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初めての教壇

前日から眠れなかった。どんな生徒達が迎えてくれるだろう。まずは自分の自己紹介からかな…。いや、早速教科書を開かせて、すぐ内容に入ろうか…。実験をやっちゃおうか…。

クラスの生徒の顔写真と名前の一覧をもらっていたので見ると、みんな素直そうな仲間だ。とはいえ、私という存在を受け入れてもらえなかったらまずい。いろいろ悩んだけど、自己紹介をすることからスタートしよう。

同僚からの「頑張って‼️」という声援をうけながら職員室を出た。ワイワイガヤガヤしている教室の戸を開けると、パタパタと姿勢を整えシーンとした。あまりの静寂さに思わず笑ってしまうと、数人の生徒からも笑顔がこぼれた。

「起立‼️気を付け、お願いします‼️」

号令があり、一礼した私は理科の教師を目指したのかも絡めながら、話し始めた。

「私は友達のノートを燃やしました。」

ポカーンとしたせいとを前に続けた。理科の先生になろうと思ったのは…

火の着いたアルコールランプをひっくり返し、もれたエタノールに引火して机の上で燃え広がり、友達の教科書とノートを燃やしたことがきっかけです。

小学校の「ものの温まりかた」という単元で、水を温めたときの温度変化を測定する実験をグループで行いました。

三脚に石綿金網(今はアスベスト被害防止のためセラミック金網)をのせ、その上に水を入れて温度計をセットし、火の着いたアルコールランプを静かに金網の下に差し入れました。ところが三脚が高かったため、金網にアルコールランプの炎が届かず、十分にビーカーの水を温めることができなかった。

そこで私は、友達のカンペンケース(ブリキでできた筆入れ。私が学生の頃、流行っていた。)を5個積み重ねてアルコールランプを高い位置に置いた自慢のオリジナル加熱装置を組み、実験したのです。

無事に水が沸騰するまでの温度変化を測定し、グループで貴重なデータを得ることができました。しかし、ここから私は重大なミスを犯してしまいます。さて、なんでしょう?










あろうことか私は火の着いたアルコールランプをのせたまま、一番下のカンペンケースを三脚から引きずりだしました。不安定なカンペンケースが積み重なった自慢のオリジナル加熱装置は、ゆらゆらと揺れています。ヤバイと思っても後の祭り、アルコールランプはカンペンケースから転げ落ち、中のエタノールがこぼれました。しかも、こぼれたエタノールに火がついてしまい机の上が火の海です。友達の教科書やノートは青白い炎に飲み込まれてしまいました。

すぐに濡れ雑巾で消火すればいいのに、私は腰が抜けた状態です。グループの仲間も呆然とし、動けません。他のグループの仲間から、「せんせいっ、燃えてる‼️」という声で先生がかけつけ、濡れ雑巾で消火してくれました。グループの仲間の教科書とノートは黒焦げになりましたが、私の教科書とノートは机の中に入れてあり無事でした。

今思えば、自慢の加熱装置はとんでもない誤った装置ですし、机上に燃えやすいものを置いておくなんて、危険きわまりないことです。先生の話や指示もよく聞かずに実験したことは反省しています。

初授業は自己紹介と燃えた教科書とノートの話で、クラスの仲間は爆笑していましたが、実験するときは、先生の話や指示はしっかり聞いて安全に実施しなければならないことを理解してくれたようでした。

実験の後、厳しく怒られると思っていましたが、先生は、「器具の使い方次第で楽しい実験も恐ろしい実験に変化してしまうの。グループの仲間の教科書は私が何とかするから、あなたはノートを見せてあげてね。」とだけ言って、頭をポンポンしてくれました。おしりがキュンキュンする出来事でした(笑)      まだ若いお姉さんのような先生でした。ここで厳しく怒られていれば、私は理科嫌いになっていたことでしょう。




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