicksで気になるエキスパートを見つけたら、NewsPicksから直接仕事を依頼するといったことを可能にしていきます。
──市場規模や今後の成長性をどのように見込んでいますか。
川口 エキスパートネットワークサービスは国内外で市場が拡大しています。調査会社の米インテグリティリサーチによれば、米国のエキスパートネットワーク市場は年率20%で市場が拡大しているといい、市場規模はすでに10億ドルを超えています。
特に国内では伸びしろが大きいと思います。従来のエキスパートサービスでは、経営を経験した方や大学教授などの『スーパーエキスパート』か、現場を分かっている若年層のどちらかに偏る傾向がありました。それをNPExでは、利用者の中心層でもある30代〜40代のリーダー層をエキスパートとして迎え入れることができます。エキスパートの人材を拡充することで、企業の利用機会を増やしていきたいと考えています。多くの個人が市場に飛び出し、企業が外からの知見を最適に摂取できるようなサービスになれば、需要はもっと高まるはずだと考えています。
──今後の意気込みをお願いします。
川口 副業や小遣い稼ぎを全面に打ち出して広告でエキスパートを獲得するのではなく、エキスパート経由でNPExを広げていきたいと思っています。オープンな機会提供や、今までになかった仕事の依頼、企業やほかのエキスパートとの出会いに魅力を感じてもらえれば、必然的にエキスパート経由で広がっていくと信じています。エキスパートへの登録を、ただの副業や小遣い稼ぎではない世界に昇華させたい。稼ぐことも大切だが、自分の能力や知識をより多くの人に役立ててもらえることに興味があり、そのことで自身をさらにブラッシュアップしていきたいという人が集まる場所にしていきたいと思っています。
その後は、いかに自社サービスに「中毒性」を持たせるかがサービス拡大の鍵になると考えています。企業からの信頼が高まり、依頼件数も増えれば、エキスパート、企業、両方からのNPExへの信頼度やリピート率は高まるはずだと考えています。
佐藤 今後は、エキスパート同士の交流の場も提供してコミュニティを活性化させて行きたいと思っています。エキスパートの多くは、自分の専門領域を深く追求すると同時に、その領域をほかの領域とかけ合わることや、社会に対してどう還元できるかといったことに興味があります。他分野のエキスパートと触れ合える機会は、エキスパートにとっても有用な機会になるはずです。
NPExの強みはユーザベースグループが積み上げてきたノウハウを結集したところにあります。企業ニーズを把握している経営情報プラットフォームのSPEEDA、有識者のコミュニティとして機能しているNewsPicks、質の高いエキスパートネットワークを築いているミーミル。それぞれの事業の強みを融合し、新しい時代に即したエキスパートネットワークサービスを作り上げることができたと思っています。NewsPicksを閲覧している方のみならず、ユーザベースグループのサービスを利用している企業の方が、ビジネスの意思決定のためにNPExを使う、という状況を生み出したいと考えています。

(取材・文::染原睦美、デザイン:九喜洋介、写真:TOBI)