学校からの連絡は、未だにプリントなの?学校⇔保護者間の連絡手段のデジタル化調査の背景をアドビ小池に聞く!
こんにちは!アドビ未来デジタルラボ編集部です。
「世界を動かすデジタル体験を」をミッションとするアドビでは、デジタルやクリエイティビティなどをキーワードとした毎年10件程度の調査を行い、その結果を定期的に発表しています。
調査結果は、みなさんの目の触れる形で発表をしているものの、「なぜその調査をしたか」といった背景情報や、「調査結果がどうデジタル社会の未来で生かされていくのか」といった示唆や展望まで、お話する機会はあまりありませんでした。
そこで、アドビ未来デジタルラボでは、アドビが今まで行ってきた調査を軸に、編集から研究員へインタビューを行い、『Survey深読み』として記事化することになりました!
調査の背景となる社会の流れや、調査結果のポイント、そこから読み取れる今後の潮流などを研究員の目線で紐解いていきます。
1)初回は、「子どもが受け取るプリント類のデジタル化に関する実態調査」を研究員・小池にインタビュー!
「Survey深読み」の初回は、2023年4月に発表された「子どもが受け取るプリント類のデジタル化に関する実態調査」について、ラボの人材育成テーマの担当・小池研究員に話を聞きました!
子どもが受け取るプリント類のデジタル化に関する実態調査の詳細はこちら
編集部:最初に今回の調査の概要を簡単に教えてください。
小池:まずは、学校と保護者の情報のやり取りについて、簡単にお話させてください。
多くのみなさんが想像する学校と保護者間の連絡のやり取りは、学校からは保護者の方に伝えたい情報をプリントにまとめてお子さんに渡し、保護者はその情報で学校の行事や必要情報を知るというものだと思います。さらに、学校側からの情報の収集は子どもが持ち帰ってくるプリントに、保護者が必要事項を書いて、またお子さんが学校に持っていく。こんな風に、「おたより」という名のプリントを媒介にする学校との紙のやり取りをされたことがある方は多いのではないでしょうか。
このやり取りが、21世紀に入ってそろそろ四半世紀もたつ今の日本で、どのくらいデジタル化されているのかか?という実態に迫るのが、今回の調査です。
2)調査のきっかけは?はじまりは、2020年10月の文科省の通知
編集部:今回の調査のきっかけはどういったものだったのでしょうか?
小池:小学校のお子さんがいる保護者の方の一番の「あるある話」といえば、学校からくる紙の多さ。ランドセルや学校の机の奥からジャバラになったおたよりの残骸が出てくるのは、本当にあるある。保護者としては紙のおたよりが減ったほうがうれしいなぁと感じていることが定量的に出せて(たぶん先生もそのほうがうれしいなぁと感じている)、教育委員会や学校関係者に少しでも届いたらと思ったんです。
編集部:子育て経験者でもある小池さんだからこそのリアルな声ですね。確かに、保護者の負担が減ったら、とてもありがたいです。
小池:実は保護者の負担が減るだけではないんです。学校の先生にとっても、嬉しい変化が起きると考えています。
編集部:学校の先生も嬉しい変化とはなんでしょう。具体的にお伺いしてもよろしいでしょうか?
小池:はい。学校の紙文化のデジタル化は、2020年に文部科学省から通知が出るほどの待ったなしの課題です。日本の先生は世界で一番忙しいと言われていて長時間勤務もとても問題になっています。OECD(経済協力開発機構)の2018年の国際教員指導環境調査(TALIS)によると、諸外国と比較しても、小学校の先生は16.1時間、中学校の先生に至っては17.7時間も多く働いて、参加国の中で最長です。
学校の紙文化のデジタル化は、こういった状況の先生方の負担を軽減し、先生の働き方改革をするという意味でも重要だと考えています。
編集部:学校の先生の負担は度々メディアでも取り上げられていますが、改めて数字を聞くと深刻な問題ですね。
小池:はい、そうですね。先ほどのデータをみても、「一般的な事務業務(教員として行う連絡事務、書類作成その他 の事務業務を含む)」が長い傾向にあり、この点を解決するために、課題を紐解いていくことがカギとなりそうです。
編集部:なるほど。現状を踏まえて、改めてアドビとして、どういった意図でこの調査に取り組んだのでしょうか?
小池:実は、この調査は2019年にも行っていました。その後、GIGAスクールデバイスの配備やコロナ禍を経て、学校にもデジタル化の波が押し寄せたのは、みなさんもご存じの通りかと思います。
その結果、4年後の現在、実際に紙文化の変化が見られるのか、「デジタル体験で世界を変える」をミッションとするアドビとして、ぜひとも定点観測したいと考え、取り組んだ調査となります。
3)学校⇔保護者の情報共有の実態は?実際、どこまで進んでるの?
編集部:では、学校へデジタル化の波はどの程度押し寄せたのでしょうか?
小池:はい。調査結果に入る前に、文科省の出しているこちらのデータをご覧ください。学校と保護者等間における連絡手段のデジタル化については、都道府県・政令市において9割以上で実施、市区町村では、昨年度から大きく伸び、8割以上で実施されているようです。
4)学校からの情報共有に、保護者側は満足してるのか?
編集部:なるほど。順調に学校と保護者の情報共有はデジタル化されているようですね。となると今回、アドビで行った調査でも、保護者側がデジタル化に対してかなり満足されているという結果が予想できますね。結果はどうだったのでしょうか?
小池:ところが、アドビの調査では、55.6%の保護者が学校のデジタル化が進んだとは認識しつつも、7割超がさらなるデジタル化へ期待されているという結果でした。
編集部:そうなのですか!文科省の調査結果とは、少し乖離を感じますね。
小池:そうですね。単なる連絡のやり取りだけでなく、さらに一歩踏み込んで、署名やハンコなど承認が必要な書類のデジタル化がさらに期待されているということが起因しているように感じます。
編集部:詳しく教えてください。
小池:「学校との情報のやり取りにおいて、デジタル化が進んだと思う」と答えた項目を見ていると、どの項目においても、デジタル化が進んだと思う方が一定数いることが分かります。一方で、「デジタル化してほしい」と答えた項目は、デジタル化が進んだ実感値よりもかなり差があり、ここに先ほどの文科省のデータとのギャップがあるのだと思います。
5)デジタル化にまだ余白がある今、アドビができることって何だろう?
編集部:確かに、文科省とアドビの調査は、学校と保護者の立場の違いを感じる調査結果でした。現状としては、デジタル化が進んでいるものの、まだまだプリントでの情報共有も多い状況だったかと思います。こういった状況下で、アドビとしては何ができるのでしょうか?
小池:実は保護者の方も、紙のプリントでの情報共有だったとしても、うまくデジタル化している場合が多いんです。アドビは、はじめの一歩としては、デジタル化する際のお助けツールでもみなさんのお役に立てるのではと思っています。
具体的に、紙のプリントをデジタル化するために使用しているツールを聞いたところ、最も多かった回答は「スマホカメラアプリ」で画像データとして保存が最多の37.8%となりました。次いで、「Adobe Scan」が30.8%となり、前回調査から一番高い増加幅(9.6ポイント増)を示すなど、テキスト認識ができ検索性に優れるスキャン機能付きツールの利用が増加傾向にあることがわかりました。
編集部:確かに!Adobe Scanは、文書をスキャンしてPDFに変換すると、自動的にテキストが認識されて便利です!
小池:ほかにも、承認フローの電子化が行える「Adobe Acrobat Sign」などのクラウドソリューションも、学校と保護者間の情報共有、しいては、学校の先生の業務量の軽減に役立てるのではと考えています。
6)学校からのデジタル化推進の今後のカギは、「社会のあたりまえを学校のあたりまえにする」こと
編集部:最後に、今回の調査結果を踏まえて、今後の学校の紙文化のデジタル化について、小池さんのご意見をお伺いしたいです。
小池:わたしは「社会の当たり前を学校の当たり前にする」がポイントだと思っています。実社会では予定や連絡事項の共有のデジタル化はもはやインフラです。
アドビは毎年、Adobe Expressをはじめとしたデジタルクリエイティブツールを授業や課外活動に取り入れている先生方を「Adobe Education Leader」として認定していて、様々な取り組みを紹介いただくのですが、「連絡事項はすべてCloudにあがっているので朝の職員会議を廃止した」「学校内の掲示板はすべてモニターに変えて、紙の掲示物はなくなった」など、実はすでに公務のデジタル化を進めている学校もあるのです。
これにより、作業的な「手間」に取られる時間は、デジタルを上手に使って減らし、人間ならではの「創造的な思考や発想」へと時間の使いかたがシフトするのではと思っています。同様に、学校の先生方が、事務作業に取られていたた時間を十分な休息と教育活動のための準備や研究に充ててもらえるのが理想です。
編集部:確かに、学校の先生の働く時間が減って、もっと子どもたちを関わる時間が増えた方が、保護者にとっても嬉しいですね。小池さん、本日は、ありがとうございました!
子どもが受け取るプリント類のデジタル化に関する実態調査の詳細はこちら
インタビューを答えた小池も参加するアドビ未来デジタルラボ初回の様子はこちらから