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陸地と海、温室効果ガスの関係

気候変動の原因は、大気中の二酸化炭素やメタンガスの濃度が増したことです。二酸化炭素やメタンガスには大気中の熱を蓄積する効果があることから、温室効果ガスと呼ばれます。

1700年頃には温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスが取れており、大気は生物が生きるのに適した温度で安定していました。しかし18世紀後半に起こった産業革命によって、大気中の二酸化炭素濃度を高める化石燃料の燃焼が始まり、温室効果ガスの濃度が上がった結果、気候変動が始まります。

温室効果ガスの発生源と吸収源について、地球の表面に視点を置いて見ていきます。

地球の表面積


地球の表面積は約510億ヘクタールです。このうち、海面が361億ヘクタールで、陸地は149億ヘクタール。地球の表面のおよそ29%が陸地であるということになります。陸地のうち、動物や植物など生物の生息が可能な地域は71%です。

(出典:The world has lost one-third of its forest, but an end of deforestation is possible|Our World in Data

上のグラフは1万年前と5000年前、1700年、1900年、2018年における地球の生物の生息が可能な陸地面積の内訳を表しています。緑色が森林、黄緑が野生の草原など、オレンジが耕作地、ピンクが放牧地、紫が都市部と市街地にあたります。このグラフをもとに、それぞれのエリアの増減と二酸化炭素との関係について見ていきましょう。

森林


大気中の温室効果ガスが適切な濃度を保っていた1700年頃、森林は生物の生息が可能な陸地面積の約半分、52%を占めていました。これが1900年になると48%となり、2018年には38%と約2/3まで減少していきます。

森林は二酸化炭素の主な吸収源のひとつです。上のグラフが示すように森林は無計画な開発によって面積が減り続けており、1990年以降は特に南アメリカやアフリカ、東南アジア、オセアニアでの減少が目立っています。

ただし、中国やアメリカ、インドでは1990〜2015年の年平均で25万ヘクタール以上増加していることも事実です。しかし、トータルで見ると世界的に減少傾向であることは否定できません。

草原


草原は森林と同じように二酸化炭素を吸収し、気候変動を緩和する役割を果たしています。気候変動対策についての議論では、森林の重要性についてたびたび語られ、草原地帯についての言及はあまりされていませんが、実際には同じ面積であれば森林と草原の二酸化炭素の吸収量はほぼ同じであると考えられています。

森林には大きな樹木が多いため、光合成による二酸化炭素の吸収量が多いことは確かです。その一方で樹木の呼吸による二酸化炭素の放出量も少なくありません。

草は樹木に比べて表面積が小さく、冬には枯れて二酸化炭素を吸収しなくなり、草原の土壌に住む微生物の呼吸からは二酸化炭素量が放出されます。これらの要素を考慮しても、草木の育つ草原の二酸化炭素の吸収量は、総合的には森林とほぼ変わりがないとされているのです。

草原地帯は産業革命前の1700年の時点から半分以下に減少しており、森林の損失分とあわせると二酸化炭素を吸収する土地の面積が半分まで減っていることがわかります。
 

泥炭湿地


海と陸地の間にある泥炭湿地についても見ておきましょう。泥炭湿地は東南アジアに多く存在し、どの生態系よりも多くの炭素を蓄えると考えられています。

泥炭湿地は動物や植物が水の中で分解されずに数千年堆積した結果、炭素を多く含む泥炭ができあがった低湿地です。川の下流に位置し、常にじめじめして水はけの悪い土地であることから、開発の対象となりづらかったものの、最近では火入れが行われたり開発されたりした結果、貯留されていた温室効果ガスが泥炭から排出され、気候変動に影響を与えています。

1970年以降、35%の湿地が失われており、これは森林の消失の3倍の速さであると言われています。

耕作地・牧草地


耕作地や牧草地などの農地では植物を育てているため、二酸化炭素を吸収する役割を果たしていると考えられがちかもしれません。実際には植物に与える肥料や収穫の際に使われるエネルギーの多さから、二酸化炭素の排出源になっています。

1700年には耕作地、牧草地あわせて生物が生息できる陸地面積の9%でしたが、2018年にはともに5倍になり両方で46%と、陸地面積の半分に迫る勢いで増えてきました。

カナダやスペイン、ボルトガルなどの耕作地では温室効果ガスの排出削減を目指してカーボンファーミングと呼ばれる農法が進められるなど、農地を二酸化炭素の吸収源とするための動きが活発化しています。また水田では中干しと呼ばれる水の管理方法によってメタンガスの排出量を減らす工夫がされています。

牧草地の増加は食肉、特に牛肉を生産するための土地が増えたことが大きな理由です。下のグラフからわかるように、100グラムあたりの牛肉を生産するために排出される温室効果ガスは49.89kgで、羊の約2.5倍、豚の7倍弱、鶏の8.7倍となっています。

(出典:Greenhouse gas emissions per 100 grams of protein | Our World in Data


最後に、地球の表面積の7割を占める海と二酸化炭素との関係も確かめておきましょう。海と大気の間では常に、二酸化炭素のやり取りが行われています。全体的に見ると海が二酸化炭素を吸収する量が排出量を上回るため、海は二酸化炭素の吸収源であると考えられます。

ただし海の二酸化炭素吸収量は海域や季節、風速、年などによって大きく変動するのです。今後、気候変動が進むと海の二酸化炭素吸収能力は下がると予想されています。

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下記は当記事執筆の際に参考にした情報のリストです。より詳しく知りたい内容については、ぜひリンク先をご覧ください。

特集「気候変動と世界の森林」|国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 季刊 森林総研 No.46 

気候変動と森林・湿地との関係について。また二酸化炭素の排出量を減らすための活動とともに、変動する気候に適応するための対策について解説する

草原の炭素の動きを探る|国立研究開発法人 国立環境研究所

森林と草原が気候変動に対して果たす役割と、中国の青海・チベット草原の土壌炭素の蓄積量の多さについての研究

科学技術の潮流 -日刊工業新聞連載-第192回「CO2吸収 農地を活用」|CRDS研究開発戦略センター

農地を二酸化炭素の吸収源に転換するための研究

世界湿地概況|環境省

世界の湿地の重要性や現在の状況、湿地と人間との関わり、課題と今後の対応策について

農林水産分野における温暖化対策 農地による炭素貯留について|農林水産省

気候変動問題における農地の役割と現状

農業で地球温暖化に立ち向かう ~水田からのメタン抑制と高温耐性のイネ育種~|国立研究開発法人 科学技術振興機構

水田における気候変動に対する2つの対策

海洋による二酸化炭素の吸収・放出の分布|気象庁

海域や地域、二酸化炭素の濃度、風速、水温、季節などさまざまに影響を受ける海水中の二酸化炭素の動きを解説