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【創作小説】コクるときは 刻々と近づく➉

今までの話は、このマガジンに収録されてます。⬇︎

学年最後の日が近づいている。

由奈たちの、中学2年生の終業式は、あと2日。3月20日だ。

由奈は、辛かった。

だいすきな翔くんが、最近は綺羅を追い掛けているのだ。
「綺羅ちゃん、一緒に帰らない? 」
翔くんが、綺羅を誘う。

あの、幼稚園時代、由奈にいじめられ、バシバシ叩かれて泣いていた 貧弱幼稚園児翔くんは、もういなかった。

放送部に入り、好きな歌をチョイスしながら放送し、下校すると 剣道の道場に通っている、ちょっとステキな背筋の通った男の子になっていた。

これから、もっとステキになる……。

由奈は、うるうるお目々で翔くんを毎日見守っていた。

(翔くんは、綺羅に惹かれてる……)

(わたし、まーつーわ いつまでも まーつーわ)

心の何処かで なつかしい歌が流れる。

翔くんは、綺羅を連れて教室を出る。
綺羅は、断らなかった……

怜は、言う。
「あれ、どういうつもり? 綺羅ったら、由奈のことはどうするの? 」
由奈のこころが、ちくん、と痛む。

由奈は、いつか 3人で はしゃいで帰った川岸を歩いていた。ひとりで、考えごとがしたかったので、怜もいない。ひとりだ。

「綺羅……翔くん……」

(これで、私たち、元には戻らないのかな……。翔くんと綺羅、私と怜に別れちゃうのかな……。みんなで一緒に、そういうことが、最近難しくなってきた)

大きな夕陽。由奈は、この時季の夕陽がキライだ。さみしいから……

(これから、生きる人生で、自分で決めなさい。自分のすることに自信を持って 自分で責任を取りなさい。大人になれば、逃げてばかりはいられない。色々なことを見て勉強し、自分の脚で歩くこと。友だちに助けてもらおう、ひとに決めてもらおう、では いつか、あなたは後悔することになる。その姿勢では、失敗したときに人のせいになってしまう。それでは、ひとは逃げてしまうよ? 今は、良くてもね)

あの教会の牧師さまは言った。

由奈は、翔くんに告白することも、綺羅や怜に後押しされた結果だった。
最近は、自発的に告白計画も立てていたが、もし、失敗したら「綺羅や怜が後押ししたせいで」と、意識しない逃げ口を作ってしまっていたかもだ。
由奈は、そこまで卑怯じゃない、と思っていたが、自分でなにも決められなくなっている。

かつて、自分はいじめっ子だったから。
自分の道徳意識は、そんなもんなんだ。
ひとに意見を言ったり、なにかを決めちゃいけない。
私は、サイテーな人間だから。

由奈の自己評価は、もの凄く低かった。
自分というものが、まだ幼くてよく分かっていなかったのもある。
過去の自分の欠点が大きく見えて、
懺悔するように生きていた。

だから、周りの、ちゃんと最初から人の気持が分かってる、(そんな人はいないが)
友だちや、大人たちに決めてもらったほうがいいーーー。



              つづく


©2023.10.30.山田えみこ




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